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しおりを挟むナタリアは何処か興奮したように頬を染めてヴィルジールに駆け寄ると、あろう事かそのままヴィルジールの腕に自分の腕を絡めて話し掛ける。
ナタリアのその行動に、流石にヴィルジールもギョッと瞳を見開くと「ナタリア嬢!」と鋭い声を上げる。
「──この会場の様子が分からないのか……っ! もう少し場に相応しい対応をしてくれ……っ」
「会場の様子、ですか?」
ヴィルジールの言葉にナタリアはムッとしたような表情を浮かべると、ゆっくりとヴィルジールの周りを見回す。
ヴィルジールを始め、その場には壇上から降りて来ているバルハルムドの姿もあり、ナタリアにとっては敵とも言えるリスティアナも直ぐ傍にいる。
そして、リスティアナの前には良く分からない女性がいて。
「……あの女性は誰ですか? 見た事の無い人ですが……何処のご令嬢ですか?」
ナタリアの言葉に、ティシアの後方に居た護衛達が殺気を放つ。
自国の王族、王女殿下に何と失礼な態度を──と、そう思ったのだろう。
だが、ティシアは護衛達を止めるように片手を上げて抑えると口元を吊り上げる。
その様子を見たヴィルジールは顔色を悪くさせると慌ててナタリアを止めにかかる。
ナタリアのあまりもの空気の読めない様子や、初対面の人間に対する配慮の無さに、周囲に居た学園生達も流石に表情を曇らせてナタリアに侍っていた者達もナタリアから視線を外した。
「ナタリア嬢……! 王女殿下の前で何と言う言葉を……! 頭を下げてくれ!」
「王女殿下? アロースタリーズには王女様はいらっしゃいませんけど……」
「我が国では無い……! ウルム国のだ……!」
「──まぁ!」
ヴィルジールの言葉にナタリアはぱあっと顔を輝かせると、いそいそとカーテシーを行う。
「お初にお目にかかりますわ、王女殿下。私はナタリア・マローと申します」
にこり、と笑顔を浮かべるナタリアに周囲は固唾を飲んでただ見守る事しか出来ない。
ぴりぴり、とした緊張感溢れる空間にティシアは耐えられなくなったのだろう。
声を上げて笑うと、ちらりとバルハルムドに視線を向けた。
「──はははっ! これ程とは、恐れ入りました、バルハルムド殿」
「申し訳無い、ティシア殿……直ぐに下がらせよう」
「いえ、なに……彼女の育った環境を鑑みればこれでも及第点でしょう?」
何処か含みのあるティシアの言葉に、ヴィルジールは「え」と小さく反応するとティシアと自分の父親であるバルハルムドに視線を向けた。
何の話をしているのか分かっていない様子のヴィルジールに、バルハルムドは呆れたような視線を向けるとヴィルジールに向かって唇を開いた。
「──此度の一件で、直ぐにナタリア・マロー嬢の子爵家を調べた。……お前は調べなかったのか? 知った上で行動しているのだとばかり思っていたのだが……」
「な、なんの事でしょうか陛下……子爵家を、調べる……?」
「……ナタリア・マロー嬢は幼い頃に引き取られた子供だ。……子が出来なかった子爵家当主が外で子を作った婚外子……。ナタリア嬢を引き取った後に跡取りである長男が生まれた為、子爵家は今は跡取りは居るが……。ナタリア嬢は子供の頃は市井で暮らしていて、貴族としての礼儀や教養は十歳の頃から学び始めている」
「──えっ、ナタリア嬢が……?」
「だからこそお前は正式にナタリア嬢との関係を発表しなかったのだと思っていたのだが……それすらも調べていなかったのか……? 王家に入る者の背後は調べるのは当たり前だろう」
バルハルムドの言葉に益々顔色を悪くしたヴィルジールは慌ててナタリアに視線を向けるが、ナタリアはきょとんとした顔でヴィルジールへ「そうですよ」と肯定した。
「あの夜……私は殿下にそうお伝えしたのですが……。殿下は"関係無い"と仰いましたよ? ナタリアがナタリアであればそれだけで良い、と仰って下さったのです」
うっとりと瞳を細めてそう告げるナタリアに、ヴィルジールは欲に走ったあの日の自分を心の底から悔いた。
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