それを人は愛と呼ぶ

菊池昭仁

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第15話

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 1ヶ月が経ち、小夜は開放病棟へ移った。

 私は会社を辞め、出来る限り小夜を病院へ見舞いに通った。
 
 そして3ヶ月後、小夜はようやく退院することが出来た。

 
 「退院出来て本当に良かったな? 何が食いたい?」
 「ご飯より抱いて欲しい・・・」
 
 私たちは自宅に帰るのももどかしく、すぐ近くのラブホテルに入った。


 「4ヶ月分、してね?」

 
 私は荒々しく小夜を抱いた。


 「はあ、はあ、うっ、あ、あ・・・」

 小夜も私も夢中だった。

 私たちは何度もお互いを貪り合い、クタクタになり夜になった。
 小夜は私に抱きつき、言った。

 「功作のおかげだよ。ありがとう」
 「俺たち、結婚しよう」
 「うれしい・・・」

 私は小夜をやさしく抱き締めた。

 「メシ、食いに行こうか?」
 「うん、お寿司が食べたい」
 

 私たちは鮨を食べ、ケーキを買って家に帰った。


 
 私は知り合いの紹介で住宅会社に就職し、小夜との普通の生活を送っていた。
 人並みにしあわせだった。


 「はい、お弁当」
 「ありがとう、今日も遅いから先に寝てろよ」
 「うん。気を付けてね? 行ってらっしゃい」
 
 小夜はそう言って私にキスをした。

 「行ってくるよ」


 
 大湊が出勤して、小夜が家の掃除をしていると玄関のチャイムが鳴った。

 恐る恐るドアスコープを覗くと、小夜は恐怖に凍り付いた。
 ドアの向こうに立っていたのは、薄笑いを浮かべた大崎だったからだ。

 「俺だ開けろ。開けねえとこのドアをぶち壊すぞ」
 「帰って! お願い!」
 「また楽しもうぜ。ほら、退院祝いに持って来てやったぜ。
 欲しいんだろう? シャブ?」
 「帰って! 警察を呼ぶわよ!」
 「呼べるもんなら呼んでみろよ」

 すると大崎はバールでドアをこじ開けた。
 そしてすぐに小夜を押し倒し、玄関でレイプした。

 「止めて! お願い止めて!」

 大崎は小夜に覚醒剤を注射した。
 小夜は抵抗することが出来なくなり、忘れていた快感が全身を貫いた。


 「俺はおめえじゃねえと駄目なんだよ。
 やり直そうぜ、また仲良くしようや。
 お前がどこに行こうと、俺はお前を離しやしねえからな?」

 小夜は自分との意志とは裏腹に、再び快楽の中へと落ちて行った。



 仕事を終え、家に帰ると小夜がいなくなっていた。
 リビングに注射器が落ちていた。

 私はすぐに昇竜会の組事務所へ向かった。


 「若頭はいますか?」
 「大湊さん、お久しぶりです。若頭なら出掛けてますけど」
 「どこに行ったかわかりますか?」
 「たぶん『Juliet』だと思いますよ」

 

 驚いたことに『Juliet』に行くと、小夜が大崎と一緒にいた。

 「よう大湊、こっちに来て一緒に飲もうぜ」
 
 小夜が無表情のまま、バカラのグラスに酒を注いでくれた。

 「小夜を連れて帰ります」
 「小夜、どうする? お前の飼主がそう言っているけど?」
 「ごめんなさい。私、功作のところへはもう戻りません。
 いままでお世話になりました」
 「そういうことだから大湊。諦めろ」

 それが小夜の本心ではないことはわかっている。
 この男がいる限り、小夜はしあわせにはなれない。
 私はこの時、大崎を殺すことを決めた。

 「明日、また出直します」

 

 私は家に戻り、大崎から貰ったトカレフの作動を慎重に確認した。
 その拳銃の重さに人生の重さを感じながら。




 「ほらもっと声を出せ! 大湊と俺、どっちがいい?」
 「大湊さんよ! 私は功作を愛しているの!」
 「なんじゃとコラッ!」

 大崎は怒り狂い、小夜の顔を踏みつけた。

 「ぐっつ」

 小夜は必死に堪えた。

 大崎はその後も小夜を犯し続けた。


 
 ようやく欲望を満たした大崎は、いびきをかいて眠ってしまった。

 小夜は台所から包丁を持ち出し、寝ている大崎の肋骨と平行にそれを心臓めがけて振り下ろした。
 包丁はまるで豆腐を刺すかのようにスッと深く入っていった。
 何度も何度も小夜は大崎を刺し続けた。

 ベッドには血溜まりが出来、小夜は大量の返り血を浴びた。
 髪の毛にまで血糊がべったりと張り付いていた。


 小夜は包丁を大崎に刺したまま、ベランダに出ると大湊にLINEをした。

 
      ありがとう功作
      しあわせでした
      さようなら


 LINEを送信すると、小夜は15階のマンションの手摺を飛び越えた。



 「小夜!」

 私は飛び起きた。嫌な胸騒ぎがした。

 その時、小夜からLINEが届いた。
 スマホが私の手から滑り落ち、私は号泣した。

 「小夜ーーーーーーーーーっ!」


 私は小夜を妻にすることが出来なかった。
 

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