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しおりを挟むヴィルジールが何も言葉に出来ずにその場に佇んでいると、ウルム国のティシアが冷たい微笑みを張り付けたまま一歩、一歩足を進めてヴィルジールに近付いて来る。
「お初にお目にかかる、ヴィルジール殿。私はウルム国が第三王女、ティシア・ラム・ウルム。こらから長い付き合いとなるが、よろしく」
凛とした佇まいに、王族としての風格。ティシアがその場に存在している、と言うだけで、対面している、と言うだけでぴりぴりとした緊張感を感じる。
ヴィルジールが言葉に詰まっていると、ティシアは情けない者を見るように瞳を細め、ヴィルジールの後方に居るオルファに何処か似た女性に目を向けた。
「──あら、あそこに居るのは……。オルファ殿。あそこに居るのがオルファ殿の妹君?」
ティシアに話し掛けられたオルファは「はい、あちらに居るのは私の妹、リスティアナと申します」と答え、自分の事を口にしたティシアにリスティアナは胸に手を当てたまま深く頭を下げる。
「やっぱりそうね。二人共、何処かお父上のオースティン殿の面影があるから直ぐに分かったわ。けれど、リスティアナ嬢はお母様似かしらね? 雰囲気はオースティン殿と似ているけど、女性らしい美しさはお母様譲りかしら」
何処か納得したようにふんふん、と首を振るティシアは更に言葉を続ける。
「リスティアナ嬢。ここは公式の場では無いので、そんなに畏まらなくて大丈夫よ。顔を上げて」
「──はい」
リスティアナはドキドキと緊張に鼓動を早めながら顔を上げる。
流石、アロースタリーズよりも国土の広いウルム国の王族である。ヴィルジールと相対している時よりもひりつく空気を醸し出しているティシアに、リスティアナは顔を上げるとそっとティシアに視線を向けた。
リスティアナが顔を上げた事にティシアは先程までヴィルジールに向けていたような冷たい表情は引っ込め、微笑みを浮かべるとちょいちょい、とリスティアナに向かって手招きしている。
ティシアに手招かれるまま、リスティアナはティシアに近付くと数ヶ月ぶりに見る自分の兄、オルファの顔も良く見え、オルファがティシアの後ろで緊張感無くリスティアナに手を振っている。
(お兄様は、もう……っ!)
ティシアと長く共に過ごしていてこの緊張感、王族と言う存在感に慣れてしまったのだろう。
だが、リスティアナにはオルファのようにあっけらかんとする勇気は今はまだ無い。
「リスティアナ嬢。オースティン殿とオルファ殿にはとてもお世話になったのよ。だから貴女とも会って見たかったの」
「そのように言って頂けて光栄でございます」
「ふふ、硬くならないで、と言っても……まだ少し時間が掛かりそうね? それより……今回は大変だったわね。リスティアナ嬢の心中察して余りあるわ。元婚約者がしでかした事……大変だったでしょう?」
ティシアの言葉に、周囲に居た貴族達も、ヴィルジールもギョッとして表情を歪ませる。
ヴィルジールがしでかしてしまった事まで既にティシアの耳に入っているのだ。
(なるほど……だから王女殿下のあの視線、ね……)
リスティアナはティシアの言葉に納得すると、深々と頭を下げる。
「お気遣い頂きありがとうございます。そのようなお言葉を王女殿下より賜れた事で今までの辛さも全て吹き飛んでしまうようですわ」
「ふふっ、そう言って貰えて私も嬉しいわ。……私が彼の伴侶となるからには"二度と"そのような愚かな真似はさせないから。……この国のご令嬢も、安心するでしょう」
ティシアにちらり、と視線を向けられたヴィルジールはびくり、と体を震わせると咄嗟に俯く。
ティシアの凛とした声音は不思議と良く響き、この卒業パーティー会場の創りも影響しているのだろうが室内に声が響き、ティシアがこの会場に入って来るまでは楽団の音楽が奏でられていたがそれもいつの間にか止んでいた為、周囲に声が届いてしまっている。
ヴィルジールが羞恥により頬を染めている中、静かだったパーティー会場に何処かバタバタと品なく響く足音が良く聞こえて来て、その足音にティシアは勿論、リスティアナも、オルファも顔を顰めた。
「あら、可愛らしい足音が……誰か小さいお子様でも連れて来ていらっしゃるのかしら?」
「失礼、ティシア王女。衛兵、近付く者を確認せよ」
ティシアが口にした言葉に、この国の国王バルハルムドは一瞬だけ眉を寄せると直ぐに衛兵に向かって唇を開いた。
衛兵が返事を返し、行動に移す前にその足音の主が会場に到着する方が早かったのだろう。
パーティー会場の、休憩場所である客室に繋がる廊下から一人の女性がひょこり、と姿を表した。
ティシアが口にした子供、と言うような年齢では無く、その女性はナタリア・マローで。
ナタリアはしん、と静まり返っているパーティー会場にきょとん、と瞳を瞬かせたがヴィルジールの姿を確認するとぱっ、と表情を明るくさせるとヴィルジールに向かって駆け寄って来る。
「殿下! もうあの壇上から降りられたのですねっ、これでお話出来ますね!」
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