偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~

深冬 芽以

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13.力登の願い

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 弁解はしない。

 足を振り上げた時、打ち所が悪かったらどうなるかなんて、微塵も考えなかった。

「こんな男が秘書だなんて、トーウンの社長も大恥だな! 今すぐクビにするべきだ!!」

 登は首を押さえていない方の手で俺を指さし、叫ぶ。

 それだけ声が出るなら、さほどの怪我ではなさそうだ。

「りと! 見ただろ! あんな危険な男に俺たちの子供を抱かせていいのか!? 子供の前で暴力を――」

「――これにサイン、して」

 強く握りしめてくしゃくしゃになった誓約書。

 りとはそれを登の眼前に差し出す。

 登はそれを見て、鼻の穴を広げた。

「目を覚ませ! 騙されてるんだよ! 見ただろっ。俺を蹴り飛ばしたんだぞ!? あんなっ――。り、力登に当たってたらどうなってたか――」

「――理人はあなたから力登を助けてくれたのよ」

「はぁ!? それじゃまるで、俺が力登に危害を――」

「――加えたわ。あの子の首を絞めた。あの子の口を塞いだ」

「違うっ! 俺はただ――」

「――サインして!」

「するか! 絶対しない!!」

「なら――」

 りとが俺たちを見た。

 いや、俺を。

 悲しそうな、縋るような視線。

 俺はハッとして、力登の耳を塞いだ。

 それをみたりとが、登に向き直る。

「――あなたを力登に対する殺人未遂で訴えるわ」

「……は?」

 力登が、自分の耳に当てられた俺の手を掴む。

 離してほしいのだろう。

 だが、今は離せない。

 意味がわからなくても、聞かせたくない。

「赤ん坊の、ベビーベッドで泣いている力登の顔を手で覆った。今のように。あの頃の力登は、あなたの手で顔全体が覆えるくらい……小さかった。うっかり布団が顔を覆ってしまっても……自分で払えない赤ちゃん……が泣いていたのよ。なのに――」

 りとが声を震わせる。

 俺でさえ、さっきの光景に身体が震えた。

 考えるより身体が動いた。

 きっと、この場の誰もが。

 だから、りとの言葉に、その光景を想像するだけで、目頭が熱くなる。

 俺の腕の中で、耳を塞ぐなと足掻く力登を見て、無事で良かったと、本当に良かったと思う。

 俺は彼の耳を塞ぐ手をパッと離し、また塞いだ。

 それを、繰り返す。

 力登は、訳が分からずに俺を見ている。

「――もう二度と、私と力登に関わらないで。誓約書にサインしないなら、訴えるわ」

「しょ……証拠もなしに! お前の妄想だと――」

「――あなたが買ったのよ! 録画機能付きのベビーモニターを!」

「……は?」

「きゃははははっ!」

 力登は、途切れ途切れに聞こえる声が面白いらしく、笑いだす。

「登さん、あなたは力登を見てなにも思わないの? あんな風に笑う息子を見て、愛おしいと思わない? 何があっても、あの子の笑顔を守りたいと思わない!?」 

「……」

 りとが力登を見る。

 登は見ない。

「録画……」

「サインを――」

「――嘘だ! そんな、録画とか、そんなものがあるなら、どうして今まで言わなかった!? ないんだろう!? そんなもの、ないから――」

「――やめなさい!!」

 悲鳴のような甲高い声。

 力登が入って来たドアの方を見ると、着物姿の年配の女性が立っていた。隣には、スーツ姿の、やはり年配の男性。

 そして、こちらもやはり大人しくしてはいられなかった、司会者。

「姉さん、やっぱり来ちゃったんだ」

 怜人が呟く。

「お客様をご案内したのよ」

 司会を頼んだ姉・哉華は、真っ白のブラウスと黒いタイトスカートというホテルスタッフと同じ服装をしているにも関わらず、その存在感はまさに女王様。
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