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第8.5章 雨季から夏のなんやかんや
第234話 焼き飯
しおりを挟む リンナの家に入る前にミランダさんは虚空に向かって何かを呟いた。
それをじっと見ていると私の視線に気づいたのか「エミリアにかけた消音魔法を解いていた」と説明してくれる。
確かにミランダさんがエミリアさんの声量を抑える為にその魔法をかけていたことは覚えている。
けれどどうして今それを解除したのだろう。疑問が表情に出ていたのかミランダさんが言葉を発した。
「少しでもあの娘の声が聞こえやすいようによ」
リンナの家と墓地は一本道だがそれなりに距離がある。
普通ならこの場にいて墓地からの声なんて聞こえる筈がない。
ないのだが、相手はエミリアさんである。
きっと抑制が解かれた今なら、それなりに気合を入れて叫べばここまで聞こえてくるに違いない。
だから私はそれ以上の疑問を抱くことなくミランダさんをリンナの家へと招いた。
森へ繋がる方の扉は開かれていたというのに一歩足を踏み入れると土と植物の濃い匂いがした。余りいい香りではない。
それは隠し切れない腐臭があるからだ。
けれど先ほどエミリアさんと通った時はここまで不快さを感じなかった。それは何故だろう。
その時とは状況が変わっているのだろうか。私はゆっくりと室内を見渡す。
真っ先にリンナの父親の人面花が目に飛び込んできた。正直姿が惨すぎて視線を逸らしたいぐらいだ。
「おじさん……」
それでも勇気を振り絞り話しかける。ミランダさんは観察の姿勢に入ったのか私の背後で無言を貫いていた。
墓地に向かったが結局彼の願い通りにリンナの母親を救うことはできなかった。
なぜなら墓地に彼女が存在しなかったからだ。いたのはリンナの姿をした魔物とレン兄さんとライルだけだった。
だから私は彼に尋ねる。
「おじさん、おばさんは一体どこにいるの?」
「アディ、ツマヲ、ツマハ……」
その体から生えている葉は先程のように森を指し示さない。
ぐったりと力なく下へと垂れ下がっている。
そう、下へだ。
「……地下室に、いるのね?」
「アディ、ツマハ、ムスメハ……」
バツヲ、ウケルノダロウカ。
そう苦し気な声で呟いたきり、人面花は言葉を発しなくなった。
それをじっと見ていると私の視線に気づいたのか「エミリアにかけた消音魔法を解いていた」と説明してくれる。
確かにミランダさんがエミリアさんの声量を抑える為にその魔法をかけていたことは覚えている。
けれどどうして今それを解除したのだろう。疑問が表情に出ていたのかミランダさんが言葉を発した。
「少しでもあの娘の声が聞こえやすいようによ」
リンナの家と墓地は一本道だがそれなりに距離がある。
普通ならこの場にいて墓地からの声なんて聞こえる筈がない。
ないのだが、相手はエミリアさんである。
きっと抑制が解かれた今なら、それなりに気合を入れて叫べばここまで聞こえてくるに違いない。
だから私はそれ以上の疑問を抱くことなくミランダさんをリンナの家へと招いた。
森へ繋がる方の扉は開かれていたというのに一歩足を踏み入れると土と植物の濃い匂いがした。余りいい香りではない。
それは隠し切れない腐臭があるからだ。
けれど先ほどエミリアさんと通った時はここまで不快さを感じなかった。それは何故だろう。
その時とは状況が変わっているのだろうか。私はゆっくりと室内を見渡す。
真っ先にリンナの父親の人面花が目に飛び込んできた。正直姿が惨すぎて視線を逸らしたいぐらいだ。
「おじさん……」
それでも勇気を振り絞り話しかける。ミランダさんは観察の姿勢に入ったのか私の背後で無言を貫いていた。
墓地に向かったが結局彼の願い通りにリンナの母親を救うことはできなかった。
なぜなら墓地に彼女が存在しなかったからだ。いたのはリンナの姿をした魔物とレン兄さんとライルだけだった。
だから私は彼に尋ねる。
「おじさん、おばさんは一体どこにいるの?」
「アディ、ツマヲ、ツマハ……」
その体から生えている葉は先程のように森を指し示さない。
ぐったりと力なく下へと垂れ下がっている。
そう、下へだ。
「……地下室に、いるのね?」
「アディ、ツマハ、ムスメハ……」
バツヲ、ウケルノダロウカ。
そう苦し気な声で呟いたきり、人面花は言葉を発しなくなった。
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