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17章 逃亡の冬
17-4 追跡 ※ククー視点
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◆ククー視点◆
神聖国グルシアの国境の街に着く。
新英雄ロイの入国審査は問題なく終わった。
女物のマントはもういらないと思ったようだが、この国のあまりの寒さに捨てる気にはならなかったようだ。ロイは他のマントを収納鞄には入れてない。アスア王国ではそこまで暖かいマントは必要なかったのだろう。街で買い物させる気はないので、何も言わない。
キザスたちはこの街で情報収集していったが、新英雄ロイの情報は一切手に入らなかった。
当たり前だ。
まだ通ってもいないのだから。
彼らはとりあえず聖都に向かった。
この国境の街から南西方向に行くとシアリーの街がある。
本当だったら、アスア王国の王都から横に直線状に行ければ、シアリーの街は近いのだが、アスア王国と神聖国グルシアの国境の出入国管理事務所はここだけである。この国境の街が王都より北側にあるので、ここからなら聖都に向かう方が道が整備されているので、シアリーの街に行くよりも早く着く。距離的にはシアリーの街が近いのだが。
神聖国グルシアに入ると、雪が一面に覆っている。
聖都への道はどんなにドカ雪が降ろうとも綺麗に除雪されているので、馬車は通常通り走ることができる。
うちの愛馬は雪にも慣れているので、問題ないが。
生贄の家はかなり広範囲にあり、北の方にもある。現在は一番北にある家にはすでに誰もいないが、王子以外にもまだ二か所行くところがある。神聖国グルシアでは冬の雪は珍しくない。
のだが、アスア王国の人間には珍しいのだろう。レンもあのくらいの雪で家から出ようとしなくなったし。
国境までは寝ていたロイが、周りの風景に興味を持った。
国境の街はもう通り過ぎたので、馬車から顔を出してもアスア王国の新英雄ロイだと気づく者は誰一人としていない。
吐く息も白い。
そして、十六号が俺の横にしれっと座っている。
レンのダンジョンにいるはずの、角ウサギの十六号が御者席にいる。
動かないとぬいぐるみのようだな。
つぶらな瞳だけは俺を向いているが。
角ウサギは話さなくても意志は伝わる。
≪いやー、昨日、我が王のダンジョンにある一つの階層が猛吹雪に襲われましてー、きっと貴方が何かやったのだろうと皆の代表として来てみました。結婚指輪を貴方がはめてくれたときは春の陽気になる階層が多かったものでして≫
あ、完全に俺のせいだな。ロイのせいだとも言う。
気温低下は俺が泊まった宿屋だけじゃなかったのか。
というか、猛吹雪?
≪すぐに我が王が復帰してくれたので、特に栽培中の薬草も問題はなかったのですが、いやはやこの身で凍死するかもしれないと思ったのは初めてのことです。さすが、我が王、半端ないレベルの猛吹雪でした≫
おおっと、十六号が猛吹雪の被害者だった。
ダンジョンコアの角ウサギが凍死するレベルの猛吹雪って想像がつかない。
けれど、レンのダンジョンに影響を与えるのは俺だけじゃないだろう。ヴィンセントだってレンに多大な影響を与えるはずだ。王子は、、、そこまで影響を与えないとは思うが。王子はいい子だから。
≪いえ、我が王のダンジョンに影響を与えるのは貴方だけですよ。直結していると言っても過言ではありません。貴方は我が王のダンジョンに誓った上、誓いの品を贈られているのですから≫
誓いの品→結婚指輪。
はい、ずっとそばにいるとレンに誓ったのは俺です。
レンが見せなくしない限りは、ずっとギフトで見ているけど。俺としては心ではずっと寄り添っているつもりだけど。
物理的にそばにいるのは神官を辞めた後でないと難しいので、しばし待ってほしい。
しっかし、通常のダンジョンコアはダンジョンから出られないんじゃなかったっけ?
ここは完全にレンのダンジョンの外。ダンジョン化しているわけでもなさそうだ。レンのダンジョンのダンジョンコアでもないからか?
≪我が王の許可は必要ですが、我が王のミニミニダンジョンのそばならいつでもどこでも飛び出せますよー≫
あー、はいはい、そういうことですか。角ウサギも転移で崩壊しない部類なのね。
十六号がチラリとロイを見た。ロイは気づいてもいない。
≪ま、あの男なら問題はありませんね。浮気ならどうしてやろうと思いましたが、貴方を我が王のダンジョンに連れ去るまでもない≫
十六号の口の端が笑う。
あっれー?俺、拉致の危機にあったの?
最凶級の魔物に俺が敵うわけがない。
角ウサギたちにとっては、俺はどういう存在なのだろう?
≪我が王の心の安寧に必要不可欠な存在。とはいえ、貴方もあの永遠の孤独を味わう極寒の地を体験してご覧なさい。さすがに文句の一言二言ぐらい言いたくなると思いますよ。あ、今の人間のカラダではまったく耐えられませんね。二、三十年後ぐらいには貴方でも耐えられうるでしょうから、その辺りに疑似体験ツアーを催行しますよ≫
何、その体験ツアー。
まったく行きたくないんですけど。
忘れた頃に連れ去りそうだな、この十六号。。。
本当にやめてほしい。我が王に告げ口しちゃうぞー。
無口な会話を続けながら、日が暮れる寸前に聖都に入った。
傍からは無言。
そして、夜、聖都の大教会に着いた。
広場の前に一台の馬車が止まっている。この大雪の中では信者も観光客も夜まで外を動こうとは思わない。
「あの馬車は、」
俺が口を開くと、カイマもその馬車を見る。
「宗教国バルトのものか?」
カイマの問いに頷くと、カイマはため息を吐く。その息も限りなく白い。
「こんなところで待っているとは物好きな」
「話ができるのなら、ロイを連れ戻せると思っているんだろ」
「あ?アレはキザスなのか?」
後ろから会話に割って入ってきた。
「話したいのなら話すか?今生の別れになるかもしれないのだし」
「アイツは宗教国バルトの神官なんだろ。話を聞いたところでアイツらの都合の良いことしか言わないだろ」
キザスは確かに宗教国バルトの神官だが、ロイはなぜこうもアッサリとエースや俺たちの言うことを信じたのだろうか。キザスの方が長いつきあいだし、信用するなら向こうの方だと思うが。反対に俺たちの方が何を言っているんだと言われてもおかしくない。
動物的勘か?
特にロイにキザスと話すことがなければ、そのまま教会の扉まで馬車をつけるだけだ。
広場に俺たちの馬車が入ると、教会は扉を開いた。
「お待ちしてました」
神官が二人迎えに出て来る。ロイが馬車から降りる。
「と、お前たちは降りないのか?」
「俺たちはここまでだ。じゃあな」
カイマと俺は御者席に座ったままだ。ロイは神官に中に入るよう促される。
俺たちが神官服でロイと会うことはないだろう。
隣にいる十六号がなぜか勝ち誇った顔をしているのだが、不思議だな。動かなければ、ただのぬいぐるみにしか見えないけどな。
教会の扉は閉まり、俺たちは馬車を走らせ始める。
さっさと帰ろう。
帰りたい。
帰らせて。
広場の通りを馬車が通せんぼしている。
一台だけ広場の前で止まっていた馬車だ。
馬車の扉が開いて、キザスが降りてくる。
「ロイを連れ去ったわけではないのか?」
教会の前が見えていたのなら、強制は何もされていないことがわかったはずだ。
俺たちは御者席に座ったまま何も答えない。
「神聖国グルシアがロイに何を求める?アイツはただ英雄のギフトを持っているだけだぞ」
その英雄のギフトを奪って持っているから問題なんだ。
大教会では別段歓迎会とかは催されないが、今晩は綺麗な個室に贅沢な食事が用意されている。
翌朝、拘束されるのだが。
馬車の中にいる男が目でキザスに合図した。
キザスは口を横に振る。
この地で実力行使したら、危険極まりないのは彼らの方だ。
キザスが馬車に乗り込むと、俺たちの馬車に道を譲った。
先に進むと、俺たちの後をついて来る。
完全にイヤガラセだ。
さっさと家に帰ろうと思っていたのに、こいつらを連れて行きたくはない。
撒いてからしか帰れないが、この聖都のド真ん中を馬車で速いスピードで走り抜けたら、それもそれで問題だ。
神聖国グルシアの国境の街に着く。
新英雄ロイの入国審査は問題なく終わった。
女物のマントはもういらないと思ったようだが、この国のあまりの寒さに捨てる気にはならなかったようだ。ロイは他のマントを収納鞄には入れてない。アスア王国ではそこまで暖かいマントは必要なかったのだろう。街で買い物させる気はないので、何も言わない。
キザスたちはこの街で情報収集していったが、新英雄ロイの情報は一切手に入らなかった。
当たり前だ。
まだ通ってもいないのだから。
彼らはとりあえず聖都に向かった。
この国境の街から南西方向に行くとシアリーの街がある。
本当だったら、アスア王国の王都から横に直線状に行ければ、シアリーの街は近いのだが、アスア王国と神聖国グルシアの国境の出入国管理事務所はここだけである。この国境の街が王都より北側にあるので、ここからなら聖都に向かう方が道が整備されているので、シアリーの街に行くよりも早く着く。距離的にはシアリーの街が近いのだが。
神聖国グルシアに入ると、雪が一面に覆っている。
聖都への道はどんなにドカ雪が降ろうとも綺麗に除雪されているので、馬車は通常通り走ることができる。
うちの愛馬は雪にも慣れているので、問題ないが。
生贄の家はかなり広範囲にあり、北の方にもある。現在は一番北にある家にはすでに誰もいないが、王子以外にもまだ二か所行くところがある。神聖国グルシアでは冬の雪は珍しくない。
のだが、アスア王国の人間には珍しいのだろう。レンもあのくらいの雪で家から出ようとしなくなったし。
国境までは寝ていたロイが、周りの風景に興味を持った。
国境の街はもう通り過ぎたので、馬車から顔を出してもアスア王国の新英雄ロイだと気づく者は誰一人としていない。
吐く息も白い。
そして、十六号が俺の横にしれっと座っている。
レンのダンジョンにいるはずの、角ウサギの十六号が御者席にいる。
動かないとぬいぐるみのようだな。
つぶらな瞳だけは俺を向いているが。
角ウサギは話さなくても意志は伝わる。
≪いやー、昨日、我が王のダンジョンにある一つの階層が猛吹雪に襲われましてー、きっと貴方が何かやったのだろうと皆の代表として来てみました。結婚指輪を貴方がはめてくれたときは春の陽気になる階層が多かったものでして≫
あ、完全に俺のせいだな。ロイのせいだとも言う。
気温低下は俺が泊まった宿屋だけじゃなかったのか。
というか、猛吹雪?
≪すぐに我が王が復帰してくれたので、特に栽培中の薬草も問題はなかったのですが、いやはやこの身で凍死するかもしれないと思ったのは初めてのことです。さすが、我が王、半端ないレベルの猛吹雪でした≫
おおっと、十六号が猛吹雪の被害者だった。
ダンジョンコアの角ウサギが凍死するレベルの猛吹雪って想像がつかない。
けれど、レンのダンジョンに影響を与えるのは俺だけじゃないだろう。ヴィンセントだってレンに多大な影響を与えるはずだ。王子は、、、そこまで影響を与えないとは思うが。王子はいい子だから。
≪いえ、我が王のダンジョンに影響を与えるのは貴方だけですよ。直結していると言っても過言ではありません。貴方は我が王のダンジョンに誓った上、誓いの品を贈られているのですから≫
誓いの品→結婚指輪。
はい、ずっとそばにいるとレンに誓ったのは俺です。
レンが見せなくしない限りは、ずっとギフトで見ているけど。俺としては心ではずっと寄り添っているつもりだけど。
物理的にそばにいるのは神官を辞めた後でないと難しいので、しばし待ってほしい。
しっかし、通常のダンジョンコアはダンジョンから出られないんじゃなかったっけ?
ここは完全にレンのダンジョンの外。ダンジョン化しているわけでもなさそうだ。レンのダンジョンのダンジョンコアでもないからか?
≪我が王の許可は必要ですが、我が王のミニミニダンジョンのそばならいつでもどこでも飛び出せますよー≫
あー、はいはい、そういうことですか。角ウサギも転移で崩壊しない部類なのね。
十六号がチラリとロイを見た。ロイは気づいてもいない。
≪ま、あの男なら問題はありませんね。浮気ならどうしてやろうと思いましたが、貴方を我が王のダンジョンに連れ去るまでもない≫
十六号の口の端が笑う。
あっれー?俺、拉致の危機にあったの?
最凶級の魔物に俺が敵うわけがない。
角ウサギたちにとっては、俺はどういう存在なのだろう?
≪我が王の心の安寧に必要不可欠な存在。とはいえ、貴方もあの永遠の孤独を味わう極寒の地を体験してご覧なさい。さすがに文句の一言二言ぐらい言いたくなると思いますよ。あ、今の人間のカラダではまったく耐えられませんね。二、三十年後ぐらいには貴方でも耐えられうるでしょうから、その辺りに疑似体験ツアーを催行しますよ≫
何、その体験ツアー。
まったく行きたくないんですけど。
忘れた頃に連れ去りそうだな、この十六号。。。
本当にやめてほしい。我が王に告げ口しちゃうぞー。
無口な会話を続けながら、日が暮れる寸前に聖都に入った。
傍からは無言。
そして、夜、聖都の大教会に着いた。
広場の前に一台の馬車が止まっている。この大雪の中では信者も観光客も夜まで外を動こうとは思わない。
「あの馬車は、」
俺が口を開くと、カイマもその馬車を見る。
「宗教国バルトのものか?」
カイマの問いに頷くと、カイマはため息を吐く。その息も限りなく白い。
「こんなところで待っているとは物好きな」
「話ができるのなら、ロイを連れ戻せると思っているんだろ」
「あ?アレはキザスなのか?」
後ろから会話に割って入ってきた。
「話したいのなら話すか?今生の別れになるかもしれないのだし」
「アイツは宗教国バルトの神官なんだろ。話を聞いたところでアイツらの都合の良いことしか言わないだろ」
キザスは確かに宗教国バルトの神官だが、ロイはなぜこうもアッサリとエースや俺たちの言うことを信じたのだろうか。キザスの方が長いつきあいだし、信用するなら向こうの方だと思うが。反対に俺たちの方が何を言っているんだと言われてもおかしくない。
動物的勘か?
特にロイにキザスと話すことがなければ、そのまま教会の扉まで馬車をつけるだけだ。
広場に俺たちの馬車が入ると、教会は扉を開いた。
「お待ちしてました」
神官が二人迎えに出て来る。ロイが馬車から降りる。
「と、お前たちは降りないのか?」
「俺たちはここまでだ。じゃあな」
カイマと俺は御者席に座ったままだ。ロイは神官に中に入るよう促される。
俺たちが神官服でロイと会うことはないだろう。
隣にいる十六号がなぜか勝ち誇った顔をしているのだが、不思議だな。動かなければ、ただのぬいぐるみにしか見えないけどな。
教会の扉は閉まり、俺たちは馬車を走らせ始める。
さっさと帰ろう。
帰りたい。
帰らせて。
広場の通りを馬車が通せんぼしている。
一台だけ広場の前で止まっていた馬車だ。
馬車の扉が開いて、キザスが降りてくる。
「ロイを連れ去ったわけではないのか?」
教会の前が見えていたのなら、強制は何もされていないことがわかったはずだ。
俺たちは御者席に座ったまま何も答えない。
「神聖国グルシアがロイに何を求める?アイツはただ英雄のギフトを持っているだけだぞ」
その英雄のギフトを奪って持っているから問題なんだ。
大教会では別段歓迎会とかは催されないが、今晩は綺麗な個室に贅沢な食事が用意されている。
翌朝、拘束されるのだが。
馬車の中にいる男が目でキザスに合図した。
キザスは口を横に振る。
この地で実力行使したら、危険極まりないのは彼らの方だ。
キザスが馬車に乗り込むと、俺たちの馬車に道を譲った。
先に進むと、俺たちの後をついて来る。
完全にイヤガラセだ。
さっさと家に帰ろうと思っていたのに、こいつらを連れて行きたくはない。
撒いてからしか帰れないが、この聖都のド真ん中を馬車で速いスピードで走り抜けたら、それもそれで問題だ。
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