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魔王討伐

勇者VS勇者

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 虚空から、全身を禍々しい武具に身を包んだ一人の男が現れる。
「だったらお望み通り出してやるか。リリスや、エシールが時間を稼いでくれたおかげで、無事調整が終了した。」
「アスピ落ち着いて。」
「落ち着いてるわ。貴方にも分かるでしょ。その目が有れば。私にも分かる。ディアスト兄さんは、洗脳なんてされてない。気持ちは落ち着いているわ。自分の意思であの力を受け入れている。」
「お願い。手を出さないで。私がさっき、兄弟子との戦いに手を出さなかったように。」
 僕はフォースと、ドレイクを見た。
 彼女たちは既に、事を理解して、僕に向けて軽く頷くだけだ。
「アスピの意志を尊重するよ。」
「なぁ、勇者? 私が手を貸そうか? 」
「……必要ない。」
 ディアストはこちらの方へとゆっくり歩いてくる。
「に兄さん? 久しぶり。元気にしてた? 」
「そんなふうに見えるか? 」
「兄さん。戻ってきて。ねえ。」
「戻ってどうする。俺もお前も殺されるだけだ。」
「帰れ、帰って所帯を持つなり、一人辺境の地で農業をするなり、商売をするなり好きにすれば良い。俺が生きていれば、お前は殺されることがないんだから。」
「逃げよ。二人で、どこまでも遠くまで。四大陸の追手が来ないところまで。」
「四大陸……ソレが世界の全て……だ。フラットアースなんてどこにも存在しない。俺たちに居場所なんてないんだ。」
「じゃあ!! じゃあ兄さんはどうするつもりなの? 」
「無ければ創れば良い。エスカリーナは、そう言ってくれた。だから邪魔をするな。」
「………お前にも言っている。」
「お前もこっち側に来い。俺が死んで困るのはお前も同じだろう。」
「行かないよ。僕は。」
 彼は軽くため息をついた。
「議論は平行線だな。まぁ言葉で通じ合えるほど、この世界は甘くない。甘ければ、もっと世界はなっていたはずだからな。」
「奇遇ね。兄さん。だったら。」
「来いよ。金魚のフンのお前が、俺に勝てるわけないんだから。」
「金魚のフンは兄さんも同じでしょ。エスカリーナに名前も呼んでもらえないんだから。」
「ディアスト。ごめんな気に障ったか? 」
「問題ない。アンタが、俺の肩書き以外に俺を必要としていないことは知っている。」
「利害関係の一致だ。そうだろう? ギブアンドテイク。お前たち悪魔が一番好きな言葉だ。」
「カッコつけたいお年頃なんだな。ベットの上じゃ、蕩けた顔で必死に腰を振っていたくせに。」
「なっ!! 」
「嘘だよ。チェリーガール!! 」
[ジゴ・エルダー]
「アスピぃ!! 」
 砂煙から現れたのは、防御結界で自分を守っているアスピの姿。
「いちいちうっせえよアンタは。私に対する信頼とか無いわけ? 」
「なんだよ心配してやったのに。」
[ダーク・スラッシャー]
 アスピはこちらを見ながら、背中を大きく逸らすと、ディアストの水平斬りを、かわした。
「兄さん。やっぱり私を殺せないんだ。」
「言ったはずだ。元よりそのつもりはない。」
「兄さんは昔っからそうよね。私に手加減して。私にこっ酷くやられてさ。」
「そうやって、俺を怒らせて、ビィービィー泣いて、大人に助けを求めていたのはお前の方じゃないか!! 」
「わぁ。兄さんが怒った。」
 ディアストの兜が怪しく光る。
 ディアストは剣を握り直し、バックステップする。
「暗示の類は無かったんじゃ無いの? 」
「ああ、しておらんよ。ただ、あの兜は、着用者をあらゆる精神攻撃から守る。世の特注品じゃ。」
「なぁよ。力でディアストに及ばんからって、卑怯な手を使ったらあかんよ。」
「私は!! お前の妹になったつもりなんてない!!」
[レインボー・ブレス]
 アスピは後ろに大きく飛び上がり、杖から、地獄の業火と、冥界の冷気を同時に放った。
 ディアストに直撃し、再び浮遊城で爆発が起こった。
 反動で城が少し揺れる。
 そして、砂煙は、勢いよく吹き飛ばされ、盾を構えるディアストの姿が。
「ソレも、エスカリーナにもらった武具の恩恵ってワケ? 」
「盾は氷と炎を打ち消す。鎧は光以外の全てに耐性がある。」
「お前の魔術は効かない。お前がいくら属性を持ち合わせていようと、俺の身体には届かない。」
「わざわざありがと。試行錯誤で無駄な体力を使う手間が省けたわ。」
[ギガ・エルダー]
「やはりそうくるか。」
 ディアストは、手のひらをクルクルと回すと、再びジゴ・エルダーを組み始めた。
 アスピのギガ・エルダーを打ち消すつもりだ。
[スパーク・エンチャントぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。]
 アスピは杖を捨て去ると、なんと、自分の心臓へとギガ・エルダーを放出する。
「ぐがぁぁぁぁ。」
「おい!! 何をしている? 」
「兄ざんごぞ!! 何をしてるのよ!! 油断していると死ぬわよ。」
 アスピは全身をバネのように縮めると、ディアスト向けて飛翔した。
 飛び立った一羽の隼は、空気の膜を押し上げながら、迸る雷鳴をその身にやどしながら、彼へと疾走する。
 彼の腹部を思いっきり殴ると、そのまま天井へと突き上げた。
「ごぁ。」
「やっぱり。手応えありね。」
「クソっ!! 」
 ディアストの瞳が怪しく光る。
 魔眼による予知を狙っているんだ。
 が、アスピの早すぎる攻撃を、完全に捌ききれて無かった。
 武具との相性も良い。
 彼の鎧は、アスピの雷を防ぎきれていない。
「オラオラオラオラ。魔術師だからって、舐めんじゃねえぞ。こちとら、接近戦が出来ないせいで、散々ストレス溜まってんだよ。」
 ディアストはアスピに殴られ続け、白目を剥き始める。
「グァ。」
 彼はアスピの右脇腹に自身の剣を突き立てた。
「ああああああ。」
 帯電し、四肢がガクガクと痙攣する。
 そして、ソレを抜き去ると、バックステップで地上へと降りた。
 兜に叩き起こされたあと、アスピにつけられた傷が、見る見る回復していく。
 まざか。
 吸血効果? 
 魔王は死ぬまで二人を闘わせるつもりなのだ。
 アスピの方は!!
 アスピの身体は強い方ではない。
 自分でも、身体に大きな負荷を負ったのだ。
「治癒魔術? 」
「そうよ。全部アンタのマネ。身体に雷を流すことに精一杯で、回復魔術にリソースを回せなくてね。」
「悔しいけど。私は、アンタの金魚のフンよ。」
 治癒魔術。アスピはあんなに嫌がっていたのに。
 彼女は本気だ。
 でも、このままでは。
 二人は塵になるまで。
「心配は無用。私はアンタより頭が良いから。も、アンタよりずっと上手く使いこなせる。」
「やってみろっ!! 」
 ディアストは目を見開き、叫んだ。
[リーサル・クロー]
 剣に剣気が宿り、三つの斬撃が、アスピを襲う。
 アスピは雷を宿した脚で、斬撃を蹴り飛ばすと、大きく飛び上がり、回転しながら、両手を組むと、小指球で、ディアストの兜を殴る。
「無駄なことを。」
 ディアストは気が付いていないが、彼の兜に、わずかながらの亀裂が入った。
「まずい、ディアスト。下がれ!! 」
「止めるなエスカリーナ。」
 カウンターでアスピの左胸を突き刺す。
 再びディアストの傷が回復した。
 下がるディアストに、さらにアスピが距離を詰める。
 血を吐き、ディアストの視界を奪った。
「そんな汚い手も使うようになったのか。」
「自分の手を汚してまでも、信念を汚してまでも、嫌なことをしてまでも、成し遂げたいことがあるの。」
「今、この一瞬のために生きてきた。だから。どんな手段を使ってまでも。」

「ディアスト。お前を連れ戻す!! 」

 アスピの渾身のナックルが、ディアストの防具を砕いた。
 回転し、回し蹴りで剣を。
 体勢を低くしながら回転し、脚を大きく振り上げて、鎧を砕いた。
 倒立すると、そのまま空高く飛び上がり、盾を構えるディアストに大して、飛び蹴りを放つ。
 盾とアスピは拮抗し、辺り一体に衝撃波を撒き散らしながら、音もなく崩れ去り、塵さえ残らずに消えた。
 尻餅をつく彼の左頬を思いっきり殴る。
「おまえっ!!大丈夫か、ああこんなに腫れて。」
「そんなに大事なら、ハナから闘わせなきゃ良いでしょう。」
 アスピは、そういうと、鼻血を辺りに撒き散らしながら、地面に倒れた。
 後頭部を打つ前に、彼女の前へとワープすると、彼女を支えて、優しく寝かした。
「ああ、スッキリした。」
 彼女は右手でグッドサインを作って見せる。
「アスピ。動くな。今回復魔術をかけるから。」
「アンタのお陰よ。本気の兄さんに一発入れられたのは。」
「分かったから。」
 僕はフォースに助けを求めた。
「フォース、来てくれ。早く。」
 フォースは風よりも早く、こちらにやって来てくれる。
 僕たちはアスピを、柱の向こうに運ぶと、寝袋で寝かせた。
 回復魔術はかけた。
 だけど、今は貧血で倒れている。
 目を覚ますのにしばらく時間がかかるだろう。
 僕たち三人は、魔王が勇者を虚空へワープさせるのとほぼ同時に立ち上がった。
 もう言葉は交わさない。
 かわす必要は無い。
 どちらも、今自分たちがやることを理解していた。
 僕たちの最後の戦いが始まる。
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