気付くのが遅すぎた

高瀬船

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「──ラティシア!ラティシアは居るか!?」

フレディは、傷だらけのその青年を抱えたまま荒々しく邸の玄関を開け放つと、自分の妻の名前を叫ぶ。

突然、怪我人を抱えて数人の護衛だけを連れて邸にやってきたフレディの姿に、邸に居た使用人達は驚き、急いでフレディの妻ラティシアを呼びに行った。


フレディが、使用人に怪我人を任せ医者の手配や、部屋の指示をしているとパタパタと駆けて来る足音を聞き、その方向へと視線を向けると、フレディの妻であるラティシアが慌てた様子で玄関前に姿を表した。

「あなた!?どうしましたか……!?」
「──ああ、ラティシアすまない……!想定外の事が起きた……!これからこの邸に聖女様と近衛騎士団が暫し滞在する……、もてなしの準備を……!」

フレディの言葉に「まあ!」と驚きに瞳を見開くラティシアに、フレディは申し訳無さそうな表情を浮かべると、道中に起こった出来事を説明した。








フレディが先に邸へと戻って数刻後。
フィミリアが乗る馬車が屋敷前に到着した、と言う知らせを受けてフレディはフィミリアを出迎えるように正面玄関へと向かった。

フレディが外へと出れば、丁度フィミリアが馬車から降り立った場面で、侍女のミアもフィミリアの隣で馬車から荷物を取り出している所だった。

「──フィミリア!」
「お父様……!」

フレディが声を掛ければ、ほっとしたように笑顔を浮かべたフィミリアの姿を確認出来、フレディがあの場を後にした後、サミエルや聖女から接触されていない事がフィミリアの態度から分かり、安堵の息を付いた。

フィミリアに接触したがっていたサミエルが、自分が居なくなった後、無理にフィミリアに近付いて居なかった事にフレディは自分の胸を撫で下ろすと、近付いて来るフィミリアに視線を移す。

「お父様、怪我をされた方は大丈夫なのでしょうか……?」
「ん?ああ。今は医者を手配していて、到着待ちだよ。邸の使用人達に応急処置をしてもらい、今は客間で眠っている」
「そうなのですね……命を落としていなくて良かったです……」

フレディとフィミリアは話しながら邸内へと足を踏み入れ、そこで忙しなく動いていたフィミリアの母親、ラティシアと顔を合わせた。

「──お母様!」
「ああ、フィミリア無事に着いて良かったわ……っ、」

久しぶりの母子の再開に、二人はひしっと固く抱き合うと、笑顔で挨拶を交わし合う。

「フィミリア、あなた少し見ない内にまた少し痩せたんじゃない?しっかり食べているの?」

ラティシアがぐいっ、とフィミリアの頬を両手で挟み上向かせると、眉を寄せて心配そうな声音でフィミリアに問い掛ける。
フィミリアは、久しぶりの母親のその言葉に擽ったそうに笑顔を見せると、「しっかり食べていますよ」と回答する。

二人が暫し会話をしている内に、近衛騎士団の面々も邸に到着したのだろう。
俄に邸の外が騒がしくなり始め、フレディは一先ずミアに頼み、フィミリアを自室へと連れて行かせた。





ハーツウィル子爵家のカントリーハウスに到着した近衛騎士団の面々は、それぞれ自分達の荷物を下ろすと、出迎えたフレディとラティシアに挨拶を行い、数日間この邸で休息を取る事を提案され、有難くその提案を受け入れた。

この旅路に独断で着いて来てしまった聖女をどうするかも、王都からの返答を待たねばならない。
数日間待てば王都からの返答もあるだろう、と考えて近衛騎士団はサミエルの指示の元、邸内で休ませて貰う事になった。




「サミエルさん、荷解きが済んだらこの辺りを散策しませんか?景色のとても良い場所がありそうです。サミエルさんと一緒に行きたいわ」
「──聖女様、申し訳ございません。我々は途中で現れた正体不明な人物について確認しなければいけませんし、騎士としてこの邸にいる以上、この邸に住まう人々の安全を確保するのが優先事項となりますので、聖女様にお付き合いする事は出来かねます」

サミエルは、自身に割り当てられた室内にやってきた聖女に対して、視線を向けないままそう言葉を返す。

観光気分でいる聖女とは違い、騎士であるサミエルはこの邸の人々を守る事が第一優先である。
聖女の言葉に従い、この邸から離れて万一の事があってはならないのだ。

サミエルは、それも分からないのか、と些か聖女に対して苛立ちを感じたが、以前の自分は聖女が望むままに行動を共にしていた事を思い出し、過去の自分の行動に舌打ちをしたくなってしまう。

案の定、サミエルの言葉に不満感を顕にした聖女が唇を尖らせて不満そうにしているが、サミエルは聖女の言葉には頷かない。

サミエルは自身が纏っていた外套をバサバサと些か乱雑に脱ぎ捨てると、聖女の横を通り過ぎてフレディの元へと向かう為に部屋を出た。

背後からは聖女の足音が着いて来るが、サミエルは足を緩める事無く、フレディの元へ真っ直ぐに向かった。
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