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16.復讐の終わり
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しおりを挟む昨夜でデキているかなんてわからない。
ただ、可能性がゼロでない以上、デキて戸惑ったり後悔するような事態は避けたい。
「孫も楽しみにしてるから、梓が子供を欲しいと思ってることは嬉しいんだと思う」
「うん」
「でもねぇ、ここのところ色々あったから、複雑なんだと思うの。梓の中では終わったことだろうけど、親としてはまだ吹っ切れないところもあるのよ」
お父さんは謝罪に来た天谷に、一言も発しなかったという。
ただ、ずっと拳を震わせていたと、お母さんから聞いた。
両親にしてみれば、大きな会社の後継者なんて面倒な男より、いたって普通の、真面目で優しい男と結婚してほしいのだろう。
「でも、そうこうしてる間に子供ができたからって、バタバタするのもねぇ」
ふぅっと息を吐くと、お母さんは立ち上がった。
つかつかつかと歩いていき、リビングのドアを開ける。
「おとーさーん! 駄々こねてると、孫を抱かせてもらえないわよぉ」
お母さんが二階に向かって言うが、反応はない。
「私は孫を抱きたいから、サインしちゃうわよぉ」
ドンッと鈍い音が聞こえたと思ったら、ドッドッドッと階段を下りてくる足音。
再び姿を現したお父さんは、目が赤かった。
「どんな形でも結婚式はやること!」
やけくそみたいに言い放つ。
「はい!」
皇丞が答える。
お父さんがテーブルまでくると、広げられた婚姻届を睨みつけた。
それから、ペンを手にした。
「梓を裏切ったら、ぶった切るからな!」
決して綺麗とは言えない父の字が、婚姻届に綴られていく。
お父さんは自分の字が汚いことを気にして、書類のサインなんかはお母さん任せ。年賀状も書きたがらないから、お母さんが文句を言っている。
なのに、書いてくれた。
それが嬉しくて、少しだけ寂しくなった。
婚姻届を出してしまったら、私は『木曽根』じゃなくなる。
お父さんの娘じゃなく、皇丞の妻になってしまう。
私とお父さんが同じ名字を書くのは、これが最後。
そう思うと、サインを急がせて申し訳なかった。
それでも、皇丞と結婚したい。
だから、今の私ができるのは、お父さんとお母さんに少しでも安心してもらうこと。
滲んだ涙を指で拭い、顔を上げた。
「その時は、お父さんより先に私がぶった切る!」
お父さんが鼻の穴を広げて頷く。
「やぁね。そんなことしたら逮捕されちゃうじゃない。婚前契約書の方がいいわよ」
お母さんの言葉に、皇丞が苦笑いした。
お母さんはにっこり笑う。
「やだ、冗談よ? これからよろしくね、皇丞さん」
私はお母さんのような強い妻になれるだろうか。
なるべきかは別として、そう思った。
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