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「─フィミリア」
目の前の男、サミエルがもう一度フィミリアを呼ぶ。
この声音には今まで感じた事のない、縋るような甘い響きが込められていて、フィミリアは戸惑う。
「サミエル様、どうして─」
どうしてここに、と続けようとしたフィミリアは、ダンスホールの方向から向けられる先程と同じ寒気を孕んだ視線にぞくり、と背筋を凍らせた。
「…ひっ!?」
サミエルの向こう、まっすぐホールの方に怯えた視線を向けるフィミリアに、サミエルは驚き「どうした!?」と気持ち焦りながらフィミリアに駆け寄った。
近付くサミエルに、傍で控えていたミアは二人の接近に一瞬顔を怖ばせるがフィミリアの尋常では無いその怯えように、この場は仕方ないと諦めテラスの入口付近に控えると、二人に背を向けホールに視線を移した。
「フィミリア、どうした、大丈夫か?」
「ぁ、サミエル様…」
近付いて良くわかる。
フィミリアは血の気の引いたような真っ白な顔をしていて、細い肩はストールの下でカタカタと震えている。
その庇護欲を刺激するか細い姿にサミエルは抱きしめたい、という気持ちが自分の中で膨れ上がった。
けれど、自分は現在フィミリアから婚約解消の手続きを行われている身だ。抱き締めようとした両腕を必死に抑え込み、震えるフィミリアに優しく声を掛ける。
「大丈夫だ、フィミリア。落ち着いて深呼吸をしろ」
「─ふ、ぅ、」
ぞくぞくと背筋に奔る悪寒に、フィミリアはじわり、と目尻に涙が浮かんでくる。
サミエルの声は聞こえるが、落ち着きたいのに落ち着けない。
呼吸はどんどん浅く早くなっていき、意味の成さない声が喉から細くこぼれ落ちていく。
こんな全身を這う様な気持ちの悪い視線を感じた事は初めてだった。
目の前まで来てくれたサミエルのお陰でその視線からわずかに隠されるが、先程父親のフレディに話し掛けられた時にその視線はすぐになくなったのに、今はずっと自分にまとわりついている。
(さっきはすぐ視線を感じなくなったのに、何故!?早く消えて、消えて──!!)
初めて感じるその怖気の走る視線に、思考がぐちゃぐちゃになる。耐えきれずフィミリアは目尻からぽたり、と涙を零した。
「──っ触れるぞ」
サミエルの声がすぐ側で聞こえた。
その近すぎる距離から聞こえた声に、「え?」と思う間すらなく、フィミリアの体が強く強く抱きしめられた。
まるで視線から隠すように、すっぽりとその腕の中にフィミリアを覆い隠し腰と首に添えたサミエルの腕でぎゅう、と力強くフィミリアを抱きしめる。
「っサ、ミエル様」
「…大丈夫だ、大丈夫、深呼吸するんだ」
未だ顔色の戻らないフィミリアの瞳を覗き込み、優しく深呼吸を促す。
サミエルはフィミリアを落ち着かせるように背中を擦りながら、ホール内に意識を向ける。
先程から感じるフィミリアへの視線。
それははっきりと自分にも感じ取る事が出来た。不躾に彼女へ欲の孕んだ視線を寄越していた。
あけすけなその視線は、淑女にはおぞましく感じただろう。
その証拠に、フィミリアは軽くパニックになり恐怖で呼吸も乱れ全身が震えている。
「そう、深呼吸をしてゆっくりでいいから」
「…はっ、はっ」
ゆっくりと落ち着けるように背中を摩る掌に、ほぅっと息を付くと、サミエルの低く落ち着いた声音に、フィミリアは靄がかった思考がゆっくりと晴れていくのがわかった。
少し周りを見る余裕が出てきて、そしてサミエルに抱きしめられているこの状況にはた、と気付いた。
目の前の男、サミエルがもう一度フィミリアを呼ぶ。
この声音には今まで感じた事のない、縋るような甘い響きが込められていて、フィミリアは戸惑う。
「サミエル様、どうして─」
どうしてここに、と続けようとしたフィミリアは、ダンスホールの方向から向けられる先程と同じ寒気を孕んだ視線にぞくり、と背筋を凍らせた。
「…ひっ!?」
サミエルの向こう、まっすぐホールの方に怯えた視線を向けるフィミリアに、サミエルは驚き「どうした!?」と気持ち焦りながらフィミリアに駆け寄った。
近付くサミエルに、傍で控えていたミアは二人の接近に一瞬顔を怖ばせるがフィミリアの尋常では無いその怯えように、この場は仕方ないと諦めテラスの入口付近に控えると、二人に背を向けホールに視線を移した。
「フィミリア、どうした、大丈夫か?」
「ぁ、サミエル様…」
近付いて良くわかる。
フィミリアは血の気の引いたような真っ白な顔をしていて、細い肩はストールの下でカタカタと震えている。
その庇護欲を刺激するか細い姿にサミエルは抱きしめたい、という気持ちが自分の中で膨れ上がった。
けれど、自分は現在フィミリアから婚約解消の手続きを行われている身だ。抱き締めようとした両腕を必死に抑え込み、震えるフィミリアに優しく声を掛ける。
「大丈夫だ、フィミリア。落ち着いて深呼吸をしろ」
「─ふ、ぅ、」
ぞくぞくと背筋に奔る悪寒に、フィミリアはじわり、と目尻に涙が浮かんでくる。
サミエルの声は聞こえるが、落ち着きたいのに落ち着けない。
呼吸はどんどん浅く早くなっていき、意味の成さない声が喉から細くこぼれ落ちていく。
こんな全身を這う様な気持ちの悪い視線を感じた事は初めてだった。
目の前まで来てくれたサミエルのお陰でその視線からわずかに隠されるが、先程父親のフレディに話し掛けられた時にその視線はすぐになくなったのに、今はずっと自分にまとわりついている。
(さっきはすぐ視線を感じなくなったのに、何故!?早く消えて、消えて──!!)
初めて感じるその怖気の走る視線に、思考がぐちゃぐちゃになる。耐えきれずフィミリアは目尻からぽたり、と涙を零した。
「──っ触れるぞ」
サミエルの声がすぐ側で聞こえた。
その近すぎる距離から聞こえた声に、「え?」と思う間すらなく、フィミリアの体が強く強く抱きしめられた。
まるで視線から隠すように、すっぽりとその腕の中にフィミリアを覆い隠し腰と首に添えたサミエルの腕でぎゅう、と力強くフィミリアを抱きしめる。
「っサ、ミエル様」
「…大丈夫だ、大丈夫、深呼吸するんだ」
未だ顔色の戻らないフィミリアの瞳を覗き込み、優しく深呼吸を促す。
サミエルはフィミリアを落ち着かせるように背中を擦りながら、ホール内に意識を向ける。
先程から感じるフィミリアへの視線。
それははっきりと自分にも感じ取る事が出来た。不躾に彼女へ欲の孕んだ視線を寄越していた。
あけすけなその視線は、淑女にはおぞましく感じただろう。
その証拠に、フィミリアは軽くパニックになり恐怖で呼吸も乱れ全身が震えている。
「そう、深呼吸をしてゆっくりでいいから」
「…はっ、はっ」
ゆっくりと落ち着けるように背中を摩る掌に、ほぅっと息を付くと、サミエルの低く落ち着いた声音に、フィミリアは靄がかった思考がゆっくりと晴れていくのがわかった。
少し周りを見る余裕が出てきて、そしてサミエルに抱きしめられているこの状況にはた、と気付いた。
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