男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

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3章 妄想のなかの、理想の王子様

3-14 第二王子の誘い4

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 王都の郊外にある、王族の別邸。
 周囲には緑が溢れているが、きちんと整備されている。
 人の手が加わっている土地である。

 別邸も王族に相応しい華やかな建物だが、自然に調和した佇まいである。
 玄関に馬車が着いた。

「オルト・バーレイ様、ネオ殿下はこちらにすでにお越しです。ご案内いたします」

 別邸の玄関で使用人に出迎えられる。
 今の俺は長い髪をみつあみにして帽子の中に入れている。
 乗馬を目的にしているので、乗馬服で来ている。

 しっかし、イーティに用意してもらったこの乗馬服、俺にぴったりなのだが?
 採寸さえさせていないのに。。。
 完全にオーダーメイドの服だ。

 あの人、高度な魔法は使えないのに、人海戦術で情報をかき集めることができる方が怖いよ。
 侯爵家御用達の服飾工房からどのように採寸表を手に入れたのだか。

 何着か着替えさせられ、似合ってる、と言われたのも正直嬉しかった。
 こうしてハニーを私色に染め上げていっているのに、そのことを知らない者たちに自分のための装いと勘違いさせてやる、とイーティに謎の宣言されながら、プレゼントされたすべての乗馬服を鞄の中に詰められた。


 あの行動力を見て、自分が今まで訓練しかしてこなかったことに今更ながら反省する。

 イーティの行動はすべて、彼が皇帝になったときの盤石な基盤を確立するためのものだと俺はあのときまで思っていて、皇帝にならなかったときのための行動だとは露ほどにも考えていなかった。
 俺の魔法では行動は見えても、その人物の心の内側までは見えない。
 日記にでも本心を書いてくれたのならともかく、行動から勝手に推測するしかない。

 その真意を知り、彼の凄さを知る。

 皇帝になれない、もしくは、皇帝になったとしても殺される可能性が高いことを知ってもなお諦めずに。
 皇帝にならなくても、殺されないために、奴隷にされないために。
 あらゆる手を尽くして。

 俺はこの国で最強の盾になることが嫌だったのだろうか。
 最強の盾になることは絶対だと思い込み、ならないための思考を放棄していたのかもしれない。
 

「オルト殿、よく来てくれた。今日は天気も良いから、早速、馬に乗ろうか」

 乗馬服姿のネオ第二王子が笑顔で言ってくれた。
 ネオ王子も相手が令嬢だったら、少し休憩してから出発しようと言うのだろう。
 けれど、俺は馬車のなかではのんびり座っていたのだ。
 王城での世話役らしき人物が同じ馬車で一緒に座っているので、勝手に訓練なんてできなかったのである。
 身体面の休憩ならいらんほど取れた。精神面では疲れたけど。

「ネオ王子殿下、この度は乗馬に誘っていただきありがとうございます」

「礼には及ばない。私が其方と話したかったからだ。この機会を逃すと、次はいつになるかわからないからな」

 この機会?
 にこりと微笑むネオ王子の本音はどこにあるのだろう。
 話をすると言っても、ネオ王子の周囲には護衛の親衛隊やら従者やらがわらわらといる。

 マイア様は簡単にやってのけるが、おそらく完全な人払いというのは王子といえどもできないのではないだろうか。

「こちらに来てくれ」

 厩舎に連れて行かれ、何頭もの馬を見せられる。

「今日はこのなかから気に入った馬に乗ってほしい」

 ネオ王子にはすでに一頭、鮮やかな栗毛の馬をお付きの人が引いてきている。

「そうですねえ」

 オルレアの愛馬のように男を乗せたがるのが嫌な馬じゃなければ。
 乗せてくれるのなら、どの馬でもありがたいのだが。

 馬房の一つにいる白馬がツーンと横を向いていて視線を合わせようともしない。うん、オルレアの愛馬のようだね。
 隣の黒馬が俺にしろーと言っているかのように俺をじっと見ている。あ、雌だった。私にしろー、か。
 近寄ると、匂いをかいできた。少なくとも他の馬よりも俺に好意的だ。

 この馬にしよ。

「ネオ王子殿下、この馬でよろしいでしょうか」

「ふふっ、そちらの馬か。皆の予想が外れたな」

「予想?」

「白馬に乗った王子様なら、白馬を選択するとな」

「白馬に乗った王子様を演じているのはオルレアですよ?」

「ああ、そうだったな」

 他愛もない話をしながら、軽く小道を馬で走る。
 乗馬と言っても訓練ではないので、優雅なものだ。
 こーんな優雅な乗馬ってしたことなかったなー。

 遠くからお付きの者たちもカッポカッポと馬でついて来ている。

「ここまでが王族の許可した者しか入れない場所だが、ここから先は王族の所有地だが自由に散策できる区域に入る。この先には湖があるから、そこで昼食にしようか」

 景色が良いところを一人占めしないところが、王族の素晴らしいところか。
 と言っても、王族もそう頻繁にこの別邸に来ているわけではない。たまにしか来ない王族相手にこの広大な場所に莫大な整備費をかけるのも問題だ。ある程度の範囲を一般開放した方が良いに決まっている。

 ガゼボと言うには豪華であり、休憩所として利用される建物が、湖の良く見える場所に存在した。
 壁はないので風が通るし、木漏れ日に囲まれ景色もいい。
 ピクニックならば、お弁当を広げる絶好の場所である。
 すでに人が出入りしており、昼食の準備をしていた。
 先客がいるのかと思ったら、ネオ王子が手配していた者たちだった。
 馬を預けて、席に着く。

「手軽に手で食べられるものを用意してもらった。好きなものを食べてくれ」

 二人で食べるには多い種類と量がテーブルの上に並んでいる。
 ネオ王子って大食漢だっけ?そうは見えないけど。
 俺は普通の食事量だけど、残してもこれだけの人数がいればどうにかなるのだろう。

 ここでも学校の授業はどうなのかとか、バーレイ侯爵家の訓練はどのようなものをやっているのかとか、他人が聞いても当たり障りのない会話を続けた。

 前の道を、たまに馬をのんびりと走らせる者たちが会釈して通り過ぎる。
 ここにいるのが王子だとわかったら、馬を降りて挨拶に来てしまうので、気づかれない方がありがたいと思ってしまうのは俺の都合か。

 ただ、その度ごとに親衛隊や従者たちがちょっと不機嫌になるのはやめて欲しいのだが。
 空気が伝わる。
 紋章を掲げていないため、この場にいるのが誰でもお忍びだと察してくれているのだから。

「第二王子というのは顔も名前もあまり知られていない。貴族にだって忘れる者がいるくらいだ」

「そうですか?さすがに忘れるのはないかと思いますが」

「ルオ、ネオ、クオなんて似たりよったりの名前つけたから、よく言い間違えられるよ。言った本人は間違ったことさえ気づかないことが多いし」

「そういえば、王妹殿下のご令息もレオ様ですね。王族は似たお名前を付けられるのですね」

 俺の言葉に、ネオ王子が意味深に笑った。
 あれ?

「父と叔母上ってものすごく仲が良いと思わない?レオってつけたのも父だよ」

 小さい声でネオ王子が俺に耳打ちした。
 その言葉が意味することは。

「ネオ殿下、」

 近くに立っている少々年齢を重ねている者がネオ王子を窘める口調で呼んだ。

「ふふっ、オルト殿は聞いたことなかった?有名な噂だよ。今回、デント王国がほんの少しキナ臭くなった時点で呼び戻したから再燃した」

「疑う者がいるのなら、血を見れば済む話なのでは?」

 俺が社交界の噂なんか知るわけもない。事実ならともかく。

 実際、国境を封鎖される前に呼び戻して正解だったわけだが。
 あの国は帝国の第四皇子に国王夫妻を殺され、第一王女が跡を継いだ。
 都合が良いことがあるものだ。

「それをすること自体が不敬だと反対する者がいて、どうにもならない」

「王族というのは難しいのですね」

 俺に困ったように微笑むネオ王子。
 何か変なことを言ってしまったか?

「バーレイ侯爵から国に報告が上がって来た。イー商会の商会長をオルト殿の婚約者にしたと」

「早いですね」

 思った以上に国に報告するのが早いな。
 今、最強の剣として動いているのは兄だから、思いっ切り暇なのかもしれない。
 あれ?オルレア捜索はどうしたんだか。暇人しているなら見つけたのか?
 とりあえず、それは横に置いておこう。この場で考えることではない。

 婚約の話もネオ王子が聞きたいことの一つなのかもしれない。
 だが、コレはネオ王子が乗馬に誘うほど俺と話したいことではない。
 コレはあの舞踏会のときには影も形もなかった話だ。

「それ、国が猛反対するとは思わない?」

「ウィト王国がですよね。まあ、普通に考えるとそうなりますが、けれど、国が反対する権利があるんですか?」

「、、、うん、それもまた正論なんだけどね。そもそも何でバーレイ侯爵が許したの?帝国の第一皇子との婚約を」

 知らなかったからでしょ、同一人物だって。

 そもそも、イー商会というのは十年以上前からこの国に出入りし、支店も作っている。
 俺もこの商会のことを知ってはいたが、帝国に本当の本店があったとしても特に害がない商会なので放置していた。
 もちろん、上流階級向けの宝石貴金属、化粧品、薬等を販売しているので、バーレイ侯爵夫人やオルレアも愛用している。

 昔から付き合いのある商会の商会長が帝国の皇子なんて思ってもいない人たちだ。
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