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第七十五話

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「──いってぇ!」
「──っ、ネウス様!?」

ミリアベルとカーティスが居る談話室に、突如姿を表したネウスの姿は、衣服が破れ肌の至る所からは赤い血が滲み、血が流れて衣服を汚している箇所も多数ある。

突然姿を表したネウスに一瞬驚いたミリアベルとカーティスだったが、状況を理解するとネウスへと駆け寄る。

「ネウス様、大丈夫ですか…!?」
「ノルトのやつ……っ、結構派手にやりやがって……!」

表情を歪めながら、談話室のソファにどさりと腰を下ろしたネウスにミリアベルは駆け寄ると、ネウスに治癒魔法を施す。
カーティスはネウスに向かって「手筈は如何です?」と話し掛けるとネウスはカーティスに視線を向ける。

「ああ、まあ上手くいったんじゃねえのか?ノルトの元に心配そうに駆け寄る人間達が見えたし、今頃は手厚い手当を受けてると思う」
「──治癒、の掛かりが悪いですね……」

ネウスが荒い息を零しながら状況を説明していると、ネウスの治癒に当たっていたミリアベルが困惑するように声を上げる。

ミリアベルの言葉に、カーティスが改めてミリアベルが発動している魔法に目を向けると、確かに治癒魔法の効きが芳しくないようで傷の治りが遅い。
ベスタ・アランドワを治癒していた時は驚く程早く傷が修復されていたのに、何かがミリアベルの治癒を妨害しているようだ。
不思議そうにしているミリアベルとカーティスに、ネウスは「ああ」と呟くと、ミリアベルとカーティスはネウスに視線を向ける。

「もしかしたら、人間と魔の者に流れる魔力の質の違いで修復が遅いのかもしれないな……俺達魔の者に流れている魔力は人間とは異なり、人間の、ミリアベルの治癒の魔法を異質な物だと判断している為に効きが悪いのかもしれないな」
「え……っ」

ミリアベルが焦ったように、困惑したような表情を浮かべるが、ネウスは自分にかざされていたミリアベルの腕を掴むと、「もう大丈夫だ」と治癒を終わらせる。
大丈夫と言ってもまだネウスの体は大きな傷を治癒魔法で治してはいるが、細かい小さな傷はまだ治りきっていない。

「──ここまで治れば平気だ。俺達は人間より元々治癒能力が高いから明日になればあとの傷は塞がってるだろう」

ネウスは自分の腕を確かめるようにぐるぐると回して確かめると、ミリアベルの頭を撫でる。

「ミリアベル、助かった。……あとは、ノルトからの連絡を待つ感じか?」
「はい。その予定ですが……」
「分かった。もしノルトから連絡があれば起こしてくれ。少し魔力の回復の為に寝る」

ネウスがぎしり、とソファから立ち上がると未だ心配そうに見つめて来るミリアベルに、ネウスは揶揄うように視線を向けると明るい声で「ミリアベル、一緒に寝るか?」と言ってくる。

「──寝ません!」

ミリアベルは真っ赤な顔でネウスに言い放つと、ネウスは楽しそうに「残念」と言葉を残して自分に充てられた部屋へと戻って行った。











王城のとある一室。

薬品の匂いがつん、と鼻をつきノルトは沈んでいた意識が浮上してきた事に気付くと、瞼を上げないまま周囲を窺う。

複数人の気配があり、誰かがノルトの腕に触れている感触がある。
その箇所からじんわりと暖かい魔力が流れ込み、ノルトの傷を治しているようだ。

「──治癒魔法の効きが悪いですね、魔の者の王と呼ばれる方の魔力で傷付けられたみたいなので効きが悪いようです」
「──そうか、だがしっかりと完治させるように。今、あの王にまともに対抗出来るのはスティシアーノ卿くらいだろう……あと、その体から魔の者の王である男の魔力を抽出する事は可能か?」
「スティシアーノ卿の体に入り込んでしまっている為、抽出には激しい痛みを伴ってしまいます……そのような事をしてしまえば体力を消耗し、傷の治りにも影響しますので……」
「──そうか、分かった。取り敢えずしっかりと治すようにな」
「はい、大司教様」

男達の会話に耳を傾けていたノルトは、「大司教」と言う言葉に動揺する。

(何故、教会の大司教がここに……?)

治癒魔法の使い手から治癒を施されていると言う事は、ノルトは自分が居る場所は先程の謁見の間から移動して、治療を行う一室に運ばれたのだと理解する。

何故教会の大司教がこの場に姿を表したか分からないが、ネウスの魔力を抽出出来ないかと聞いて来た事から目的は魔の者の魔力なのか?と考える。
万が一そうだとしても、魔の者の魔力を何の為に使うつもりなのかはさっぱり分からない。

(だが……結局教会も陛下と一緒に奇跡の乙女を作り出す事に加担していたんだから、禄な使い道ではないだろうな)

ノルトがそう考えていると、誰かがこの部屋に入って来たようで、周囲に居た気配がざわりと揺らぐ。

「──これは、第三王子殿下……!このような場所に何故……!」
「ノルトは、私の兄のような存在だ。見舞っても可笑しくないだろう?」

聞き覚えのある少年の声が聞こえて来て、ノルトはゆっくりと瞼を開いた。
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