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連載
第七十六話
しおりを挟む「──スティシアーノ卿!目覚められましたか!」
ノルトの治癒にあたっていた治癒魔法士がほっとしたように表情を綻ばせ、喜色に満ちた声を上げる。
ノルトは深く息を吸い込むと、第三王子──ランドロフに視線を向けると唇を開く。
「殿下……このような格好で申し訳ございません、ご容赦下さい……」
「気にしないでくれ。寧ろ、魔の王を命懸けで止めて、命があった事に感謝する」
ランドロフは周囲に居た者達に対して片手を上げると、ランドロフの意図を理解した数人の治癒士達は頭を下げると部屋から退出して行く。
ランドロフは、自分の護衛達にも視線を向けると退出を促す。
護衛達はランドロフに一礼すると部屋から出て行き、室内にはノルトとランドロフ二人だけとなった。
「──ノルト、防音結界をお願い出来るか?」
「畏まりました」
ランドロフから頼まれ、ノルトはベッドに横になったまま、防音結界をこの部屋に掛ける。
ネウスに斬り付けられた傷がズキリ、と痛みノルトは眉を顰めると深い溜息を吐いて枕に深く頭を沈みこませた。
「──ふふ、思ったよりやられたみたいだな?」
「ですね、ネウスも手加減はしてくれましたが元々力がある者だから、結構間一髪でしたよ」
タイミングが少しでもズレれば致命傷となっていたかもしれない。
それでも、ネウスは浅くノルトの肌を斬り付けてくれたがそれでもこの痛みだ。
避けるのがあと一瞬でも遅ければネウスが振るう剣の切っ先が自分の肌、肉に深く突き刺さっていたかもしれない。
「ああ、フィオネスタ嬢が居てくれたらどんなに良かったか……」
ノルトは自分の額の上に腕を持ってくると光を遮るように瞼を閉じる。
「フィオネスタ……、ああ。ミリアベル・フィオネスタ嬢か。聖魔法の途中覚醒者だな。彼女の力は相当なのか?」
「ええ。奇跡の乙女等足元にも及ばない程の力の持ち主です。その力の強さから魔の者の王であるネウスにも好意を寄せられています」
「ふむ……魔の者すら虜にする力か……父上──陛下に知られると危険だな?」
ランドロフの言葉に、ノルトは腕をずらして視線を向けるとこくりと頷く。
「先程、この部屋に大司教が居たみたいですけれど……殿下は何故大司教がここに来られていたか知っておりますか?」
「ああ……恐らく陛下に謁見に来たのだろう。今回の討伐任務は奇跡の乙女を魔の者へ受け渡す手筈だった……その代わりに魔の者から何か見返りを欲していたのだろう。それは大司教も欲しがっていたみたいだ」
「──っ、!」
ランドロフの言葉に驚き、ノルトはその場に勢い良く起き上がろうとしたがネウスに斬られた傷の痛みが激しく体に走り、そのままベッドに再び沈む。
「──っ、そこまで、情報を得ていたんですね」
この情報はまだランドロフには共有していなかった。
殿下の父親が魔の者と繋がっている、など手紙で報告等出来ず、会った際に直接顔を合わせて報告するつもりだったのだが、ランドロフは既に魔の者と国王が秘密裏に取引を行おうとしていた事を掴んでしまったらしい。
ランドロフは一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべるが、すぐにこの国の王族と言う仮面を被り直すとノルトに向かって唇を開く。
「ああ……。私には優秀な影がついているからな?」
「ですが……魔の者からの見返りはまだご存知ではないのですね?」
ノルトはネウスが言っていた事を思い出し、ランドロフに伝える。
操縦の魔法が欲しいと言う、その意味を自分の想像を交えてランドロフに伝えて行くと、ノルトの話を聞いているランドロフの顔色がどんどんと悪くなって行く。
「──何という、愚かな事を……」
ノルトの言葉を全て聞き終わると、ランドロフは自分の額を押さえて項垂れる。
本来、国の為に民の為に考え行動しなければいけない国の代表が自分の私欲の為に魔の者と取引を行おうとしている。
今、周辺諸国と争い等を起こしてしまえばその争いが火種となり、その戦争はどんどんと周囲に広がっていってしまうだろう。
小国でもなく、大国でもない自分達の国が他所に戦争を仕掛ける。
そうなってしまえば国交を行っていた国との関係も悪化するし、同盟を結んでいた国を裏切るような行為になってしまう。
そして、陸続きの国同士が争いを始めればその争いは周囲を巻き込んで大きくなっていってしまう可能性だってあるのだ。
「──父上は、私の母上を亡くしてからおかしくなってしまった……」
ランドロフは疲れたようにぽつりと呟くと視線を落とす。
いくら王族とは言え、まだ成人前の年若いランドロフの肩に伸し掛る責任はとても重い。
「──こんな事態になってしまってランドロフには申し訳ないと思っているよ……」
「疲れた時はノルト兄様に寄りかからせてくれ」
王族と臣下、ではなくただの従兄弟同士として話す。
ノルトの言葉に、嬉しそうに笑うランドロフは年相応の笑顔で笑った。
「──それじゃあ、教会の大司教の目的は私の影を動かして探らせるよ」
「ええ、お願いしますよ殿下」
あれから、暫しの間世間話をしていたがランドロフはノルトに向かって声のトーンを落として大司教の件を口にすると、ノルトもこくりと頷く。
「任せてくれ。怪我が治る頃には私がノルトを魔道士団に送ろう。安心してくれ」
「ありがとうございます」
ランドロフが腰掛けていた椅子から腰を上げると、ノルトは部屋に掛けていた防音結界の魔法を解除する。
「では、暫くはしっかり休んで傷の回復に努めてくれ」
「仰せの通りに」
ノルトが言葉を返すと、ランドロフは微笑みながら部屋を出て行った。
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