【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船

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贈った事を、覚えていて

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周りが薄暗くなり始めた頃、ようやっとミュラーは自分の邸へと帰宅出来た。

長時間待たせているレオンにまずは謝らなくちゃ、と急いで邸宅の玄関へと早足で向かうと、その玄関からレオンがひょっこりと顔を出した。

「…レオン様!?」
「おかえり、ミュラー。ごめんね、急に」

急いでレオンの元へ向かうミュラーに、レオンは申し訳なさそうに眉根を下げたままそう言葉を伝える。
そのレオンの様子をよく見てみれば、遊んでくれていたのだろう。レオンの腕の中でまだ幼い弟、ディオルトが寝息を立てている。

「レオン様…!ごめんなさい、ディオがご迷惑をおかけしたんじゃあ…」
「ああ、大丈夫だよ。久しぶりに会えたからディオもはしゃいでしまったようだ。さっき眠ったから起こさないようにしよう」

ディオルトを引き取るようにミュラーが両手を差し出すが、レオンは起こしてしまうから、と笑って断る。
長時間待たせて、尚且つ弟の面倒も見てもらっていた、という事にミュラーは申し訳ない、という気持ちが強くなる。

2人で話しながらゆっくりとサロンへと向かう。
向かう間も、ミュラーは申し訳なさそうに何度も謝るが、レオンはカラカラと笑って気にするな、と言うばかりだ。

サロンに到着し、控えていた侍従へレオンの腕の中にいたディオルトを託すと、メイドがお茶の準備を始める。

「どうしても今日、ミュラーに渡したい物があって我儘を通して来てしまったんだ。」

隣に座ってもいいか?と言葉を続けるレオンに、ミュラーは戸惑いながらも頷く。
いつもは対面で座り話すのだが、直接渡したいのだろう。レオンがミュラーからほど近い場所に腰掛ける。

その瞬間、ふわりとレオンから薫る爽やかなシトラスの香りがミュラーの鼻腔を擽り、きゅうと胸が軋む。
レオンは煌びやかな刺繍が施されたコートの内ポケットから細長い箱を取り出すと、綺麗にラッピングされたその美しい贈り物をミュラーに手渡す。

「ミュラーが成人の舞踏会に着るドレスに、もし良かったらこれを付けて来てくれたら嬉しい」
「…えっ」

センスがなかったらごめんね?なんて笑いながら渡されたその贈り物をミュラーはじっと見つめる。
美しい刺繍が施された飾り布に覆われ、リボンで可愛らしく彩られたその贈り物を見て、ミュラーはドキドキと鼓動が弾むのを感じた。

「…開けても、いいですか?」
「ああ、気に入ってくれると嬉しいんだが…」

逸る気持ちを抑え、ミュラーは震える指先でそっとその包みを開いていく。
上蓋を開けると、その下に贈り物があるようでミュラーはそっとその上蓋をかぱり、と開けた。

「──綺麗…」

そのレオンから贈られた髪飾りと、ブローチだろうか?2つの花を模したピンクと白い可愛らしく、だが美しく麗凛な細工にほぅ、と感嘆の溜息が零れる。
髪飾りは繊細で華やかなデザインで、花々を細身の2連のチェーンで繋ぐようにしており、紫色の花をイメージしているのだろうムーンストーンが使用され、差し色にホワイトトパーズの宝石が散りばめられ、ひと目でとても上質で上品な装飾品である事がわかる。
センスがない、なんていうレオンの言葉に全力で否定したくなってしまう程素晴らしい贈り物だ。

「レオン様、本当にこちら頂いてもいいんですか…?」
「ああ。ミュラーを思って選んだから、ミュラーに貰ってもらわないと悲しい」

つけようか、とレオンがおもむろに髪飾りを取り出すと、ミュラーの髪の毛に遠慮がちに触れる。
ミュラーはドキドキと高鳴る鼓動に、レオンの方へ視線をやらないようにするのが精一杯で頬に熱が集まってくる。
自分の耳元で、金属同士がしゃら、と触れ合う音が聞こえて
レオンの息遣いも聞こえてくるその近さに頭がくらくらとしてきそうだ。

「──出来た。うん、やっぱり凄く似合ってる。」

髪飾りを付け終わったのだろう。
レオンが遠ざかる気配がして、ミュラーはそっとレオンの表情を伺った。
優しく細められたレオンのその瞳に、今まで感じた事がなかった熱が一瞬煌めいた。まるで愛おしむようなその視線に、ミュラーはどきり、と鼓動を弾ませるとぱっとレオンから視線を逸らした。

─あんな表情で見られていたなんて…

愛おしい者を見るようなその視線と表情にミュラーは感謝の言葉を紡ぐのがやっとで、何か他に言葉を…!と考えている内にレオンがおもむろにソファから立ち上がる。

「ミュラー、忙しい時期に無理矢理時間を取ってもらってすまない、ありがとう。渡したかった物も渡せたし、そろそろお暇するよ。」


レオンはそう言ってミュラーへ贈った髪留めに指を這わし、そのままゆっくりと指先を離した。

行ってしまう。
何か言おうとして、でも何を言えばいいかわからなくてミュラーは何度も自分の唇を動かした。
諦める、と決めたのだから以前のように求婚する事は出来ないし、断られると分かっている以上したくない。

結局、ミュラーは何も言葉を発する事が出来ずに、レオンに向かって「お見送り致します」と答えることしか出来なかった。







ハドソン家の玄関口までレオンと連れ立って向かう。
玄関を出た所で、レオンが「ここまででいいよ、ありがとう」と微笑んでミュラーに中に入るよう促す。

「ミュラー、今日は俺の我儘に付き合ってくれてありがとう。…成人まであと少しだね、当日会えるのを楽しみにしているよ」
「こちらこそ、こんなに素敵な贈り物をありがとうございました…!当日、必ず付けて行きます!」

うん、と嬉しそうにレオンは笑う。

「ミュラー、覚えていて…俺が贈った事を…俺の気持ちを…」

ぽそり、と消え入りそうな程小さな声でレオンは呟くと
アルファスト侯爵家の馬車の方へと足を進めていく。

「ミュラー、また。夜風が冷たいから、早くお入り」

そう言って馬車に乗り込むレオンを、ミュラーはただただじっと見つめた。
消え入りそうな程、小さく呟いたレオンの言葉はしっかりとミュラーに届いていた。
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