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第7話 冬の新潟港
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今年の新潟は暖冬で雪も少なく、天気は快晴だった。
私たちがこれから乗船する、新日本海フェリー『らべんだあ』はすでにフェリー埠頭に着岸しており、舶用機関の燃焼排気ガスの匂いがしていた。
「大きな船ね?」
「この『らべんだあ』は全長200m、14,000トンもあるからな?
低気圧は行ったから天気はいいが、少しうねりはあるかもしれない」
「揺れるの?」
「大丈夫だよ、フィン・スタビライザー(復原装置)も付いているし、気持ち悪い時は寝ていれば治るから」
「寝ていれば船酔いはしないの?」
「体の接地面積が広ければ、あまり船酔いはしないのさ。
大丈夫、俺が傍にいるから」
「うん、そうだね?」
そこへチョフサー(一等航海士)の鈴木がやって来た。
「おう、堂免、久しぶりだなあ。
こんにちは華絵さん、結婚式以来ですね?」
「ご無沙汰しています。今日はよろしくおねがいしますね?」
「かしこまりました。素敵な船旅を楽しんで下さい。
堂免、チーフ・パーサーの奥村にはお前たちの事は言ってあるから部屋まで案内してもらってくれ。また後でな?」
「スタンバイ(出港準備)で忙しいのに悪いな?」
「それじゃまた」
鈴木はそのまま持ち場へ戻って行った。
「船乗りさんてカッコいいわね?」
「鈴木は同期の中でも優秀な奴だったからな」
「ヒロもでしょう?」
「あはははは」
(こんなに笑う華絵が死ぬというのか?)
私は冬の青く澄んだ空を見上げ、気分を変えようとした。
舷門で奥村チーフ・パーサーが私たち夫婦を出迎えてくれた。
「チョフサーから伺っております。お部屋までご案内いたしますのでどうぞこちらへ」
「出港前で忙しいのにすみません」
「本日は本船で一番良いお部屋をご用意させていただきました」
「ありがとうございます」
「どうぞこちらです」
メインエントランスでは華絵が声をあげた。
「すごーい! テレビで見た豪華客船みたい!」
エントランス・ホールは大きな吹き抜けになっており、その中央には優雅なメイン階段があった。
「この船はまるで動くホテルだな?」
「本船は食事もいいですよ。期待して下さいね?」
「船乗りさんたちは自分の船を「本船」って言うのね?」
「会社でも「本社」って言うだろう? それと同じだよ」
部屋はロイヤルスイートだった。
「この部屋になります。定刻通りの出港になりますのでどうぞごゆっくり。
何かございましたらいつでもお呼び下さい」
「ありがとうございます」
奥村さんは部屋を出て行った。
「お風呂もトイレも付いているのね? それにきれいに毛布が花のようにデコレーションしてあるわ、素敵」
私は華絵を抱き締め、キスをした。
「さあ、船内を散歩して来ようか?」
「うん」
出港時間になり、私たちはデッキに出た。
スターンライン(船尾係船索)がホーサーウインチで巻き上げられ、シングルアップ(船首係船索を1本にすること)になり、バウスラスター(船首推進装置)が動き始め、離岸作業が進められて行った。
ヘッドライン(船首係船索)も放たれ、船はフェリーターミナルを離れ、外洋へとラダー(舵)を切った。
「動いた、動いた! お船が動いた!」
はしゃぐ華絵。
「鈴木は一等航海士だから船首の総責任者なんだ。
俺は二等航海士だから船尾で指揮を執る」
「へえー、そうなんだあ。初めて見た。お船が出港するところ」
フェリーが新潟港を出港して日本海に出ると、少し船が揺れて来た。
「揺れて来たね?」
「これは揺れてるうちには入らないよ」
私は笑ったが、華絵は少し怯えたような表情をしていた。
船はピッチング(縦揺れ)とローリング’(横揺れ)を始めた。
「揺れてる、揺れてる」
「大丈夫だよ、そのうち慣れるから。夕食まで少し部屋で横になるといい」
私たちは部屋に戻った。
私は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、華絵にも勧めた。
「少し飲むか?」
華絵は一口だけビールを飲んで、それを私に返した。
「これでも揺れていない方なの?」
「そうだよ、もっと海が荒れて来ると、パンチングといって、船が波に突っ込んで進むんだ。
そうなると、結構衝撃が船体に伝わる。
でも船はめったなことがない限り、沈むことはないから安心だよ。
飛行機よりもはるかに安全な乗物だからね?
それにこの船は鈴木が操船しているから安心だよ」
私は華絵をやさしく抱き締め、髪を撫でた。
新潟へは飛行機で来たせいか、心地よい船の揺れも相まって、華絵はいつの間にかソファで寝入ってしまった。
私は穏やかな華絵の寝顔をしばらく眺めていた。
ビールの味が少し苦く感じた。
私たちがこれから乗船する、新日本海フェリー『らべんだあ』はすでにフェリー埠頭に着岸しており、舶用機関の燃焼排気ガスの匂いがしていた。
「大きな船ね?」
「この『らべんだあ』は全長200m、14,000トンもあるからな?
低気圧は行ったから天気はいいが、少しうねりはあるかもしれない」
「揺れるの?」
「大丈夫だよ、フィン・スタビライザー(復原装置)も付いているし、気持ち悪い時は寝ていれば治るから」
「寝ていれば船酔いはしないの?」
「体の接地面積が広ければ、あまり船酔いはしないのさ。
大丈夫、俺が傍にいるから」
「うん、そうだね?」
そこへチョフサー(一等航海士)の鈴木がやって来た。
「おう、堂免、久しぶりだなあ。
こんにちは華絵さん、結婚式以来ですね?」
「ご無沙汰しています。今日はよろしくおねがいしますね?」
「かしこまりました。素敵な船旅を楽しんで下さい。
堂免、チーフ・パーサーの奥村にはお前たちの事は言ってあるから部屋まで案内してもらってくれ。また後でな?」
「スタンバイ(出港準備)で忙しいのに悪いな?」
「それじゃまた」
鈴木はそのまま持ち場へ戻って行った。
「船乗りさんてカッコいいわね?」
「鈴木は同期の中でも優秀な奴だったからな」
「ヒロもでしょう?」
「あはははは」
(こんなに笑う華絵が死ぬというのか?)
私は冬の青く澄んだ空を見上げ、気分を変えようとした。
舷門で奥村チーフ・パーサーが私たち夫婦を出迎えてくれた。
「チョフサーから伺っております。お部屋までご案内いたしますのでどうぞこちらへ」
「出港前で忙しいのにすみません」
「本日は本船で一番良いお部屋をご用意させていただきました」
「ありがとうございます」
「どうぞこちらです」
メインエントランスでは華絵が声をあげた。
「すごーい! テレビで見た豪華客船みたい!」
エントランス・ホールは大きな吹き抜けになっており、その中央には優雅なメイン階段があった。
「この船はまるで動くホテルだな?」
「本船は食事もいいですよ。期待して下さいね?」
「船乗りさんたちは自分の船を「本船」って言うのね?」
「会社でも「本社」って言うだろう? それと同じだよ」
部屋はロイヤルスイートだった。
「この部屋になります。定刻通りの出港になりますのでどうぞごゆっくり。
何かございましたらいつでもお呼び下さい」
「ありがとうございます」
奥村さんは部屋を出て行った。
「お風呂もトイレも付いているのね? それにきれいに毛布が花のようにデコレーションしてあるわ、素敵」
私は華絵を抱き締め、キスをした。
「さあ、船内を散歩して来ようか?」
「うん」
出港時間になり、私たちはデッキに出た。
スターンライン(船尾係船索)がホーサーウインチで巻き上げられ、シングルアップ(船首係船索を1本にすること)になり、バウスラスター(船首推進装置)が動き始め、離岸作業が進められて行った。
ヘッドライン(船首係船索)も放たれ、船はフェリーターミナルを離れ、外洋へとラダー(舵)を切った。
「動いた、動いた! お船が動いた!」
はしゃぐ華絵。
「鈴木は一等航海士だから船首の総責任者なんだ。
俺は二等航海士だから船尾で指揮を執る」
「へえー、そうなんだあ。初めて見た。お船が出港するところ」
フェリーが新潟港を出港して日本海に出ると、少し船が揺れて来た。
「揺れて来たね?」
「これは揺れてるうちには入らないよ」
私は笑ったが、華絵は少し怯えたような表情をしていた。
船はピッチング(縦揺れ)とローリング’(横揺れ)を始めた。
「揺れてる、揺れてる」
「大丈夫だよ、そのうち慣れるから。夕食まで少し部屋で横になるといい」
私たちは部屋に戻った。
私は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、華絵にも勧めた。
「少し飲むか?」
華絵は一口だけビールを飲んで、それを私に返した。
「これでも揺れていない方なの?」
「そうだよ、もっと海が荒れて来ると、パンチングといって、船が波に突っ込んで進むんだ。
そうなると、結構衝撃が船体に伝わる。
でも船はめったなことがない限り、沈むことはないから安心だよ。
飛行機よりもはるかに安全な乗物だからね?
それにこの船は鈴木が操船しているから安心だよ」
私は華絵をやさしく抱き締め、髪を撫でた。
新潟へは飛行機で来たせいか、心地よい船の揺れも相まって、華絵はいつの間にかソファで寝入ってしまった。
私は穏やかな華絵の寝顔をしばらく眺めていた。
ビールの味が少し苦く感じた。
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