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勇者の妹

特訓

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 僕はイレブンスに連れられて、大きなペルシャ絨毯の弾かれた部屋へと連れられた。
「時間がないから早速始めるわよ。」
 僕は無言で頷く。
「まずは貴婦人に会った時の挨拶。こう。」
「頭を下げるの。」
 コレは僕にも出来た。
「ちなみに、女の子の場合はこう。分かった? 」
「僕は男だよ。」
「冗談に決まってるでしょ。」
「時間がないんでしょ。早くしてよ。」
 イレブンスは僕の唇に、人差し指を当てる。
 ヒンヤリとした感覚が身体全身に伝わる。
「社交場では絶対に否定はしない。特にレディーにはね。分かった? 」
「うん。分かった。僕はイレブンスのことを否定しないよ。」
「良い子ね。」
 彼女は改まって手を差し出して来た。
「貴婦人が手を差し出して来たら、片膝をついて、手を握り、甲にキスをすること。」
 ちょっと恥ずかしい。
「恥ずかしいよ。」 
「それは相手方も同じよ。適切な心理的距離を保つこと。手を差し出されても、初対面の相手の手は無容易に触っちゃダメよ。」
「難しい。」
「大丈夫、くんなら出来るから。」
 その後も僕は、イレブンスにつききっきりでレッスンを受けて、何度か付け焼き刃の社交辞令を覚える事ができた。
 中でもビックリしたのは、ダンスの習得があまりにも早かったことだ。
 自分で言うのもなんだが、もしかして僕って才能ある?
「ねえイレブンス。イレブンスの能力ってなんなの? 」
「お姉ちゃんで良いのよ? 」
「それと、私の能力は秘密。君の魔法が解けないように……ね。」

     * * *

 僕たちが大広間に戻ると、ファーストたちが作戦を練っていた。
 セブンスの姿が見えない。
 そうだ。彼はイーストランドに行くと言っていた。
 もう書類を書き終えて、イーストランドへ向けて旅立ったのだろう。
「ちょうど良いところに来た。」
「今、人員の配置が終わったところだ。」
 僕の護衛にあたる、フォース。
 そして、聞き込み調査にあたるテンスとイレブンス。
 社交場でイーストサイドの動向を探る、ナインスとトゥエルブス。
 城の外で、怪しい動きをする者がいないかを確認するのは、セカンド、フィフス、エイトス。
 そして伝達係をサードとシクスに頼む。
「「「神の御心のままに。」」」
「か、神の御心のままに。」
 ヨシ、十二使徒ヘブンズ、作戦開始。

      * * *

 僕はアジトの更衣室で、洒落た服を着せられると、そのままフォースと共に馬車に乗り込んだ。
「ナインスとトゥエルブスは? 」
「彼女たちは、別の馬車だ。あまり大所帯になると、敵を警戒させるからな。」
「そう…… 」
「気をつけろ少年。伏兵を忍ばせているのは、向こうとて同じ。いつどこの誰に刃を向けられるかは知ったことじゃない。どんなアクシデントにも対応出来るように、常に周囲を警戒しておけ。」
「分かったよ。」
「それよりさ。当たり前なんだけど。護身用に武器を持っていたらダメかな。」
 フォースは少し悩むと、自分が愛用している十字架型のナイフを一つ貸してくれた。
「身体のどこに、こんなものしまってるのさ。ホント、フォースは四次元ポケットでも持っているの? 」
「四ジゲン?? お前の村に伝わる御伽話か何かか? 安心しろ。練習すれば、すぐにお前も出来るようになる。慣れれば、十字架型の機関銃を二丁忍ばせることだって出来る。」
「また教えてよね。フォース。」
「もちろんだ。魔王城に向かうまで、まだまだ時間がある。長い旅になりそうだからな。」
「そうそう。それについてなんだけど。」
 フォースは首を傾げた。
「なんでフォースは僕と旅をしてくれるようになったの? いや、師匠って人の遺言がどうとかじゃなくて、セカンドの口ぶりじゃエシールっていう人と一緒に戦ってくれていたんでしょ? 」
「何度も言わせるな。それが教皇の……ウェスト教会の意向だからだ。」
「ふーん。そんなの。女神を心酔している人たちと何も変わらないでしょ。」
「お前にも分かる時が来る。」
「フン。良いよ。長い旅になるからね。年月は人を変える。旅をしている間に、フォースの考え方も変わるかもしれないし。」
「君ももう少し大人になるかも知れないな。」
「うん。よろしくねフォース。」
 フォースは足を組み替えて窓を眺める。
 馬車が、石ころを踏んだのか、少し揺れる。
「少年。君は、記憶が戻ることに対して恐怖はないのか? 」
「うーん? どうして? 」
「青年だった頃の君は、何も喋らない静かな奴だった。今の君は、前の君とは正反対の人格をしているからだ。」
「元の自分が恐ろしいか……かよく分からないや。自分でも今の時代をまだ完全に処理しきれていなくてさ。元の自分に戻るなんて、まだそこまで考えられないや。」
「そう考えると、元の人格が戻ることに恐るというより、自分という二つの存在がどのように融合していくかという未知の部分に恐れていることはあるかもね。」
「孤児院にいた時、下の子たちに言われたんだ。アスィールっぽくないって。」
 神父は腕を組んで考えているようだ。多分、僕にどのような言葉をかけるのか迷っているのだろう。
「神父っていう職業は大変だね。」
 するとフォースは驚いた。
「若造に悟られるほどのものではないがな。」
 そうこう言っているうちに、周囲に明かりが見え始め、僕たちはいつの間にか城に着いていたらしい。
「気を引き締めろ。もう敵は潜んでいるかも知れない。」
 敵とは二重の意味があった。
 イーストサイドの刺客。
 そして、王家が守っている伝説の盾。
 僕はフォースの後を追い、馬車を降りた。


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