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最終話
しおりを挟むクライヴと共にティアーリアは自室に戻り、二人で会話をしながら医者の訪れを待つ。
程なくして、医者が訪れるとティアーリアの体調を確認して薬をいくつか処方してくれた後、帰宅した。
「良かった······、薬をしっかり飲んで体を休めればもう大丈夫ですね、ティアーリア」
「ええ、ご心配お掛けしてしまってごめんなさい、クライヴ様」
しゅんとして、眉を下げてそう言うティアーリアにクライヴは安堵から笑うと、そうだ、と唇を動かした。
「こちらに来て、忙しい中狩猟祭にも来て頂きましたが、もうすぐ一ヶ月経ちますね。月に一度のクランディア家に戻る日をそろそろ決めないと」
「そうですね!ラティリナが首を長くして待っていそうです」
「それでは、ティアーリアの体調が完全に治ったらあちらに戻る日にちを決めましょう」
クライヴの言葉にティアーリアは嬉しそうに瞳を細めると、はい。と笑顔で頷いた。
ティアーリアの体調が完全に戻り、クライヴの仕事も一段落する頃を見計らって約束した月に一度のクランディア家への帰宅の日取りを決める。
日にちの伺いをクランディア家に送ると、まるで待っていたかのように翌日すぐに返事が戻って来て、ティアーリアの言った通りラティリナが首を長くして待っている、と手紙に書かれていて二人はまた顔を見合わせて笑い合った。
日程を調整し、ティアーリアとクライヴがクランディア家へと赴くと、まるで二人の到着を今か今かと待ち構えていたラティリナにティアーリアが抱きつかれ、倒れ込みそうになったティアーリアの体を慌ててラティリナごと支えるクライヴに、ラティリナが目を輝かせてクライヴを褒め称えた。
ティアーリアとクライヴが不思議そうにしていると、ラティリナが実は極度の筋肉フェチだった事が発覚して、実はラティリナも現在顔合わせの申し込みを受けていてお相手男性と初顔合わせを行った後だと言う事を聞かされたり、と二人がクランディア家から離れている間に様々な事が起きていたらしい。
「それでね、聞いて下さいお姉様!今お会いしている方はとても逞しくって、私なんて片手で軽々と抱えてしまえる程筋力のある方なのです」
驚いた事に、お相手の男性は伯爵家の三男で、ラティリナと結婚出来るならば婿養子に入ってくれるらしい。
これでクランディア家の今後も安泰ですよ、とラティリナににこにこと嬉しそうに笑顔で言われ、ティアーリアは安堵したように笑った。
その日の夜、ティアーリアとクライヴはクライヴの邸宅で行っている夜のお茶の時間をクランディア家でも行っていた。
二人で毛布に包まり並んでソファに腰掛け、様々な話をしていた時、ふと会話が途切れた際にティアーリアがぽつりと言葉を零した。
「ラティリナの顔合わせが上手く進みそうで安心しました」
「──ご実家の事······?」
クライヴにティアーリアが感じていた心配事をぴしゃり、と言い当てられてティアーリアは驚きに目を見開くとクライヴを見つめる。
「よく、お分かりになりましたね······」
「ええ。ティアーリアの事だから、自分が私と結婚すると家を出ていく事になる、そうすると家の今後が心配だ、と考えていたのでしょう?」
「ええ······私が出ていったら、必然的にクランディア家の跡を継ぐのはラティリナの伴侶となり、またその跡を継ぐのは二人の子供になるから、家の存続と言う重い物を背負わせる事になってしまう事を始めはずっと悩んでいたんです」
黙ってティアーリアの言葉を聞いてくれるクライヴに、ティアーリアはそっと寄り掛かると、クライヴがティアーリアの肩を抱き寄せてくれる。
「私は、クライヴ様から顔合わせの申し込みを受けるまでずっと自分が婿養子となってくれる方と結婚して、家を存続しないと、と考えていたので······だからクライヴ様との顔合わせの機会が巡って来た時も、嬉しくて喜んでいた気持ち半分、お断りしようかと悩んでいた時期もあったのです」
「──えっ!」
ティアーリアから聞かされた思ってもみなかった言葉に、クライヴは驚きティアーリアを抱き寄せる腕に力を込めた。
クライヴの感情が分かりティアーリアは微笑むと、でも。と言葉を続ける。
「そんな風に悩んでいた私を一喝して背中を押してくれたのもラティリナだったのです。せっかく好きな人から申し込んで貰ったのに何を悩む必要があるんだ!って」
「もしかしたら、妹君が背中を押してくれなかったら······」
「ええ、クライヴ様からの申し込みを断って、他の方と結婚してしまった可能性もありますね」
今となっては本当にラティリナに感謝だわ、と続けるティアーリアにクライヴは確かにその未来もあったのだ、と考えぞっとする。
クライヴは、自分以外の男の隣で微笑むティアーリアを想像してしまって、抱き寄せていた腕に力を込めて抱き締める。
「──そんな未来にならなくて本当に良かった······妹君には感謝してもしきれませんね」
「······ええ、本当に。そうなっていたら、こんなに人を愛する気持ちも一生知る事無く過ごしていたのかもしれません」
「ええ、私もです。私も、ティアーリア以外に愛せる女性は居ませんから」
今となっては笑って話せる内容だが、ほんの数ヶ月前に、何か歯車が一つでも狂っていたら二人はこうして穏やかな気持ちで笑い合えていなかったかもしれない。
クライヴはぎゅうぎゅうとティアーリアを抱き締めると、改めて自分達がこうして一緒に居られる有り難さを噛み締める。
きっと、これからも些細な出来事ですれ違ったり喧嘩をしたりしてお互い傷付いたり、傷付けたりしてしまうだろう。
けれど、巡り会えたこの奇跡に感謝しながら二人でゆっくりと歩み続けて行きたい。
ずっと笑顔で、お互いの隣には愛する人がいて、そして幸せな毎日を過ごして行きたい。
ティアーリアとクライヴは幸せそうに笑い合いながらあの日、幼い頃にあの領地で出会えた奇跡に感謝しながらそっと唇を寄せ合った。
終
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