133 / 164
13.力登の願い
2
しおりを挟む「登さん、力登が苦しそうなの。お願いだから離してあげて。こんなことしてどうするの?!」
「お前がちゃんと教えないのが悪いんだろ。俺がっ! 俺が父親だ。力登のパパだ! なのに、なんでいつまでも懐かない。なんで! いつまでもこの男を忘れない!!」
「父親なら息子を傷つけるな! 泣かせるな!」
「うるさいっ!」
「しっちょ! しっちょ~~~っ!」
俺の名を呼ぶたびに、力登が咳き込む。
それでも、必死に俺を呼ぶ。
「力登、おちつ――」
「――ぱぱぁ」
ひっくひっくとしゃくりあげながらも俺を呼ぶ力登。
俺は、力登に向かって手を伸ばすが、登が後退って距離が縮まらない。
「ぱぱ! しっちょなの! しっちょー、ぱぱなの!」
「力登……」
「ぱぱ! ぱっ――!」
会場の全員が目を見張る。
「――力登!」
俺は良くも悪くも理性的な人間だ。
女性関係はともかく、秘書として恥じない言動を己に強いてきた。
りとに初めて会った日、思いっきり叱られてからずっと、次に会った時にあの日の言葉を後悔させてやると決めていた。
だが、今はもう、そんなことはどうでもいい。
俺は左足で踏み込む。
泣き叫ぶ力登の口を、登の手が覆っている。
登は力登を黙らせようとしているだけのつもりだろう。
自分の手が力登の口だけでなく、鼻も一緒に塞いでいると気づいていない。
「力登――っ!!」
背後でりとの悲鳴が聞こえた。
一年前、夫がまだ生まれたばかりの力登の口を光景を見た時と同じ衝撃だろう。
俺でさえ耐えられないのだから、母親のりとはどれほどショックで悲しかったか。
迷いなどなかった。
俺は勢いよく右足を振り上げ、登の顔面めがけて思いっきり腰を捻った。
ゴンッと鈍い音がして、足首に衝撃が走る。
同時に登が頭から倒れ込む。
力登が登の手から投げ出された。
俺は咄嗟に手を伸ばし、力登の身体を抱き上げた。
とはいえ、俺も高い位置へ蹴りを入れてバランスを崩している。
抱えた力登の下敷きになって倒れ込むので精一杯。
絨毯に背中がべったり貼りつく。
「――っ!」
僅かな痛みに顔を歪めたのは一瞬で、俺は弾かれるように上半身を起こした。
「力登! 大丈夫か!?」
「……」
俺の腹に跨った力登が、ポカンと目と口を開いて俺を見る。
「力登? どっか痛いとこ――」
「――しっちょー!」
力登が腹の上で飛び跳ね、ぎゅうっと首に抱きつく。
両腕が、なんの違和感もなく彼を抱きしめた。
まるで、俺の腕の中が力登の居場所と思えるほど、しっくりくる。
涙やら涎やらでぐちゃぐちゃの顔が、俺のタキシードで拭われる。
もちろん、そんなことはどうでもいい。
とはいえ、あんまりぐりぐりと顔を押し付けるから、苦しいのかと腕を緩めた。
「力登、痛いところはないか?」
「おう!」
にっこり笑った力登の顔が赤い。
泣いたせいか、顔を擦ったせいか。
とにかく怪我はなさそうだ。
ほうっと息を吐き、改めて力登を抱きしめる。
「しっちょー! ワンワしっちょーね! ネンネでね! し~って!」
「……え?」
「しっちょ、ワンワンの!」
「ワンワン?」
「ん!」
興奮しているせいか早口な上、よく聞き取れない。
ワンワンが犬なのはわかった。
「力登、ちょっとおちつい――」
「――訴えてやる!」
登の声に、力登を抱く腕に力が入る。
俺に蹴り飛ばされた登は、首を押さえて座り込んでいる。
確かに首より上を狙ったが、どうやら首を痛めたらしい。
「暴行罪だ! 下手したら死んでたかもしれない。殺人未遂だ!」
1
あなたにおすすめの小説
ホウセンカ
えむら若奈
恋愛
☆面倒な女×クセ強男の不器用で真っ直ぐな純愛ラブストーリー!
誰もが振り返る美しい容姿を持つ姫野 愛茉(ひめの えま)は、常に“本当の自分”を隠して生きていた。
そして“理想の自分”を“本当の自分”にするため地元を離れた大学に進学し、初めて参加した合コンで浅尾 桔平(あさお きっぺい)と出会う。
目つきが鋭くぶっきらぼうではあるものの、不思議な魅力を持つ桔平に惹かれていく愛茉。桔平も愛茉を気に入り2人は急接近するが、愛茉は常に「嫌われるのでは」と不安を抱えていた。
「明確な理由がないと、不安?」
桔平の言葉のひとつひとつに揺さぶられる愛茉が、不安を払拭するために取った行動とは――
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※イラストは自作です。転載禁止。
2月31日 ~少しずれている世界~
希花 紀歩
恋愛
プロポーズ予定日に彼氏と親友に裏切られた・・・はずだった
4年に一度やってくる2月29日の誕生日。
日付が変わる瞬間大好きな王子様系彼氏にプロポーズされるはずだった私。
でも彼に告げられたのは結婚の申し込みではなく、別れの言葉だった。
私の親友と結婚するという彼を泊まっていた高級ホテルに置いて自宅に帰り、お酒を浴びるように飲んだ最悪の誕生日。
翌朝。仕事に行こうと目を覚ました私の隣に寝ていたのは別れたはずの彼氏だった。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~
椿蛍
恋愛
念願のデザイナーとして働き始めた私に、『家のためにお見合いしろ』と言い出した父と継母。
断りたかったけれど、病弱な妹を守るため、好きでもない相手と結婚することになってしまった……。
夢だったデザイナーの仕事を諦められない私――そんな私の前に現れたのは、有名な美女モデル、【リセ】だった。
パリで出会ったその美人モデル。
女性だと思っていたら――まさかの男!?
酔った勢いで一夜を共にしてしまう……。
けれど、彼の本当の姿はモデルではなく――
(モデル)御曹司×駆け出しデザイナー
【サクセスシンデレラストーリー!】
清中琉永(きよなかるな)新人デザイナー
麻王理世(あさおりせ)麻王グループ御曹司(モデル)
初出2021.11.26
改稿2023.10
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】
その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。
片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。
でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。
なのに、この呼び出しは一体、なんですか……?
笹岡花重
24歳、食品卸会社営業部勤務。
真面目で頑張り屋さん。
嫌と言えない性格。
あとは平凡な女子。
×
片桐樹馬
29歳、食品卸会社勤務。
3課課長兼部長代理
高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。
もちろん、仕事できる。
ただし、俺様。
俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる