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17章 逃亡の冬

17-5 嫉妬怖い ※ククー視点

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◆ククー視点◆

 宗教国バルトの馬車に追われている。
 と言っても、ゆっくりと後をつけられているだけなので、猛スピードで追いかけっこをしているわけでもない。
 どこの商会の馬車か突き止めて、後日襲撃を目論んでいるようだ。
 カイマをご近所のノエル家の屋敷に投げ捨てて、俺は家に帰るだけだったのに。
 我が愛馬もすまないなー。一日走らせて疲れているのに、こんなヤツらに付き合わないといけないなんて。

 厄介ごとはいつものこと?任せておけって?まだまだ全速力で走る余力もあるからよって?

 男前だな。 
 ありがたいなー、我が愛馬は俺のワガママも聞いてくれる。
 ミニミニダンジョンは直接襲って来ない限りは、何もしないだろうなー。
 大神官長に連絡するのも面倒だなー。
 あの人が出てくると、事後処理が余計に大変だ。帰りが遅くなるどころか帰れなくなる。


 で、何で十六号は不貞腐れた顔をしているの?
 可愛い顔して、角ウサギは基本的に可愛い顔なのだけど、頬がパンパンに膨れている。飼い主に似るってホントだねー。潰したい衝動に駆られるよー。

「なぜ私が隣に座っているのに、貴方は私に頼ろうとはしないんですか?」

 あ、十六号が人間に化けた。白いマントはレンに似せているのか?短く柔らかそうな金髪で幼さが多少残る少年が現れた。十六号はそんな姿していたんだー。ダンジョンコアだからどんな姿にも化けられると思うけどね。
 カイマが無言で見ている。角ウサギが座っていたのは気づいていたようだが、いきなり人間の姿に変わったら、そりゃ驚くよな。
 それに、この御者席はそこまで広くない。一人が小柄な少年でも三人も座っていたらちとキツイ。

 後ろからうちの馬車を追いかけている宗教国バルトの馬車には気づかれてない。
 十六号さんは頼らせてくれるんですかね?

「ちなみに彼らをどうする気?」

「跡形もなく消滅すれば問題ありませんよね」

 問題ありまくりだよ。
 どうして俺が穏便な方法で撒こうとしているかを考えてよ。

「人というのは本当にめんどくさいですね」

「レンだって、平時では気を使うくらいなんだから」

「我が王が全世界を掌握しても良いくらいなのですが」

 それは俺もそう思う。だが、その我が王は面倒なことが大嫌いだ。自分にとってどうでもいいことに振り回されるのは英雄時代で充分だと考えているくらいだ。
 角ウサギたちが勝手に世界征服を成し遂げてしまったら、レンは厄介ごとに頭を抱えそうだ。
 というか、逃げそう。もしくは、引きこもりそう。
 今は大切なモノたちだけで充分ー、というのがレンである。
 角ウサギたちもその大切なモノにしっかり入っている。特に角ウサギ酒造り隊は喜んで確保して、夜の部屋だけは人間に戻れる優遇措置までついている。

 最凶級ダンジョンのダンジョンコアは角ウサギに化けてくれるのなら、自分のダンジョンで保護しましょう程度のものだったが、レンは角ウサギが大好きなので増加の一途を辿っている。あの五匹にはあまりかまってもらえてないしねー。あの五匹は王子派なのだ。王子が独立したら彼らはついていくのかな?まだ、先のことではあるが。
 角ウサギは今もちょこちょこ増えていっている。聖教国エルバノーン以外のダンジョンコアが増えているのは、なぜなんだろうな。今度、レンには確認しておかないといけないなー。

 アスア王国の王族は角ウサギになったからこそ保護対象になっているが、実のところ英雄にとっては国王以外は特に恨みもない。国民に対しても悲しみや寂しさは持っているにしても憎しみや恨みまでは持っていない。
 王族たちは意外と働き者だった。彼らは子供でも王族として公務を持っている人間だったからな。
 畑仕事は新鮮だとして、他の階層でも頑張っている。
 そして、王太子は空いている畑があるなら貸してくれないかと、五十四号を通してレンに伝えてきた。
 飢えに苦しむアスア王国の民のために、できるだけ穀類を育てたいとの要望だ。
 少しでも育てたいという気持ちもわかる。
 レンは酒造りの街の階層の上にもう一層を間に入れて、自由に使っていいよーと丸投げした。
 彼らは農業に対しては素人なので、どうやっても聖教国エルバノーンの皆さんと五十四号の手伝いは必要となるが、王族の決意に力を貸すことに決めたようだ。放置してると、超広大な畑ができるぞ。。。


「現実から逃避しても、事態は好転しませんよ」

 十六号のありがたい忠告が俺を現実に戻す。
 ずーっと馬車を走らせているわけにもいくまい。

「あー、急にあの馬車の周りだけ猛吹雪になって視界が悪くなってくれないかなー」

「えー、そのぐらいでいいんですかー?あ、凍死するレベルの猛吹雪をご所望で」

「いや、街中の走っている馬車で凍死するレベルってどんな猛吹雪だよ。視界だけ悪くなれば充分だ」

「目くらまし程度ですかー。残念」

 何が残念なんだ。

「急に猛吹雪にするんじゃなくて、五分ぐらいかけて徐々に猛吹雪にしていって」

「私が味わった猛吹雪を誰かに体験させたかったのにー。仕方ないですねー」

 普通に死ぬだろ、それ。
 後ろの馬車にチラホラと雪が舞っていく。
 この子たちもダンジョン外で普通に魔法が使えるんだね。

 十六号さんのおかげですんなりと宗教国バルトの馬車を撒くことができました。
 細かい路地で逃げるという方法もあるが、今の季節、小さい路地は除雪してないところが多いから、けっこう道を選ばなければならない。雪のせいで袋小路になっている場所もあるのでなかなか難しい。

 最初の予定通り、カイマをノエル家の屋敷にポイ捨てする。
 屋敷にいるクレッセに任務完了の報告をするだろう。クレッセも神官用の宿舎ではななく、自宅からの通勤だ。カイマもしばらくはノエル家からの出勤になるだろう。

 俺たちも帰る。十六号には角ウサギの姿に戻ってもらった。
 客人が玄関から帰らないと、俺が部屋で監禁でもしているのではというあらぬ疑いを持つ使用人たち。。。
 レンが玄関から入ってしまった二日間ほど、謎の食事が毎食部屋に届けられた。
 あのときレンは隠し部屋の扉からダンジョンに帰っていってしまったからな。
 レンが転移魔法を使える魔法師だと説明して事なきを得たが。。。
 嘘は言ってない。
 のに、怪しまれる俺。

 ノーレンさんと会うときに、わざわざ寄ってもらって玄関から来てもらったよ、レンに。あ、ホントに外に出てたんだ、という使用人たちの安堵の心の声。。。
 レンはうちに来ても俺の隠し部屋から出ないからな。

 十六号は角ウサギになっても、俺の頭にはのろうとしない。
 後ろからピョコピョコついて来る。

≪そりゃそうですよ。貴方の座っている膝とかにのったり、貴方の頭の上にのったら、、、猛吹雪だけでおさまると良いですね?≫

「へ?お前たちには意外と頭にのられていたりするが?」

 ダンジョンの家の書斎でソファーで一休みすると、レンの順番待ちをする角ウサギたちが俺で遊ぶ。基本的に書斎まで入ってくるのはダンジョンコアの角ウサギである。

≪おお、我が王に我々は信頼されているということですか。それは良かった。。。でも、寒気がするのでやめておきます≫

 猛吹雪で風邪でも引いたか?ダンジョンコアが風邪を引くことはなさそうだが。
 十六号には隠し部屋の扉から帰ってもらった。
 なぜか自分からは転移をしなかったのだが、俺が家に帰るまでの用心棒だったのか?

 そして、我が家ではなぜかペット用の餌が二日間部屋に届いた。。。
 アレもーレンの従魔でー、レンが連れて帰ったー、と使用人に説明することとなった。
 ぬいぐるみとして抱くか、袋に詰めて持ち帰った方が良かったか。
 そのことを後日、十六号に話すと、袋一択ですねと言われた。
 十六号はレンと何かあった?

 レンは俺が十六号と旅行の約束をしたのが気に入らない、と。。。
 え、あの猛吹雪体験ツアーに俺は行く気ないけど。約束した気もさらさらないんだけど。というか、それこそお断り一択なんですけど。
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