17 / 42
贈った事を、覚えていて
しおりを挟む周りが薄暗くなり始めた頃、ようやっとミュラーは自分の邸へと帰宅出来た。
長時間待たせているレオンにまずは謝らなくちゃ、と急いで邸宅の玄関へと早足で向かうと、その玄関からレオンがひょっこりと顔を出した。
「…レオン様!?」
「おかえり、ミュラー。ごめんね、急に」
急いでレオンの元へ向かうミュラーに、レオンは申し訳なさそうに眉根を下げたままそう言葉を伝える。
そのレオンの様子をよく見てみれば、遊んでくれていたのだろう。レオンの腕の中でまだ幼い弟、ディオルトが寝息を立てている。
「レオン様…!ごめんなさい、ディオがご迷惑をおかけしたんじゃあ…」
「ああ、大丈夫だよ。久しぶりに会えたからディオもはしゃいでしまったようだ。さっき眠ったから起こさないようにしよう」
ディオルトを引き取るようにミュラーが両手を差し出すが、レオンは起こしてしまうから、と笑って断る。
長時間待たせて、尚且つ弟の面倒も見てもらっていた、という事にミュラーは申し訳ない、という気持ちが強くなる。
2人で話しながらゆっくりとサロンへと向かう。
向かう間も、ミュラーは申し訳なさそうに何度も謝るが、レオンはカラカラと笑って気にするな、と言うばかりだ。
サロンに到着し、控えていた侍従へレオンの腕の中にいたディオルトを託すと、メイドがお茶の準備を始める。
「どうしても今日、ミュラーに渡したい物があって我儘を通して来てしまったんだ。」
隣に座ってもいいか?と言葉を続けるレオンに、ミュラーは戸惑いながらも頷く。
いつもは対面で座り話すのだが、直接渡したいのだろう。レオンがミュラーからほど近い場所に腰掛ける。
その瞬間、ふわりとレオンから薫る爽やかなシトラスの香りがミュラーの鼻腔を擽り、きゅうと胸が軋む。
レオンは煌びやかな刺繍が施されたコートの内ポケットから細長い箱を取り出すと、綺麗にラッピングされたその美しい贈り物をミュラーに手渡す。
「ミュラーが成人の舞踏会に着るドレスに、もし良かったらこれを付けて来てくれたら嬉しい」
「…えっ」
センスがなかったらごめんね?なんて笑いながら渡されたその贈り物をミュラーはじっと見つめる。
美しい刺繍が施された飾り布に覆われ、リボンで可愛らしく彩られたその贈り物を見て、ミュラーはドキドキと鼓動が弾むのを感じた。
「…開けても、いいですか?」
「ああ、気に入ってくれると嬉しいんだが…」
逸る気持ちを抑え、ミュラーは震える指先でそっとその包みを開いていく。
上蓋を開けると、その下に贈り物があるようでミュラーはそっとその上蓋をかぱり、と開けた。
「──綺麗…」
そのレオンから贈られた髪飾りと、ブローチだろうか?2つの花を模したピンクと白い可愛らしく、だが美しく麗凛な細工にほぅ、と感嘆の溜息が零れる。
髪飾りは繊細で華やかなデザインで、花々を細身の2連のチェーンで繋ぐようにしており、紫色の花をイメージしているのだろうムーンストーンが使用され、差し色にホワイトトパーズの宝石が散りばめられ、ひと目でとても上質で上品な装飾品である事がわかる。
センスがない、なんていうレオンの言葉に全力で否定したくなってしまう程素晴らしい贈り物だ。
「レオン様、本当にこちら頂いてもいいんですか…?」
「ああ。ミュラーを思って選んだから、ミュラーに貰ってもらわないと悲しい」
つけようか、とレオンがおもむろに髪飾りを取り出すと、ミュラーの髪の毛に遠慮がちに触れる。
ミュラーはドキドキと高鳴る鼓動に、レオンの方へ視線をやらないようにするのが精一杯で頬に熱が集まってくる。
自分の耳元で、金属同士がしゃら、と触れ合う音が聞こえて
レオンの息遣いも聞こえてくるその近さに頭がくらくらとしてきそうだ。
「──出来た。うん、やっぱり凄く似合ってる。」
髪飾りを付け終わったのだろう。
レオンが遠ざかる気配がして、ミュラーはそっとレオンの表情を伺った。
優しく細められたレオンのその瞳に、今まで感じた事がなかった熱が一瞬煌めいた。まるで愛おしむようなその視線に、ミュラーはどきり、と鼓動を弾ませるとぱっとレオンから視線を逸らした。
─あんな表情で見られていたなんて…
愛おしい者を見るようなその視線と表情にミュラーは感謝の言葉を紡ぐのがやっとで、何か他に言葉を…!と考えている内にレオンがおもむろにソファから立ち上がる。
「ミュラー、忙しい時期に無理矢理時間を取ってもらってすまない、ありがとう。渡したかった物も渡せたし、そろそろお暇するよ。」
レオンはそう言ってミュラーへ贈った髪留めに指を這わし、そのままゆっくりと指先を離した。
行ってしまう。
何か言おうとして、でも何を言えばいいかわからなくてミュラーは何度も自分の唇を動かした。
諦める、と決めたのだから以前のように求婚する事は出来ないし、断られると分かっている以上したくない。
結局、ミュラーは何も言葉を発する事が出来ずに、レオンに向かって「お見送り致します」と答えることしか出来なかった。
ハドソン家の玄関口までレオンと連れ立って向かう。
玄関を出た所で、レオンが「ここまででいいよ、ありがとう」と微笑んでミュラーに中に入るよう促す。
「ミュラー、今日は俺の我儘に付き合ってくれてありがとう。…成人まであと少しだね、当日会えるのを楽しみにしているよ」
「こちらこそ、こんなに素敵な贈り物をありがとうございました…!当日、必ず付けて行きます!」
うん、と嬉しそうにレオンは笑う。
「ミュラー、覚えていて…俺が贈った事を…俺の気持ちを…」
ぽそり、と消え入りそうな程小さな声でレオンは呟くと
アルファスト侯爵家の馬車の方へと足を進めていく。
「ミュラー、また。夜風が冷たいから、早くお入り」
そう言って馬車に乗り込むレオンを、ミュラーはただただじっと見つめた。
消え入りそうな程、小さく呟いたレオンの言葉はしっかりとミュラーに届いていた。
312
あなたにおすすめの小説
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい
廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!
王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。
ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。
『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。
ならばと、シャルロットは別居を始める。
『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。
夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。
それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
彼が愛した王女はもういない
黒猫子猫
恋愛
シュリは子供の頃からずっと、年上のカイゼルに片想いをしてきた。彼はいつも優しく、まるで宝物のように大切にしてくれた。ただ、シュリの想いには応えてくれず、「もう少し大きくなったらな」と、はぐらかした。月日は流れ、シュリは大人になった。ようやく彼と結ばれる身体になれたと喜んだのも束の間、騎士になっていた彼は護衛を務めていた王女に恋をしていた。シュリは胸を痛めたが、彼の幸せを優先しようと、何も言わずに去る事に決めた。
どちらも叶わない恋をした――はずだった。
※関連作がありますが、これのみで読めます。
※全11話です。
私のことは愛さなくても結構です
ありがとうございました。さようなら
恋愛
サブリナは、聖騎士ジークムントからの婚約の打診の手紙をもらって有頂天になった。
一緒になって喜ぶ父親の姿を見た瞬間に前世の記憶が蘇った。
彼女は、自分が本の世界の中に生まれ変わったことに気がついた。
サブリナは、ジークムントと愛のない結婚をした後に、彼の愛する聖女アルネを嫉妬心の末に殺害しようとする。
いわゆる悪女だった。
サブリナは、ジークムントに首を切り落とされて、彼女の家族は全員死刑となった。
全ての記憶を思い出した後、サブリナは熱を出して寝込んでしまった。
そして、サブリナの妹クラリスが代打としてジークムントの婚約者になってしまう。
主役は、いわゆる悪役の妹です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる