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21章 幸福の時間

21-8 覚悟の時間

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「はははっ、クソ英雄のギフトでも、その未来は見えなかったようだな」

 高らかに笑うククー。
 まるで悪役のようだよ。
 はいはい、ククーの言う通り見えなかったよ。。。

 王子に師匠と呼ばれる日が来るとは。

「いきなりどうしたの、王子」

「今の僕には力も何もない。でも、聖教国エルバノーンにいつか行くのなら、力は絶対に必要になる。それがアルスの名を借りたものでも、やり遂げなければいけないのは僕だ」

「、、、うん」

 ちょっと目を閉じてみる。
 その通りなんだけど。
 あ、俺が王子に覚悟を求めすぎてしまったようだ。
 もしかして、聖教国エルバノーンは神聖国グルシアの属国にもならなくて済むかもしれない?多少の支援は必要になるとは思うけど。神聖国グルシアもアディ家の要望を無視することはできないだろう。

「だから、レンの時間が空いているとき、少しでもいいから僕に教えてください。師匠っ、お願いしますっ」

 王子が土下座までし始めた。
 王子の強い気迫を感じられる。
 けど、教えると言っても何を?
 師匠と呼ぶほどの教えって?
 王子には角ウサギたちがコレでもかと知識を教えている。こんな知識いるのか?と思っていた帝王学やら何やらも教え込まれている。

「ククー、王子に足りないものって何?」

「魔術か魔法。あと体力」

「それもだけど、それだけじゃなくて、レンの生きる強さを」

 王子の目が俺を見る。

「それは、、、王子は。。。出会ったとき、王子は俺をククーと似ていると思ったんだろ。その俺に生きる強さを聞くのか?」

「うん。だって、あのとき生きるのを諦めかけていたにもかかわらず、レンはククーと超長生きするんでしょ」

 俺は目を瞬く。

「そうか、そうだったな」

「レンの根底にある強さを、僕も身につけたい。身につけることができなくても知りたい、学びたい」

「それを言うならククーだって」

「ククーはレンがそばにいるなら無敵だから」

「へ、」

「ククーはレンがそばにいるなら何だってできるけど、僕はそれを参考にすることができない」

 ククーの根底にある強さは俺ってことか。
 即座に納得する。
 ククーを見ると、ほんの少し赤くなって俺から視線を逸らした。

 大切な人がいれば、守る人がいれば強くなれるというのは、ある意味で正しい。
 だが、普通の人ならば、その人がいるから、というのは言い訳であり、建前である。本音は一番自分が可愛いし、自分のために強くなる。
 その人のためだけに生きることも死ぬことも選択できる人間が持っている強さは、王子が見習ってはいけない強さだ。
 王子のククーを師として選ばない選択は正解だろう。 

「レンがヴィンセントと一緒になっても、ククーはレンを想い続けることができる。でも、僕にはそんな強さはなかった。たぶんこれから僕に大切な人ができたとしても、その人のためだけに生きることができるかというと難しい気もする。それを考えると、僕に必要なのはレンの強さだと思う」

「うーん、そっか。けど、生きる強さに関しては、王子がどう受け取るか如何によるものが強いと思う。まずは魔法や魔術から身につけてみようか」

 生きる強さが何かというのは個人個人で違うだろう。
 王子は王子のものをいつか見つけるだろう。

 俺やククー、角ウサギたちは若い王子よりも長生きする。
 王子が生きている間、ずっと支えることも可能だ。

 けれど、そういうことではない。
 王子が必要になったときに差し伸べる手は必要かもしれないが、至れり尽くせりで支えてやる必要はない。
 王子は王子の足で歩けるのだから。

「はい、師匠っ」

 笑顔の王子がここにいる。
 俺は師匠と呼ぶ子供がもう一人増えるとは露とも思わずに。




「わ、我が心の師匠、」

 キラキラとした瞳で俺を見た少年がいた。
 王子が、知ってたの?って顔で俺を見ている。
 聖都の屋敷の玄関にて、学園の制服に白いマントを羽織った、王子の友人と紹介された少年。

 白いマントって、もしかして俺の真似だった? 

 会うのは、魔道具展示会以来だ。
 彼は俺が手首を切り落とした少年だった。
 わー、憧れてくれたのー、嬉しいなー。←棒読みで。。。

 ちょっと頭を抱える。
 この子、あの場ではやや呆然としていたからな。
 その後、周囲で欠損した手が戻ったことを騒がれて、その重大さに気づいたのか。
 マントだから、俺が魔術師だと勘違いしたのか。魔法師だよー。いや、今はそんなことどうでもいいか。

 あ、今日はフォローしてくれるククーがいない。
 王子が友人として連れてくる子供なら平気だろうという判断だ。判断のはずだが、、、もしや知っていたのか?
 遠くから四匹の我が従魔の角ウサギが俺たちを見ている。もうちょっと近くに来ないか、お前ら。より遠くに離れていくな。

「キ、キイ、この方はお前の父上かっ、年の離れた兄上かっ」

 王子が困ったように俺を見た。
 そういえば、俺と王子の関係って何だろう?
 今まで問われることもなかったので、考えもしなかった。
 友人と言えば友人となるが、ククーのように義兄弟とも言えないし、保護者と言えば父親ではないのが不思議がられるだろう。

「ぼ、僕の師匠だよっ」

 王子、言い切った。
 この少年に対する対抗心?

「羨ましいーーーっ。僕も弟子にしてくださいっ」

「ご辞退いたします」

 間髪入れずに俺も断った。

「くそーーーっ、うちもお金があったらなーーーっ」

 あ、俺、この家に雇われていると思われた?

「ルタ、違うよー。ここ、レンの家なんだよー」

「ここ、お前んちじゃなかった?」

「そうだよー。僕も住んでるよ」

 ルタ少年の頭のなかに疑問符が飛んでいる。
 思い出せ。キイの姓を。キイ・アディ。アディ家の人間である。
 アディ家の人間が学園に来るはずもないと思い込んでいるので、あのアディ家とは思われていないようだが。

 ククーはわざと逃げたな。事情を知らない人間に俺たちの関係を説明するのは非常に面倒だ。
 しかも、アディ家の人間が何でこの屋敷に住んでいるのかも。
 ククーと俺の関係も説明しづらいものだな。ヴィンセントは配偶者です、と言ってしまえば説明が済んでしまうが。
 今までは、ククーのことは説明する前に知られている状態だったからなー。
 さすがに俺の元諜報担当です、とか初対面の人には言えない。
 
「そ、そうか。師匠の家に住んで、寝食ともにして奥義を会得しようとしているのかっ。な、なんて羨ましい生活なんだ」

 違うけど、それを訂正する語彙力は今の俺には失われています。
 どこに行ったんだろう、俺の語彙力は。迷子にでもなったかな?
 何も知らない子供に説明するのがこれほど難しいことだったとは。
 
「ルタ、俺はこの神聖国グルシアで冒険者をしている。気軽にレンと呼んでくれ」

「よ、よろしくお願いしますっ。レ、レンさん、たまに遊びに来て良いですかっ」

「、、、王子、じゃなかった、キイが招くならね」

 ついつい王子って言っちゃった。ルタが王子を二度見していた。
 王子は王子なんだけど、王子じゃなくてね、、、意味がわからなくなるから何も言わないでおこう。
 本当に俺の語彙力が行方不明になっちゃったよ。

 英雄のギフトに頼りたい。
 けれど、ここで収納鞄から剣を取り出すのもね。。。
 今度から客が来るときはしっかり腰に携えておこう。
 子供だからって油断したらダメだねー。

 後で、王子が王子は愛称だよーと説明するだろう。俺が慌てて否定すると、別の意味での肯定と受け取られかねない。


 なぜだか、王子が国王になっても、俺は王子と呼び続けてしまう気がする。。。
 何を言っているんだ、コイツは?という目で王子の周囲から見られる、だろうな。
 うん、王子は愛称なんだよ、愛称。
 普通なら、第一王子ならば年数が経てば、いつかは国王と呼び方が変わる。
 それなのに、王子が成長しても、俺の見た目の年齢を超えた姿になったとしても、国王の貫禄がついたとしても、俺は王子と呼んでしまう自信がある。

 うん、どうしよう。
 王子、笑って許してくれるかな?
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