12 / 34
第12話 恋愛相談
しおりを挟む
「詳しく聞かせてもらおうか」
「な、何のことですか?」
俺は案の定、橘先輩に問い詰められていた。
「職歴なしって言ってる割には、やる気に満ちていると思ったんだが、あんな美人と同棲していたとは驚いたぜ、全く。そりゃ頑張っちゃうよな」
図星がすぎる。
橘先輩のダル絡みはまだまだ続いた。
「で、告白はどっちからなんだ?」
「し、してないです……」
「え?」
橘先輩の施工の手が止まる。
「告白すっ飛ばして、同棲してんの?」
「はい……」
「マジかよ、じゃあ知り合ったのはいつ?」
「昨日です」
耳まで真っ赤にしながら包み隠さず白状した。
「同棲の形は人それぞれだとは思うが、知り合ったのが昨日ってのはちょっとした恐怖だな……」
「ぐうの音も出ません」
「単刀直入に聞くが、ハヤトはセラフィーラさんのことが好きなんだよな? セラフィーラさんのために日雇いも始めたんだろ?」
橘先輩から白黒はっきりさせようという意思をやんわりと感じた。19年もの間、全てを曖昧にしてきた俺の内を見透かされているようだった。
彼女いない歴=年齢。
セラフィーラさんに下界を見せてあげたい。
セラフィーラさんを守りたい。では、なぜそう思うのか。
一度も口にしていなかったが、認めざるおえなかった。
「好きです。仕事もセラフィーラさんを養いたくて始めました」
恥ずかしすぎて顔から火が吹き出してしまいそうだった。
「そうか。なら告白しなくちゃな」
「やっぱりした方がいいですか?」
「あったりまえだろ。俺はぁ、なあなあな関係でだらだらと引き延ばすラブコメが好きじゃない。ハヤトはそういうタイプな気がする。目標を決めるんだ。いつ、どうなったら告白するのかをな」
見透かされている。
いつ、どうなったら告白するか。
節目としては、ホームレスを卒業してアパートを借りれたら?
「分かりました。考えておきます」
「偉そうに言って悪いが、俺はハヤトを応援してるし、仕事の面倒は俺が見てやる。いつでも恋愛相談待ってるぜ」
「ありがとうございます!」
俺の意思を確認したかっただけなのか、それ以上追求されることはなかった。
その後は、午前の施工の続きに打ち込んだ。
橘先輩は壁の上半分、俺は壁の下半分。
コテを使って板にのったモルタルを救い上げて壁に塗り込んでいく。
そろそろ慣れたかと思ったけれど、定期的に手直しされてしまう。
「落ち込むなよ。一番難易度の低い上塗りとは言え、そもそも左官工事は専門性の高い仕事だぜ?」
施工は夕方までかかった。
作業終わりに家主さんが新築の前まで来て差し入れをくれた。
「カキモト建設さんお疲れ様です。いつもありがとうございます。家の完成を楽しみにしていますね」
とても短い挨拶だったが、人から感謝されるという経験に乏しかった俺の心にじんわりと染み渡った。
「ああいう風に言ってもらえると俺たちがこの街を作っているって実感できて、次も頑張ろうって気持ちが湧いてくるよな」
橘先輩の屈託のない笑顔が胸に残った。
◇
事務所に戻って日給を受け取った俺はその足で古着屋と業務スーパーに直行して、二人分の着替えや日用品を買い漁った。
必要な物が多すぎて、お金はほとんど使い切ってしまった。
俺は大荷物を抱えて、足が棒になりながらも佐々木公園の段ボールテント前にたどり着いた。
「はやとさん、おかえりなさいませ」
「セラフィーラさん、ただいまです」
理想のマイホームではないけれど、こうして俺のことを待ってくれる人がいる幸せを噛み締める。
「こんなに大荷物で、どうしたのですか?」
「今日の給料で生活必需品を買ってきました」
俺は荷物を段ボールテントの中に下ろす。
「まぁ、こんなにたくさん! ありがとうございます」
セラフィーラさんは相も変わらず深く、深く頭を下げた。
「気にしないでください。同棲ですから」
「では、ちょっと外に出ませんか?」
「まだお夕飯の時間ではないようですが?」
俺はセラフィーラさんを手招きして外に連れ出した。
セラフィーラさんが昨日、興味を示し「楽しみにしています」と言っていた物の前まで案内する。
「自動販売機!! 覚えてくれていたのですね!」
「今はお金があるので、お好きな飲み物をどうぞ」
「わぁ! はやとさんありがとうございます!」
セラフィーラさんにお金を渡して見守る。
ウキウキのセラフィーラさんが見れて眼福である。
「では、コーンポタージュ? というものをお願いいたします」
静寂。
「あら? コーンポタージュをお願いいたいます」
セラフィーラさんは自販機に語りかけ、おじぎを繰り返す。
「あっこれ自分でお金を入れて、ボタンを押さないと出てきませんよ。あと自販機との意思の疎通は無理です」
「私としたことがっ! 申し訳ございません」
「いえ、こちらこそ説明不足でした……」
セラフィーラさんは知識として自販機というものの存在を知っていたにすぎない。
現代の尺度でセラフィーラさんの行動を推し量ってはいけないと痛感した。
セラフィーラさんはお金を入れ、恐る恐るボタンに手を伸ばした。
ピッ
ガタンッ
「はやとさん! 私、自分の力で買えました!」
「おめでとうございます^^」
「ありがとうございます! 私の宝物にします」
「いや、せっかく買ったので飲んでくださいね」
無邪気に喜ぶセラフィーラさんがとても愛おしかった。
「な、何のことですか?」
俺は案の定、橘先輩に問い詰められていた。
「職歴なしって言ってる割には、やる気に満ちていると思ったんだが、あんな美人と同棲していたとは驚いたぜ、全く。そりゃ頑張っちゃうよな」
図星がすぎる。
橘先輩のダル絡みはまだまだ続いた。
「で、告白はどっちからなんだ?」
「し、してないです……」
「え?」
橘先輩の施工の手が止まる。
「告白すっ飛ばして、同棲してんの?」
「はい……」
「マジかよ、じゃあ知り合ったのはいつ?」
「昨日です」
耳まで真っ赤にしながら包み隠さず白状した。
「同棲の形は人それぞれだとは思うが、知り合ったのが昨日ってのはちょっとした恐怖だな……」
「ぐうの音も出ません」
「単刀直入に聞くが、ハヤトはセラフィーラさんのことが好きなんだよな? セラフィーラさんのために日雇いも始めたんだろ?」
橘先輩から白黒はっきりさせようという意思をやんわりと感じた。19年もの間、全てを曖昧にしてきた俺の内を見透かされているようだった。
彼女いない歴=年齢。
セラフィーラさんに下界を見せてあげたい。
セラフィーラさんを守りたい。では、なぜそう思うのか。
一度も口にしていなかったが、認めざるおえなかった。
「好きです。仕事もセラフィーラさんを養いたくて始めました」
恥ずかしすぎて顔から火が吹き出してしまいそうだった。
「そうか。なら告白しなくちゃな」
「やっぱりした方がいいですか?」
「あったりまえだろ。俺はぁ、なあなあな関係でだらだらと引き延ばすラブコメが好きじゃない。ハヤトはそういうタイプな気がする。目標を決めるんだ。いつ、どうなったら告白するのかをな」
見透かされている。
いつ、どうなったら告白するか。
節目としては、ホームレスを卒業してアパートを借りれたら?
「分かりました。考えておきます」
「偉そうに言って悪いが、俺はハヤトを応援してるし、仕事の面倒は俺が見てやる。いつでも恋愛相談待ってるぜ」
「ありがとうございます!」
俺の意思を確認したかっただけなのか、それ以上追求されることはなかった。
その後は、午前の施工の続きに打ち込んだ。
橘先輩は壁の上半分、俺は壁の下半分。
コテを使って板にのったモルタルを救い上げて壁に塗り込んでいく。
そろそろ慣れたかと思ったけれど、定期的に手直しされてしまう。
「落ち込むなよ。一番難易度の低い上塗りとは言え、そもそも左官工事は専門性の高い仕事だぜ?」
施工は夕方までかかった。
作業終わりに家主さんが新築の前まで来て差し入れをくれた。
「カキモト建設さんお疲れ様です。いつもありがとうございます。家の完成を楽しみにしていますね」
とても短い挨拶だったが、人から感謝されるという経験に乏しかった俺の心にじんわりと染み渡った。
「ああいう風に言ってもらえると俺たちがこの街を作っているって実感できて、次も頑張ろうって気持ちが湧いてくるよな」
橘先輩の屈託のない笑顔が胸に残った。
◇
事務所に戻って日給を受け取った俺はその足で古着屋と業務スーパーに直行して、二人分の着替えや日用品を買い漁った。
必要な物が多すぎて、お金はほとんど使い切ってしまった。
俺は大荷物を抱えて、足が棒になりながらも佐々木公園の段ボールテント前にたどり着いた。
「はやとさん、おかえりなさいませ」
「セラフィーラさん、ただいまです」
理想のマイホームではないけれど、こうして俺のことを待ってくれる人がいる幸せを噛み締める。
「こんなに大荷物で、どうしたのですか?」
「今日の給料で生活必需品を買ってきました」
俺は荷物を段ボールテントの中に下ろす。
「まぁ、こんなにたくさん! ありがとうございます」
セラフィーラさんは相も変わらず深く、深く頭を下げた。
「気にしないでください。同棲ですから」
「では、ちょっと外に出ませんか?」
「まだお夕飯の時間ではないようですが?」
俺はセラフィーラさんを手招きして外に連れ出した。
セラフィーラさんが昨日、興味を示し「楽しみにしています」と言っていた物の前まで案内する。
「自動販売機!! 覚えてくれていたのですね!」
「今はお金があるので、お好きな飲み物をどうぞ」
「わぁ! はやとさんありがとうございます!」
セラフィーラさんにお金を渡して見守る。
ウキウキのセラフィーラさんが見れて眼福である。
「では、コーンポタージュ? というものをお願いいたします」
静寂。
「あら? コーンポタージュをお願いいたいます」
セラフィーラさんは自販機に語りかけ、おじぎを繰り返す。
「あっこれ自分でお金を入れて、ボタンを押さないと出てきませんよ。あと自販機との意思の疎通は無理です」
「私としたことがっ! 申し訳ございません」
「いえ、こちらこそ説明不足でした……」
セラフィーラさんは知識として自販機というものの存在を知っていたにすぎない。
現代の尺度でセラフィーラさんの行動を推し量ってはいけないと痛感した。
セラフィーラさんはお金を入れ、恐る恐るボタンに手を伸ばした。
ピッ
ガタンッ
「はやとさん! 私、自分の力で買えました!」
「おめでとうございます^^」
「ありがとうございます! 私の宝物にします」
「いや、せっかく買ったので飲んでくださいね」
無邪気に喜ぶセラフィーラさんがとても愛おしかった。
0
あなたにおすすめの小説
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします
森 湖春
恋愛
長年の夢である世界旅行に出掛けた叔父から、寂れた牧場を譲り受けた少女、イーヴィン。
彼女は畑を耕す最中、うっかり破壊途中の岩に頭を打って倒れた。
そして、彼女は気付くーーここが、『ハーモニーハーベスト』という牧場生活シミュレーションゲームの世界だということを。自分が、転生者だということも。
どうやら、神々の悪戯で転生を失敗したらしい。最近流行りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生出来なかったのは残念だけれど、これはこれで悪くない。
近くの村には婿候補がいるし、乙女ゲームと言えなくもない。ならば、楽しもうじゃないか。
婿候補は獣医、大工、異国の王子様。
うっかりしてたら男主人公の嫁候補と婿候補が結婚してしまうのに、女神と妖精のフォローで微妙チートな少女は牧場ライフ満喫中!
同居中の過保護な妖精の目を掻い潜り、果たして彼女は誰を婿にするのか⁈
神々の悪戯から始まる、まったり牧場恋愛物語。
※この作品は『小説家になろう』様にも掲載しています。
元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている
甘酢ニノ
恋愛
クラス一の美少女・強羅ひまりには、誰にも言えない秘密がある。
実は“売れない地下アイドル”として活動しているのだ。
偶然その正体を知ってしまったのは、無愛想で怖がられがちな同級生・兎山類。
けれど彼は、泣いていたひまりをそっと励ましたことも忘れていて……。
不器用な彼女の願いを胸に、類はひまりの“支え役”になっていく。
真面目で不器用なアイドルと、寡黙だけど優しい少年が紡ぐ、
少し切なくて甘い青春ラブコメ。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる
歩く魚
恋愛
かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。
だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。
それは気にしてない。俺は深入りする気はない。
人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。
だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。
――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる