★【完結】メタルシティ(作品230619)

菊池昭仁

文字の大きさ
5 / 15

第5話 ハイエナ

しおりを挟む
 民自党の各派閥の役員58名は、赤坂の料亭『竹千代』の大広間に集められていた。

 「本日はご多忙の中、お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。今日はみなさんに大切なお願いがございます。
 明日の臨時国会に於きまして、どうしても通さねばならない法案があります。それに是非ともご賛同いただきたい」
 
 すると第三派閥の荻野目総務会長が口を開いた。

 「井沢官房長官、世論を敵に回すような法案ではないでしょうなあ?」
 「その前に、みなさんに小山田総理からのプレゼントがございます」

 すると喪服を着た男たちが各々の議員たちの前にミカンの段ボール箱を置いた。もちろん中身はカネだ。


 「その中に帯封を外した現金、1億円が入っております。
 どうぞお納め下さい」

 一斉に漏れる歓喜の溜息。

 「もし、もっと必要だと仰るのなら、ご希望の金額をご用意させていただきますとのことです」
 「今度は一体どんな内容の法案ですか? まさか「消費税率を20%にする」なんて話ではないでしょうな? あはははは」

 宴会場に失笑が湧いた。

 「国家管理保護法案を通していただきたい。簡単に言えば国が国民の生死を管理するという法案です。不要になった老人の安楽死と出生管理、そして若者の徴兵義務です」
 「そんな法律、国民が納得するわけがない! あまりにも荒唐無稽な話だ!」

 すると井沢がその中堅議員を恫喝した。

 「戯言で言っているのではない! これは京都の元老院が決めた事なのだ! そして同時に我々日本をアメリカ帝国主義の従順な飼い犬、ポチにしたこの憲法、マッカーサー憲法を廃止し、天皇陛下を中心とした憲法、『新・大日本帝国憲法』を発布せよと言う至上命令なのだ!」
 「たった1憶ぽっちのカネでは割があわない。僕は失礼するよ」

 環境大臣のお坊ちゃん議員、大泉が退席しようとした時、井沢は拳銃を抜き、議員たちの前で大泉を射殺した。

 大泉は頭と心臓を正確に撃ち抜かれ即死、畳はたちまち血で染まり、部屋には硝煙と血の匂いが充満し、嘔吐する者や失禁する者もいた。
 すぐに逃げようとした者は、廊下で待機していた先程の喪服を着た特殊部隊員にハチの巣にされた。


 「これはお願いじゃねえ! 命令なんだよ! 命令!
 死にたくなければそのミカン箱を開け、その中にある誓約書にサインをしろ!
 こんなバカな奴はもういないとは思うが、もし万が一、今夜のことを家族やマスコミに話したら、おめえらの家族全員は行方不明や、不慮の事故死が待っていることを忘れるな!
 お前らはカネと権力が欲しいだけの世襲バカ議員共だ!
 これからは選挙で落選に怯えることもねえ。永久世襲の国会議員になるんだぜ。貴族議員になれるんだ。ただこの法案に賛成するだけでな? あーははははは!」

 井沢は大泉に近づくと、死体に向けて残弾をすべて打ち尽くし、ポケットから新しい弾倉を拳銃に装填した。

 「はーい! この場で俺に射殺されたい人は手を挙げて! わはははは わはははは どいつもこいつも根性ねえなあ!
 それではみなさん、これから銀座のクラブを貸し切りましたから、そこで団結式と参りましょう!
 そこで浴びるほど酒を飲んで、好きな女をお持ち帰りして下さい!」

 議員たちは喜び勇んでミカン箱を持って宴会場を後にした。
 大泉の隣の席に座っていた小柄な吉倉は、大泉のミカン箱も二段重ねにしてよろめきながら廊下を歩いて行った。

 
 翌朝の情報番組で、環境大臣の大泉が行方不明になったことを女子アナが伝えていた。
 


 そして遂に『国家管理保護法』は国会に於いて賛成多数で可決されたのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...