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10章 理不尽との戦い
10-7 頭が痛い案件
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馬車での移動は整備された街道を行き、途中休憩を挟みながら進んだ。
帝国側に準備された宿も一国の王太子を迎えるのにふさわしいものだった。
そして、すべてが順調だったため、日程通りに帝都に着いた。
「さすがは帝都。賑わっている」
「外は寒いのに、人がこれだけ外に出ているとは」
ソイファ王太子殿下と俺は馬車の窓から大通りを眺める。
馬車も人も行き交っている。
「この大通りは外壁の正門から城までつながるものですから、常日頃混みあっております。少し路地に入ると、寒い日には人影も見えないこともあります」
事務官が微笑みながら言った。
この帝国育ちの人の寒いという言葉は、俺たちが想像するよりも相当寒い。
外に出たら凍死しそうなぐらいの寒さなときだ。
「本日は予定通り、皇太子、大臣等との顔合わせ程度の挨拶になりますが、明日から会談、晩餐会、視察等の予定を組んでおりますので、よろしくお願い致します」
さて、この非公式な訪問で帝国からは何が出て来るだろうか。
どこまでも寒いこの国で。
城の門を通過し、問題なく城の玄関に辿り着く。
帝国の城は豪華絢爛というよりは、堅牢であり重厚といった言葉が似合う。
被支配層に威圧を加えるような建物である。
すべてが皇帝の威光を伝える。
そう、皇帝直属の騎兵が連なっているので、混んでいた大通りでも速やかに道を譲られた。
他国の要人という認識は持たれたようだ。
皇帝の重要な客人という扱いなのだろう。
広い玄関先、ソイファ王太子殿下とともに馬車を降りると。
「これはこれは遠くまで足を運んでいただき光栄だ」
「っ」
弾かれたようにこの場にいる帝国のすべての者が跪いた。騎兵もこれほど素早く馬から降りられるのかという速度で。
「これはキノア帝国皇帝自らお出迎えになられるとは、こちらこそ光栄です」
ソイファ王太子殿下が煌びやかな笑顔で対応する。俺も同じくらいの礼をする。
「皆の者、楽にせよ。これから親しくなる者たちだ。顔をとくと覚えよ。ようこそ、キノア帝国へ。皇帝として長く滞在してくれることを切に願うぞ」
長く滞在、で俺を見た。
この一行の予定は決まっているのですけどね。
「では、また後でな」
さっとマントを翻して城に入っていく皇帝。
その後ろ姿をキラキラとした目で見送る帝国の皆様。
恐怖や脅威だけではなく、畏敬の念を抱いている。
帝国において、皇帝だけは別格。
神をも凌駕しかねない存在。
そういう点において、歴代の皇帝は化け物である。
そして、そういう存在である皇帝が女性をエスコートすることはない。
正妃であっても後ろを歩くのが帝国。
横に並ぶ者など存在しない。
というわけで、この国でソイファ王太子殿下が俺をエスコートしなくても誰もとやかく言わない。
「ふむ、さすがだな」
小さい声でソイファ王太子殿下が呟いた。
「アウェー感が半端ないな。お前を歓迎するためだけに出てきたはずだが、個人の力の差を見せつけられるとは」
「帝国とソイ王国とでは求められる君主の姿が違うのだから、比較するのは間違いなのでは?」
王としての力量の差、という点をソイファ王太子殿下は言っているのだろう。
ソイファ王太子殿下は微笑む。
「あの年齢になっても、俺が敵うとは思えないな」
「ソイファ王太子殿下一人で皇帝に勝たなくても良いのでは」
コレは国対国の戦いなのだから。
「おや、オルレアはソイ王国が帝国に勝てる要素があると思うのかね?」
「ソイ王国は帝国に簡単に勝てるぞ。どんな手を使っても良いという条件付きだが」
「、、、どんな手を、というところが怖いから今は聞かない」
「友好国として手を結びあう国同士で取る手段ではないけどね」
敵対すれば、ということである。
俺たちは案内されて城内を進む。
城内は外装と違い、絢爛豪華な装いである。
調度品や内装は皇帝の好みによるのかもしれない。
長く広い通路を抜けて、広間に通される。
そこにいたのは。
「お嬢ちゃん、久々だな」
安定のお嬢ちゃん呼び。
アルティ皇太子である。
さて、なぜ俺がソイファ王太子殿下に対しては殿下とつけ、アルティ皇太子にはつけないかというと、敬意を払っているかどうかの違いである。世の中、どうでもいい奴にまで心のなかまで殿下をつける気はない。
ウィト王国にいたときに着ていた衣装より、装飾が豪華になった分、権威の黒が良く目立つ軍服を着ているアルティ皇太子の後ろには、ズラッと皇太子妃が並んでいる。
その横には他にもお偉いさんが並んでいるが。
「先程はキノア帝国の皇帝陛下にお迎えいただき嬉しく思います。アルティ皇太子殿下にもまたご歓迎いただけると我々といたしましても今後を憂う気持ちがなくなるというもの」
「堅苦しい挨拶は抜きにしよう、ソイ王国ソイファ王太子殿下。今日のところは顔合わせだけということだが、部屋を移して少し話そうじゃないか」
アルティ皇太子、後ろや横の怖い目に気づけ。
お前はまだ皇帝のような他人を惹き付ける魅力が少ないようだぞ。
何をやっても許される皇帝と、まだまだ未熟な皇太子。その図式がよくわかる。
ソイファ王太子殿下もほんの少し考えた後に。
「それもそうですね。お互い次に国を支える者同士、多少なりとも親善を進められたら僥倖です」
さすが受け答えが慣れてらっしゃる。
俺だと、は?とか言っちゃいそう。組んだ予定をトップ自らが崩すなとか言っちゃいそうだよ。
臨機応変ってヤツだな。
俺はただソイファ王太子殿下と目で合図しただけだ。
意志を直接本人に伝えようとすれば、ソイファ王太子殿下には緑の魔法の盾を持たせているからできるのだけど。
「ケッ、見せつけやがって。お嬢ちゃん、当てつけか」
護衛は山ほど壁際に立っているが、広い部屋でお茶している。
席に着いているのは、帝国側はアルティ皇子、ソイ王国側はソイファ王太子殿下とオルレアに扮する俺である。
「アルティ皇太子殿下、坊ちゃん呼びされたいのですか?」
俺は冷ややかに尋ねる。
もう忘れたのかと。あの問答を。
「あー、、、」
「そうですね、オルレアは私の婚約者です。親し気にされると妬いてしまいます」
ソイファ王太子殿下も援護してくれる。
というか、アルティ皇太子も俺がオルレアではなくオルト・バーレイだということは知っているはずだが。
わざとだろうけど。再びお嬢ちゃんと呼んだことは。
「オルレア殿、私の正妃になりたければいつでも大歓迎するぞ」
「お戯れを」
後ろに立っている皇太子妃軍団の目が怖く光る。
アルティ皇太子が許した者だけが横に座る権利を得るのだが、彼女たちは横に座れない。
ということは。
あれ?
マジで?
冗談かと思ったけど。
「本当に正妃が決まっていないのですか?すでにアルティ皇太子殿下は結婚されているのでしょう?」
「結婚当初、正妃が決まっていない前例は山ほどある」
「それはそうでしょうけど」
アルティ皇太子のことはどうでもいいから、結婚するのだから正妃が決まっていると思い込んでいた。
正妃が決まっていない皇太子妃軍団は戦いが過激化する、その席をめぐって。
「オルレア殿、その男の側妃になるくらいなら、我が元に来い。正妃として迎えるのは本気だぞ」
???
「オルレアは俺の妻になるのだから、御免被る」
笑顔のままで断るソイファ王太子殿下の顔にも、微妙に疑問符が浮かんでいる。
一応、俺も笑顔のままなのだが。
オルレアスマイルのままなのだが。
「その男が消えていなくなれば、お前の隣は空席になるぞ」
口の端で笑うアルティ皇太子。
嫌味な脅しだ。
コイツ、まだ俺のこと双子の姉オルレアだと思っていないか?
いや、それはおかしいことなのだが。
このような親善の場において、冗談にしては冗談が過ぎている。
おい、アルティ皇太子の教育係ルイジィ、出て来い。
説明しろ。
帝国側に準備された宿も一国の王太子を迎えるのにふさわしいものだった。
そして、すべてが順調だったため、日程通りに帝都に着いた。
「さすがは帝都。賑わっている」
「外は寒いのに、人がこれだけ外に出ているとは」
ソイファ王太子殿下と俺は馬車の窓から大通りを眺める。
馬車も人も行き交っている。
「この大通りは外壁の正門から城までつながるものですから、常日頃混みあっております。少し路地に入ると、寒い日には人影も見えないこともあります」
事務官が微笑みながら言った。
この帝国育ちの人の寒いという言葉は、俺たちが想像するよりも相当寒い。
外に出たら凍死しそうなぐらいの寒さなときだ。
「本日は予定通り、皇太子、大臣等との顔合わせ程度の挨拶になりますが、明日から会談、晩餐会、視察等の予定を組んでおりますので、よろしくお願い致します」
さて、この非公式な訪問で帝国からは何が出て来るだろうか。
どこまでも寒いこの国で。
城の門を通過し、問題なく城の玄関に辿り着く。
帝国の城は豪華絢爛というよりは、堅牢であり重厚といった言葉が似合う。
被支配層に威圧を加えるような建物である。
すべてが皇帝の威光を伝える。
そう、皇帝直属の騎兵が連なっているので、混んでいた大通りでも速やかに道を譲られた。
他国の要人という認識は持たれたようだ。
皇帝の重要な客人という扱いなのだろう。
広い玄関先、ソイファ王太子殿下とともに馬車を降りると。
「これはこれは遠くまで足を運んでいただき光栄だ」
「っ」
弾かれたようにこの場にいる帝国のすべての者が跪いた。騎兵もこれほど素早く馬から降りられるのかという速度で。
「これはキノア帝国皇帝自らお出迎えになられるとは、こちらこそ光栄です」
ソイファ王太子殿下が煌びやかな笑顔で対応する。俺も同じくらいの礼をする。
「皆の者、楽にせよ。これから親しくなる者たちだ。顔をとくと覚えよ。ようこそ、キノア帝国へ。皇帝として長く滞在してくれることを切に願うぞ」
長く滞在、で俺を見た。
この一行の予定は決まっているのですけどね。
「では、また後でな」
さっとマントを翻して城に入っていく皇帝。
その後ろ姿をキラキラとした目で見送る帝国の皆様。
恐怖や脅威だけではなく、畏敬の念を抱いている。
帝国において、皇帝だけは別格。
神をも凌駕しかねない存在。
そういう点において、歴代の皇帝は化け物である。
そして、そういう存在である皇帝が女性をエスコートすることはない。
正妃であっても後ろを歩くのが帝国。
横に並ぶ者など存在しない。
というわけで、この国でソイファ王太子殿下が俺をエスコートしなくても誰もとやかく言わない。
「ふむ、さすがだな」
小さい声でソイファ王太子殿下が呟いた。
「アウェー感が半端ないな。お前を歓迎するためだけに出てきたはずだが、個人の力の差を見せつけられるとは」
「帝国とソイ王国とでは求められる君主の姿が違うのだから、比較するのは間違いなのでは?」
王としての力量の差、という点をソイファ王太子殿下は言っているのだろう。
ソイファ王太子殿下は微笑む。
「あの年齢になっても、俺が敵うとは思えないな」
「ソイファ王太子殿下一人で皇帝に勝たなくても良いのでは」
コレは国対国の戦いなのだから。
「おや、オルレアはソイ王国が帝国に勝てる要素があると思うのかね?」
「ソイ王国は帝国に簡単に勝てるぞ。どんな手を使っても良いという条件付きだが」
「、、、どんな手を、というところが怖いから今は聞かない」
「友好国として手を結びあう国同士で取る手段ではないけどね」
敵対すれば、ということである。
俺たちは案内されて城内を進む。
城内は外装と違い、絢爛豪華な装いである。
調度品や内装は皇帝の好みによるのかもしれない。
長く広い通路を抜けて、広間に通される。
そこにいたのは。
「お嬢ちゃん、久々だな」
安定のお嬢ちゃん呼び。
アルティ皇太子である。
さて、なぜ俺がソイファ王太子殿下に対しては殿下とつけ、アルティ皇太子にはつけないかというと、敬意を払っているかどうかの違いである。世の中、どうでもいい奴にまで心のなかまで殿下をつける気はない。
ウィト王国にいたときに着ていた衣装より、装飾が豪華になった分、権威の黒が良く目立つ軍服を着ているアルティ皇太子の後ろには、ズラッと皇太子妃が並んでいる。
その横には他にもお偉いさんが並んでいるが。
「先程はキノア帝国の皇帝陛下にお迎えいただき嬉しく思います。アルティ皇太子殿下にもまたご歓迎いただけると我々といたしましても今後を憂う気持ちがなくなるというもの」
「堅苦しい挨拶は抜きにしよう、ソイ王国ソイファ王太子殿下。今日のところは顔合わせだけということだが、部屋を移して少し話そうじゃないか」
アルティ皇太子、後ろや横の怖い目に気づけ。
お前はまだ皇帝のような他人を惹き付ける魅力が少ないようだぞ。
何をやっても許される皇帝と、まだまだ未熟な皇太子。その図式がよくわかる。
ソイファ王太子殿下もほんの少し考えた後に。
「それもそうですね。お互い次に国を支える者同士、多少なりとも親善を進められたら僥倖です」
さすが受け答えが慣れてらっしゃる。
俺だと、は?とか言っちゃいそう。組んだ予定をトップ自らが崩すなとか言っちゃいそうだよ。
臨機応変ってヤツだな。
俺はただソイファ王太子殿下と目で合図しただけだ。
意志を直接本人に伝えようとすれば、ソイファ王太子殿下には緑の魔法の盾を持たせているからできるのだけど。
「ケッ、見せつけやがって。お嬢ちゃん、当てつけか」
護衛は山ほど壁際に立っているが、広い部屋でお茶している。
席に着いているのは、帝国側はアルティ皇子、ソイ王国側はソイファ王太子殿下とオルレアに扮する俺である。
「アルティ皇太子殿下、坊ちゃん呼びされたいのですか?」
俺は冷ややかに尋ねる。
もう忘れたのかと。あの問答を。
「あー、、、」
「そうですね、オルレアは私の婚約者です。親し気にされると妬いてしまいます」
ソイファ王太子殿下も援護してくれる。
というか、アルティ皇太子も俺がオルレアではなくオルト・バーレイだということは知っているはずだが。
わざとだろうけど。再びお嬢ちゃんと呼んだことは。
「オルレア殿、私の正妃になりたければいつでも大歓迎するぞ」
「お戯れを」
後ろに立っている皇太子妃軍団の目が怖く光る。
アルティ皇太子が許した者だけが横に座る権利を得るのだが、彼女たちは横に座れない。
ということは。
あれ?
マジで?
冗談かと思ったけど。
「本当に正妃が決まっていないのですか?すでにアルティ皇太子殿下は結婚されているのでしょう?」
「結婚当初、正妃が決まっていない前例は山ほどある」
「それはそうでしょうけど」
アルティ皇太子のことはどうでもいいから、結婚するのだから正妃が決まっていると思い込んでいた。
正妃が決まっていない皇太子妃軍団は戦いが過激化する、その席をめぐって。
「オルレア殿、その男の側妃になるくらいなら、我が元に来い。正妃として迎えるのは本気だぞ」
???
「オルレアは俺の妻になるのだから、御免被る」
笑顔のままで断るソイファ王太子殿下の顔にも、微妙に疑問符が浮かんでいる。
一応、俺も笑顔のままなのだが。
オルレアスマイルのままなのだが。
「その男が消えていなくなれば、お前の隣は空席になるぞ」
口の端で笑うアルティ皇太子。
嫌味な脅しだ。
コイツ、まだ俺のこと双子の姉オルレアだと思っていないか?
いや、それはおかしいことなのだが。
このような親善の場において、冗談にしては冗談が過ぎている。
おい、アルティ皇太子の教育係ルイジィ、出て来い。
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