男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

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10章 理不尽との戦い

10-6 高い高い壁

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 デント王国とキノア帝国との国境。
 デント王国側には街など存在せずに砦がある。もちろん、離れた場所に帝国側も砦がある。

 デント王国とソイ王国の間には高い高い国境の壁があると思っていたが、この国境はさらに高く長く堅牢だ。
 帝国の危険度がわかる壁だ。

「出入国管理事務所なんかあるわけないか」

 国交がない国って通常こうなのかもしれない。
 商人はリスクを背負って、こういう国々を行き来している者もいるから、完全に閉ざされているわけではないが。
 壁同士の間の空間は、人が歩いたらすぐわかるようになっている。

 今日は砦の門がどちらの国も開いている。

「よ、ようやく帝国に」

 涙ぐむなよ、ルイジィ。

「オルレア様、大変申し訳ございませんが、我らはこの門までしか行けませぬ」

 御者の一人が帽子をとってお辞儀した。

「いえ、こちらこそありがとうございました。女王陛下によろしくお伝えください」

「承りました」

 皆も馬車から荷物を降ろして背負う。
 帝国側も門のところに馬車が何台か停まっているように見える。
 ルイジィがこちら側にいるので、きちんと連絡していたのだろう。

 今のところ、この壁と壁の間はお互いの国は不可侵ということらしい。
 出入国する者だけがこの土地を歩く。

「じゃあ、行くぞ、皆」

「おうっ」

「オルレアー、先に行っちゃダメだよー。俺と一緒にー」

「あ、」

 ソイファ王太子殿下とともに行動しなければならないということをつい忘れる。
 オルレアとして行動しているという意味をしっかり頭に刻まねば。
 バレている人物にはバレているのは仕方ないのだが。

 ソイファ王太子殿下はオルレアと一緒にいても放任してそうな気がするのは、気のせいではないのだろうけど。
 オルレアの好き勝手にさせてそうだ。
 後ろでニコニコしながら、馬鹿やるのも可愛いとか言ってそうだ。
 ソイ王国の騎士学校でもオルレアの好きにさせていたようだからなあ。

 ただ、バーレイ侯爵家夫妻のように我がまま好き勝手にさせ、手綱を握っていないかというとそうではない。
 都合の良い方にうまーく誘導されている気がする。

「一応ソイ王国からの親善の一団ということになっているからね、非公式とはいえ」

 国交がないからこそ、とりあえずは話し合ってみましょうよ、という腹の探り合い。
 隣国ではないからこその。

 ルイジィもそのように手配した、はずだ。

 俺はソイファ王太子殿下と共に並んで、帝国側の砦に向かう。皆も後ろからついてくる。

「オルトも初めてでしょう、帝国に行くのは」

「いや、俺は何回か来ている」

「え?何で?最強の盾は国外に出られないって言われてなかった?」

「平時には。戦時では別の話だ。真っ先に出るのが、最強の盾だ」

「、、、つい最近、ウィト王国は帝国と戦争になったことあったっけ?」

「俺が国の結界を張り始めてからはないが、叔父のバーレイ伯爵が結界を張っていた当時に、戦争になりそうだからとめて来いというバーレイ侯爵の無茶振り命令で何度か一人で」

 ソイファ王太子殿下の表情が思案顔になった。
 後ろのルイジィは苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 戦争になる前に潰したものだ。
 バーレイ侯爵は弟のバーレイ伯爵が大切だから前線には送りたがらなかった。
 無理難題を解決しなければならなくなる者は、自ずと決まってくる。

「兄上が国外に出たのはソイ王国のあの一件だけだ。今後、さらに出国することは難しくなるだろうが頑張ってくれ」

 ソイファ王太子殿下が軽く頷くと。

「さて、もうあちらに声が届く距離だ。オルレア、しばらくよろしく頼む」

「こちらこそ」

 本日は気合い入れてナチュラルメイクを完全フル装備した。銀髪のつけ毛もキラキラに艶めく。
 というか、本物のオルレアは髪を短くしているが、世間の認識はオルレア長髪、オルト短髪、のままである。
 オルレアが男装をしていても、帝国では軍人であれば女性でも軍服を着用するので、ウィト王国ほどの違和感はないだろう。ウィト王国でも女性の騎士は騎士の制服を着用するんだけどね。
 ウィト王国では貴族の令嬢が男装しているのがおかしい、っていう話である。

「お待ちしておりました、ソイ王国ソイファ王太子殿下、婚約者オルレア様。帝国一同歓迎いたします」

 帝国側の砦に通されると、何台もの馬車の近くに軍人がズラリと並んでいる。
 その中でも偉い人なんだろうなという人が前に出てソイファ王太子殿下に向かって言った。

 もちろん華やかな記念式典などはない。
 あくまでも非公式の訪問である。
 お互いを知るために設けた場なのである。

「歓迎いただきありがとうございます。ソイ王国としてもこの歓迎を非常に喜ばしく存じます」

 シャラーン。
 何か背景に音が鳴ったぞ。花が飛んだぞ。
 いつもの馴染みやすい態度のソイファ王太子殿下はどこかに消えて、これぞ王太子って顔になった。
 さすがだな。役者になれるぞ。
 ソイファ王太子殿下の衣装も衣装だからな。馬子にも衣装。

「この砦では無粋なおもてなしもできませんので、早速ですが馬車にお乗りいただき、事務官と今後の細かい日程等の調整を話し合いながら移動をしていただこうかと思います」

「そうですね」

「馬車には帝国の厳選した早馬を用意いたしまして、帝都までは一番早く到着する手段ですが、それでも数日はかかります。良き旅になることをお祈り申し上げます」

 砦の重役が帝国の案内係になるのは難しい。
 落ち着いてきたといえども、槍で王子の頭を送り返してきた女王がいる国だ。
 きちんと用意された案内役の事務官が二人ほど頭を下げた。

 だが、馬車七台に、騎乗した騎士が大勢。
 護衛役なのだろうけど、そこまでの数いらない。
 ソイ王国やウィト王国を舐めてない、というパフォーマンスか?

 馬車は六人乗りなのだが、ソイファ王太子殿下と俺、事務官二人が一台に、後は三人ずつ一台なのだが必ず帝国の役人二人以上が乗っている。その上で一台は帝国の役人だけが乗っている。きちんと交替要員を乗せてきているのだろうか。

 他国とはいえ王太子が動くとなると、帝国でもかなりの警備体制を引くのか。
 戦争大好き国家なのに。
 反対に攻め入るために難癖つけそうな国なのに。

 デント王国やウィト王国が間に入っている国を攻めるのは難しいか。
 魔導士による遠い国への攻撃というのはなくはないし、飛び地の管理もできないわけではないが、反乱、革命がついてまわる土地になることが少なくない。気の休まるときがなくなる。


 俺はソイファ王太子殿下と帝国の馬車に乗り込む。
 ルイジィは同乗しない。
 帝国に連れて来た功労者はルイジィであったとしても、彼は皇帝の影。表舞台に立つ人間ではないと帝国ではされている。
 そして、俺が最強の盾オルト・バーレイとしてではなく、ソイファ王太子殿下の婚約者であるオルレア・バーレイとして帝国に入国したのも関係があるだろう。

 馬車が動き出すと、お決まりの挨拶、事務官の説明が始まった。
 帝都に着くまではまだ長い。

 ソイファ王太子殿下は帝国にいる間は空間転移魔法を使わないのかな、と思ったら、けっこう使う。
 暇な移動時間はたまった仕事をしに帰っていく。

 事務官の、なら最初から皆が帝都に着いてから来れば、という視線は、ソイファ王太子殿下は見なかったことにするようだ。
 ソイファ王太子殿下の行動は多少パフォーマンス的なものがあるから仕方ない。
 ここにいるのはオルレア・バーレイなのだという、事情を知らない者にはそれで押し通すことにしているからだ。
 ソイファ王太子殿下だって、隣に最強の盾がいなければ、帝国へ敵情視察に来ようとは思わなかったのだろうから。
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