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21章 幸福の時間

21-6 講義の時間

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「何、ダンジョンに響くこの警報は?」

≪我が王の爆裂魔術はいつも凄まじく、上下数層がかなりの揺れになり危険なので、我が王の動向を知った者は素早く警報を出し、しばしの間、周辺にいる角ウサギたちに避難を促しています≫

 五十九号が俺の問いに答えた。
 俺たちがいる聖都の屋敷の台所には何の音も響いていない。

「清掃魔術だぞ?爆裂魔術なんか使ってないぞ」

≪・・・≫

 無言を光の文字で書くな。
 大神官長があの階層を更地にしてから、あそこは俺の魔術練習用の階層となった。
 俺のダンジョンでも、何もない荒涼とした大地が広がる珍しい階層だ。

「とりあえずダンジョンに行くか」

 王子とククーを伴って、ククーの書斎の扉からダンジョンに向かう。台所にいる角ウサギたちはついて来なかった。ツノたちも。。。王子は放っておいていいのか?

「レンのダンジョンにこんなところあったんだねー」

 王子が何もない階層を見渡した。
 昔は畑だったんだけどね。大神官長が更地にしなければ。
 悲しい思い出だ。

「ククーは簡単な攻撃魔法は多少使えただろう。使ってみろ」

「あのヘロヘロで小さな水魔法か?まあ、とりあえず、水球っ」

 試しにやってみました感がアリアリとわかるククーの魔法の唱え方だった。

 ドドーンっ。

 普通の攻撃魔法の威力にはなっている。
 うちの角ウサギには傷一つ負わせられないだろうが、一般人ならば当たればけっこうな痛手を被るだろう。

「え、えっと、レン、コレは?ダンジョンだからか?今、俺は魔道具も魔石も持っていないぞ」

「肉体改造中のククーだから、こんなものだろう。もう少しすれば、もう少し派手な魔法になるぞ」

 もう少しを連呼したが、もう少しの具体的な期間を言うのは差し控える。個人差があるので。

「は?」

「うん?」

 ククーがわかってないのを、俺が理解していないのを見て、ククーが俺の肩を叩いた。

「レン、説明してくれるかな?肉体改造中というのは、俺の爪や髪が伸びないのと関係あるのかなー?」

「関係ある。最初から説明しないとダメか?」

「してもらえると助かる」

 俺はククーに頷いた。
 だが、とりあえず俺は収納鞄から的を出した。そして、少し遠くに棒を突き刺す。

「王子ー、まずは自力で魔法か魔術かできそうか、試しにこの的を狙ってやってごらん」

「うんっ、わかった」

 王子は片手にヴィンセントからもらった魔法の手引書を持っている。
 それを開いたまま地面に置き、的に手を向けている。

 俺はククーに向き直った。

「さて、肉体改造の説明だが、ククーは俺にダンジョンで誓ってくれたため、俺と同じように人間の肉体が魔力に置き換わっていっている。人が魔力を使って魔法や魔術を使うと、魔力が消費されなくなっていくものだが、俺たちのカラダは魔力といえども、霧散することはない。つまり、魔力の塊である魔物と同じような構造になっていっている。ただ、魔物も魔力の塊とはいえ、討伐されれば肉や素材が普通に残るだろう?」

「ああ、そういえばそうだな」

「魔力に置き換わっても普通に触れるし、自分で髪を伸ばしたいと思えば伸ばすことも可能だ。コレは時間の経過で髪が伸びるというわけではなく、魔力を操作して伸ばしているという感覚の方が正しいだろう。だから、ククーのカラダが徐々に魔力に置き換わるにつれて、ギフトで制限のあった枷が外れていく。無尽蔵に魔力が体内に貯蔵される状態になっているから、本来、ククーの場合ギフトだけでいっぱいいっぱいだった体内にある魔力量が増えて、他の魔法も使えるようになっていっている」

「カラダが魔力化すると姿形が変わらなくなるのは、ある意味、魔物化するってことか」

 魔物はそのままでは成長しない、本来は。魔力を他者から奪うことで、変化させることができる。
 ダンジョンではダンジョンコアが魔物に魔力を与えるが。

「誤解を恐れずに言うと、そういうことになる。魔族が長生きなのはそれなりの魔力を貯蔵できるからでもあり、配偶者に魔力を譲渡できるからでもある。だが、魔物のようにすべてが魔力で作られていないから、魔力が供給されてもカラダの寿命が来てしまう」

「、、、その説明だと魔物は不老不死もあり得るのか?」

「理論上は可能だが、魔力を供給し続けることができるダンジョンコアは存在しない。いつかは魔力が尽きる。この俺のダンジョンも今は魔脈の吹き溜まりにいて魔力を垂れ流している状態だが、コレが途切れれば、、、」

「途切れれば?」

「うーん、どのくらい持つんだろう?ダンジョンコアの角ウサギには俺からの魔力がほとんど必要ないからな。魔石作りや酒の泉や薬草栽培で魔力を使ってはいるが、吹き溜まりがなくなれば今のように大量に栽培しなくても良いぐらいだし、角ウサギが食べるくらいの収穫物ができれば良いと思えば、、、とりあえず千年は軽く持つか」

「その説明では吹き溜まりが維持されている限り、ずっと持つと聞こえるんだが?」

「その通りだ。だが、まあ、呪いが落ち着けば、他のところも落ち着くように、この吹き溜まりも落ち着くだろう」

「結局は呪いか」

「最凶級ダンジョンができる原因が呪いの量産だからな。量産された呪いが地下の魔脈に悪影響を及ぼすせいだからな」

 ククーは数秒ほど目を閉じ沈黙した。

「なるほど。うん、そうか」

「理解したか?」

「ああ、ものすごく嬉しい」

 ククーは俺を見て優しい目で微笑った。

「嬉しい?」

「そんなに長い時間アンタのそばにいられるなんて夢のようだ」

 人によってはそれは拷問のようだと言うだろう。
 ククーが夢のようと言ってくれるだけで、俺も嬉しい。

「うう、、、レン先生、何も出てきません」

 王子がしょぼんとした顔で、俺たちに寄ってきた。的はキレイなままだ。

「ヴィンセントが王子にあげたこの入門書は、できるだけわかりやすく書こうという気迫が籠っている本なんだが」

 俺は王子が持っている本を見る。魔法を説明すること自体、難しいことに挑戦しているから、他の魔法本よりは頑張っている本である。

「俺の場合はギフトだから、気づいたときには普通に使えていたな」

「俺もー。生きるためにいつのまにか使ってたー」

 俺もククーに同意する。この世界ではギフトは魔法に属する。その本人だけの能力のモノが多いので、説明が困難になるわけだ。

「アンタの場合は軽く言っても重いんだよ」

「まあ、俺たちの場合は、反対に魔術を扱いづらいんだよな」

「確かに。ただ、できないわけではないんだが。。。レンの場合は清掃魔術が爆裂魔術になるくらいだからな」

「綺麗な更地になるのなら、ある意味、清掃魔術ではないか?」

「ある意味、究極の清掃魔術ではあるが。。。普段使いはできない魔術だな」

「そっかー、人によって向き不向きがあるんだねー」

 王子は何かを納得した。しかし、俺はいつか克服するぞ。

「だからといって、レンは清掃魔法もできないぞ。同じく爆裂魔法になる」

 それは強調しなくても良いんじゃないかな?
 清掃系の場合、魔術だろうと魔法だろうと結果は同じ。俺が清掃し慣れていないのが、魔法にも表れてしまう良い例だ。だって、孤児だった頃は清掃する家はないし、英雄時代は宿屋や野営が主で俺が清掃しなかった。。。もちろん、王城では清掃専門の使用人がいるので、俺が清掃することもなかった。

「人によって魔法も扱えるものと扱えないものがある。ククーが攻撃魔法をあまり使えなかったように。けれど、大概は魔力量の関係だ。扱える魔力量が多ければ、魔法でも魔術でも幅が広がる」

「はーい、レン先生ー。以前に僕が魔法も使えそうだと言ったのは、どのような理由だったのでしょうか?」

 あー、そんなこと言ったね。
 忘れていたけど、答えは簡単だ。

「神の代理人候補だから」
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