復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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16.復讐の終わり

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 見えなくても、わかる。

 きっと、笑ってる。

 いや、いじけている?



 皇丞……。



「梓?」

 胸の奥が熱い。

 喉の奥も。

 目の奥も。

 全部。

 彼の、私の名前を呼ぶ声が、嬉しい。

 電話越しとは、全然違う。

 皇丞が一歩、近づいた。

 ドキッと、する。

 他に表現のしようがない。

 漫画で言うところの『ドキッ!』だ。

 三週間離れていただけで、こんな反応をしてしまう自分が、照れくさい。

「栗山課長も一緒?」

 照れ隠しに、どうでもいいことを聞いてしまった。

「ああ。実家のパーティーに行くって」

 ならば、今頃、平井さんと顔を合わせているだろうか。



 あれ……?



「もしかして、平井さんに――」

「――ん。頼んだ」

 彼女の、してやったりと嬉しそうな顔が浮かぶ。

 きっと、週明けのランチは私が奢ることになる。

「梓」

 また一歩、彼が近づく。

 まだ、表情は見えない。

 でもきっと、彼からは私の表情が見えている。

 きっと『ひどい顔』をしている。

 だって、顔が熱くて堪らない。

 心臓の音も、うるさい。

 コツ、と彼の靴音。

 私はここで、婚約を解消した。

 相手の浮気が理由で。

 その四か月後。

 今度は、信じていた人の罠を知った。

 苦しかった。

 そして、今。

「そこで、聞いて」

 私は壁に背をつけ、なんとか真っ直ぐ立っていた。

「梓?」

「私、あなたが好きよ」

 静かな会議室に、私の声はよく通る。

 恥ずかしいほど。

「愛してるわ」

 声が震える。

 じわりと涙の膜が張って、彼も月も滲んで見える。

 月の明かりが、万華鏡のようだ。

 そんなことを、いつだったかも思った。

 あの時は皇丞の部屋で、月の明かりじゃなくて部屋の灯りだった。

 初めて、皇丞を愛していると告げた時。

 あの時は、まだ、自信がなかった。

 自分にも、皇丞に愛されることにも。

 でも、今は違う。

「私と結婚して」

 皇丞が帰ってきたらそう言おうとか、決めていたわけじゃない。

 今、思った。

 この場所だからかもしれない。

 離れていた三週間が、自分で思うより寂しかったからかもしれない。

 とにかく、言いたかった。

 そうすべきだと、思った。

「私の、最後の男になって」

 口にしてみると、その言葉がストンと胸の中に納まった。

 ずっと、言いたかった。

 言われるんでも言わされるんでもなく、私が言いたかった。

 だって、これは覚悟だ。

 私の、覚悟。



 皇丞にとって、最後の女になる、覚悟――。



「先に、言うなよ」

 下瞼の堰を切った涙が、頬を伝い、顎から滴る。

 私は、ゴクリと唾を飲みこんだ。

 しょっぱい。

 コツコツと彼の靴音が近づいてくる。

 涙が重くて目を閉じるのと同時に、肩を掴まれ、抱き寄せられた。

 そのまま、彼の胸にきつく閉じ込められる。

「俺のセリフだったのに」

 手を伸ばして、彼の背中に回す。

 今日の彼も、冷えていた。

 きっと、空港から真っ直ぐ来てくれたんだろう。

 駅からは、走ったかもしれない。

 ツンと冷気が鼻の奥を刺激する。

 彼が私の耳たぶを食んだ。

「ん――」

「――このまま役所に行くか」

 それもいいかもしれない。

「父さんと母さんには怒られそうだけど」

「それは、うちも」
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