16年目のKiss

深冬 芽以

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2.噓つきの、正直なカラダ

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「あっ、ん――っ!」

 達する直前、無意識に目を見開いた。

 飛び込んできたのは、自分のあられもない姿。

 身動きできないほど強く掴まれていたはずの太腿は、何の拘束もないのに大きく開き、付け根に匡の後頭部。そして、彼の髪を掴む私の手。更には、真っ赤な顔で自分を見つめる自分。

 涙で滲んでいるとはいえ、はっきり見えた。

 そして、果てた。

「は……、あ……っ」

 再びきつく閉じた瞼から溢れる涙は、快感からか、羞恥心からか。

 こめかみを伝う雫が、止まらない。

 身体中がの筋肉が強張り、腹部の痙攣が止まらない。

 なのに、頭の中はふわふわして蕩けている。

 自分の息遣いだけが聞こえる世界に浮かんでいるか、波に浮かんで身を任せているようだ。

「寝るなよ、千恵」

 力が抜けた状態で顎を押さえられ、無抵抗に唇が開く。

 目を開けようにも、瞼が重いし、涙で睫毛が張り付いているようだ。

 だが、唐突に口の中に冷たい液体が溢れ、私は飛び起きた。

 ゴンッと鈍い音と同時に口の中の液体が喉の奥に下がっていき、むせかえる。

「いって……」

「ごほっ、ごほっっ――!」

 おでこは痛いし、咳き込んで息苦しいしで、私は思わずベッドに突っ伏す。

「千恵、大丈夫か?」

 背中に大きくて温かな手が添えられる。

 もう、わけがわからない。

 離婚して、階段から落ち、元カレと再会し、ホテルに連れ込まれ、イカされ、おでこを強打し、水にむせる。

 激しく咳き込みながらも、笑えてきた。



 なんなの、もう……。



「千恵?」

 ゆっくり呼吸を整えたいのに、今度はおかしくて苦しい。

「げほっ……けほっ…………。はっ、くくくっ……」

「千恵? イキすぎておかしくなった?」

「そんなわけないでしょ!」

 勢いよく身体を起こすと、匡が少し身体を仰け反らせた。

「あっぶね……」

 二度目の激突は回避した。

 ようやく、まともな頭で匡と向き合う。

 いや、まともではない。

 ラブホテルのベッドの上で、私は半裸。

 私はめくれ上がったシャツの裾を伸ばして、今更ながら秘部を隠した。

 その時、私の足先を跨ぐ匡のスラックスの股間が大きく膨らんでいるのが見えた。

 そこから目を逸らし、彼の目を見る。

「何やってんのよ、匡」

「え、セックス」

「じゃなくて! 酔った元カノこんなトコに連れ込むなんて、悪趣味! ふざけすぎ!」

「お互いフリーなんだし、いくね?」

「いくない! てか、さっきからなんなの、その口調。曲がりなりにも経営者でしょ? いい年して――」

「――経営者じゃないもーん」

「もーん、って――え?」



 経営者じゃない?



「だって、実家継ぐって……」

「いーじゃん、そんなこと。今はさ? 再会を楽しもうぜ」

 おどけた口調でそう言うと、匡は左手を私の太腿に這わせ、右手で肩を押した。

 私の身体は簡単にベッドに沈み、隠した秘部も露わになる。

「楽しむ意味がわからない!」

 ギュッと足を閉じ、膝を立てて、防御の姿勢をとる。

 匡は私の膝を割ろうと、両手を膝頭に置く。

「なんで今更あんたと――」

「――焼けぼっくり?」

「焼け木杭ぼっくい!」

「それそれ」

「それじゃない!」

「いーじゃん。二人で燃えちゃおうぜ」

「何言って――っ」

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