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第4話 悪魔になったふたり

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 官邸では官房長官たちが待っていた。

 「官房長官と私だけにしてくれ」
 「かしこまりました」

 官房長官の井沢とは当選同期で、親父も爺さんも国会議員だった。東大法学部卒のエリート三世議員ではなく、体育会系のボンクラ大学の裏口入学で、私と井沢はよく気が合った。
 私たちは力のある政治家のために泥を被り、ここまで昇りつめたのだった。

 井沢はテーブルのシガレットケースからタバコを取り出し、火を点けた。
 ふたりで話しをする時のいつもの儀式だ。


 「それで京都の御前様たちは、今度はどんな難題を吹っ掛けて来たんだ?」

 井沢はゆっくりと煙草の煙を吐いた。

 「生と死を国が管理しろと言われたよ。男は75才、女は80才になったら安楽死をさせ、ガキは16才になったら子孫を残すに相応しい人間かどうかをAIに判断させ、選別する。子供を持つに値しないガキには避妊手術を受けさせ、そして更に16才になった男子には2年間の兵役の義務を課すというものだ」
 「とうとうあの御前たちもおかしくなったか? そんなこと出来るわけがない。
 総理のお前にヒットラーになれと言うのか? あーはっは あーはっは」
 「井沢、だからお前にはヒムラーになってもらいたい」
 「親衛隊隊長に俺がか?」
 「そう言うことだ。やらなければ俺もお前もこの世から消される」
 「俺は別に消されてもかまわねえぞ。悪魔になるよりマシだからな?」
 「俺とお前は既に悪魔に魂を売っているはずだ。今更きれい事を言っている場合ではない」
 「そうだったな? どちらにしても地獄行きは確定だ」
 「議員リストを作成してくれ。カネと権力が欲しい奴と、平和ボケした口先だけの理想主義者を」
 「つまり、残す奴と「消す」奴を選べと言う訳だな?」
 
 私はそれには答えなかった。

 「時間がない。早急に頼む」

 井沢は吸い掛けのタバコを灰皿に押し付け、無言で総理執務室を出て行った。

 井沢の顔は既に悪魔の顔になっていた。
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