すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社

文字の大きさ
11 / 236
2章 愛をたぐる者

2-1 記憶をたどる

しおりを挟む
 あのときの御礼?
 前回は一週間ほど前に来た行商人役のククーが、俺に一箱の酒を差し出した。

 ふと、思い出した。

「ああ、ククール・アディか。あのときの礼か、なるほど。数年ぶりだったから今まで気づかなかった。お前は全然変わっていないのにな」

 俺は正直に伝えた。
 ククーが驚愕の表情を浮かべて、素早く俺を振り返った。
 そんなに急に振り向いたら、首を痛めないか?
 本名を口にしたのが悪かったか?ヴィンセントも知っていることだろうし、この場で言っても平気なはずだ。

「なっ、俺のことをなぜ知っている?」

「ん?ああ、一方的に俺のことを調べられるのもムカつくから、俺をしつこく追いかけ回していた人間のことは反対に俺もすべて調べ上げた」

 お互い一方的なお知り合い状態だったわけである。
 交遊はまったくないのに、お互いのことを生半可な恋人よりも良く知っているわけである。
 俺の場合は、ククーの数年前までの情報であるが。ギフト『蒼天の館』を失ったので、彼の今の詳細な情報を魔法で得ることは難しいだろう。ギフトがなくてもダンジョンコアを吸収したため魔法でできることは多いが、あのギフトは英雄のギフトといわれるだけあって成長させれば万能のギフトだった。現在の俺の能力値ではできることが限られている。

 ククーは愕然として、膝をついている。
 ヴィンセントと王子のククーを見る視線が厳しくなっているが、キミら誤解してないか?

「すまない。仕事だったんだ。決してストーカーでは」

「それはわかってる。ククーは当時、神聖国グルシアの諜報員だったんだろう。今は仕事の内容は変わったようだが、元気そうで良かった。長年俺を担当していたのに、数年前、急にグルシアの担当者が変わったからどうしたのかとは思っていたんだ」

 英雄ザット・ノーレンを追いかけまわす他国の諜報員は多い。俺もすべての諜報員を調べているわけでもなく、俺がちょっと鬱陶しいと思う人間だけを調べていた。それは諜報員としては有能だということだ。去ってしまった者を追う趣味はないので彼が神聖国グルシアに帰った後の情報は得ていないが。

「さすがにアンタを担当して自信を無くした。それからはのんびりと閑職をエンジョイしている」

「それは悪かった。諜報員として優秀だったのに、グルシアとしてはもったいなかったな」

 優秀な人材を一人闇に葬ったか。アスア王国にとっては幸運だったのだろうが。
 ククーが目を瞬いた。

「優秀?」

「ああ、さすがにギフトで俺の偽装工作した方を見て、肉眼で俺の方を追いかけてくる人物は他にはいなかった。ただ、最後のとき危険なダンジョンのなかまで追いかけて来たのは無謀だったな。自分の対魔物の戦闘能力は考えような」

「それは悪かった。というか、うん、やっぱりわかっていたんだな。最短距離で目的地に行くアンタには珍しく魔物を広範囲に殲滅していくから、、、うん、コレはその礼だ。受け取ってくれ」

「そういうことなら、遠慮なく」

 人助けってしておくものだな。こんなところで縁が巡ってくるとは。
 わー、嬉しいなー。一週間前もいい酒を飲ませてもらったが、今回もいい酒が揃ってる。
 箱の中身の酒を見て、顔が綻んでしまうよ。
 さすが優秀な諜報員だった男。俺好みの酒を良く知っている。

「なあ、ククー」

「何だ?ヴィンセント」

「何、俺のレンと勝手に仲良くなってんだ。ククー、次、来るときは高い酒を持ってこいっ。大量に注文してやるっ」

 ヴィンセント、何を張り合っているんだ?
 貢いでくれるというのなら嬉しいが、酒であればいいわけではない。

「違うぞ、ヴィンセント。ザット・ノーレンはただ高い酒が好きなわけではない。値段に関わらず、度数が割と高い少し癖のある酒が好きなんだ。高い酒でもアッサリしているのは水のように飲むだけだ」

 ククーが熱弁を振るっている。俺に優秀と言われたことがそんなに嬉しかったのか。
 話したことのなかった人間がお互いにここまで知っていると、普通は気持ち悪い。
 でも、説明しなくても自分をわかってくれているのは楽だ。

 箱には飲んでみたかった酒や、飲んだことはないが期待できそうな酒も入っている。
 これはなかなか商売人としても優秀ではないか。

「嬉しそうだねー、レン」

 王子が酒の箱を座って覗いている俺の横に、可愛く座って俺の顔を覗き込んだ。

「王子も成人したら一緒に飲もうなー。グルシアの成人って十五歳だっけ?そのときを楽しみにしてるぞ」

「うんっ」

 元気よく王子が頷いた。王子の赤茶色の髪が揺れる。
 ヴィンセントとククーの表情は何一つ変わらなかった。
 彼らはよく訓練されている。
 出してはいけない表情や言葉がつい出てしまう俺も見習わなければ。この頃、酷いからなー。英雄のときはもう少しうまく隠していたと思うんだけどなー。

「でも、レン。その約束は守れなかったらごめんね」

「どうしたの?王子」

「僕、ここには治療で来ているんだ。僕の病気は治る見込みはほとんどないと言われているけど、神様の下で魔力を高める訓練をすれば良くなる可能性があるって言われてここにいるんだ」

「王子、」

 王子は一日十分ほど魔力を高める訓練をしている。多くても少なくてもいけないと言われており、まとめてやるのは厳禁で、毎日コツコツとやることが重要と教わっているようだ。元々王子は魔力量が多いが、多すぎても少なすぎてもダメなのだろう。

「そうかー、王子は毎日頑張ってるもんなー。きっと神様もお願い聞いて、成人の祝いに酒を飲ませてくれるさ」

「っ、うんっ」

 王子の目が潤んだが、笑顔で隠した。
 六歳の子供でもしっかり感情を隠すのだ。
 この子は強い。
 俺は王子の頭を手でグシャグシャにした。




「レン、俺のことがバレたのなら仕方ない。今日の馬車はほぼお前のモノだ。見に来てくれ」

「は?」

 ククーがもはや隠しておいても仕方ないとばかりにぶっちゃけた。

「すべてグルシアからの贈り物だと思ってくれても構わない。もちろん、ザット・ノーレンに対して下心がある貢物だが」

「はは、、、」

 乾いた笑いを浮かべちゃうよ。ぶっちゃけ過ぎだ。

「ヴィンセント、ちょっと見てくる」

 俺はちょっと俯いている王子を見て、言った。フォローしとけって意味合いだ。
 ヴィンセントは俺とククーを二人きりにしたくないという葛藤と戦っていたようだが、職務を優先したようだ。


 馬車の中を見た。
 質の良い装備やら何やらかなりの量が積まれている。

「マジか、、、コレが全部貢ぎ物か?一応まだ俺はグルシアに本人だと断定されたわけじゃないんだろ」

「状況が揃っているからなあ。姿形が違うのも、呪いとか何かのギフトじゃないかとか言われている。実は隣国の英雄ザット・ノーレンの容姿とまったく違う方が我が国では歓迎できる。バレても、アスア王国には別人だと主張できるからな」

「別人扱いなのか」

「国籍も用意するぞ。名をレンに戻すのも良いと思うぞ」

 ククーが何気に言った。
 本当に何でもぶっちゃける気か?
 ヴィンセントは強奪の剣については教会に報告していない。だから、ククーも知らない。そして、俺がダンジョンコアを吸収していることも知らない。

「そりゃ、英雄になる前はそう呼ばれていたが、それも親がつけた名前かどうかも怪しい。ノーレン公爵家に引き取られることが決まったら、レン・ノーレンも微妙だからと決まった名前だが、さすがに長年ザット・ノーレンを名乗っていれば愛着はわく」

 ザット・ノーレンは数代前のノーレン公爵の名だ。あの家は祖先の名前をつけたがる家だ。祖先の栄光にあやかるためと言っても良い。現ノーレン公爵は俺の存在を認めた証に祖先の名をくれた。彼らにとって祖先の名はそういうことだ。ただ、ノーレン公爵は養父といっても形だけで育てられたことはないし、次男なので公爵家を継ぐこともない。

「そうか?レン・ノエルでも良いと思うぞ。レン・アディでも俺は喜んで迎え入れるが」

 アディはお前の姓だからわかるにしても。

「、、、ノエルって」

「ヴィンセント・ノエル。ノエル家もけっこう自由だから、嫁でも養子でも可能だろう」

 ため息ついて良いかな?ククー、ぶっちゃけ過ぎだ。
 あれ?コレって俺の信頼を得るための演技だったりする??
 演技であってくれないかなー?

「お前もヴィンセントも神官だろ。この国では結婚できないし、同性同士の恋愛だって御法度のはずだ。残るは養子だが、俺はお前たちよりも年上だ」

 こんなことはお前たちが一番知っていることだろ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか? いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ? 2025年10月に全面改稿を行ないました。 2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。 2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。 2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。 2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。 第13回BL大賞で奨励賞をいただきました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」 公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。 婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。 しかし、それは新たな人生の始まりだった。 前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。 そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。 共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。 だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。 彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。 一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。 これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

【完結】双子の兄が主人公で、困る

  *  ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……! ルティとトトの動画を作りました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 本編、両親にごあいさつ編、完結しました! おまけのお話を、時々更新しています。 本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

処理中です...