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16.復讐の終わり
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しおりを挟む山倉さんのように全力で否定するか、眉間に皺を寄せて冷ややかに「気持ち悪い」と言うか。
どちらの反応でも怒るつもりはない。
彦谷部長は体調不良を理由に早期退職することになった。とはいえ、年度いっぱい。
もともと皇丞が部長と専務を兼任することになっていたのだけれど、どちらの就任も早まったため、課長の人選中らしい。
平井さんと山倉さんは私を推してくれたが、きらりの一件もあるし、その気がないことは伝えた。皇丞にも。
それに、皇丞との関係が公になったことで、このまま同じ部署に居続けていいものかとも悩んでいる。
それはさておき、明日はクリスマスで土曜日。
街はイヴの賑わいを見せ、社内も浮ついているよう。
現に、今日は定時退社を目指す人が多く、社食に来ても手早く食べて出て行く。
三十分以上座っているのは私たちくらいかもしれない。
「山倉さんは、準備万端なの?」
平井さんの問いに、ガチャンッと金属がぶつかる音が響いた。
山倉さんがフォークをパスタのお皿に落としている。
「山倉さん?」
「はいぃ!?」
異常な焦り。
「どしたの?」
平井さんがおしぼりで指の油を拭く。
「なんでも……」
「顔色悪いですよ?」
私が顔を覗き込むと、山倉さんが涙目になっていた。
「……プッ、プロポー……ズを……しようと……」
「えっ!?」
「おっ!?」
「き、緊張して……マス」
見ると、パスタが減っていない。
「指輪とか準備しちゃったりして?」
平井さんは楽しそうだ。
「それは……好みもあるから、まだなんですけど……っ、準備した方が良かったですかね!?」
「いいんじゃない? 好みもあるし。でもさ、一緒に買いに行くと予算がバレるよね。あれ、結構気ぃ使わない?」
折角拭いた指で、平井さんはまたポテトを摘まむ。
「梓ちゃん、前の時はどうだった?」
「えっ!? 私に聞きます?」
「泣いちゃいそうな山倉さんにアドバイス」
「はぁ……。まぁ、正直に言った方がいいと思いますよ? 今後、指輪以上にお金かかると思うし」
私はそこまで至らなかったが。
「だからってきっちり金額言っちゃだめよ。でも、ま、普通は大体の予算を言えば、余裕で収まるくらいのものにするわよ」
「そうですね」
「いや、それ以前に、指輪を買いに行けるかどうか……」
「あ、そっか。そうね。フラれちゃう可能性もあるんだ」
「平井さん!」
「……」
山倉さんがテーブルの上で両手を組み、項垂れている。
マズい。
山倉さんが本気で泣きそうだ。
「山倉さん。まずは食べましょう。プロポーズの時にお腹が鳴ったら、幻滅されちゃうかもしれません」
「あ、確かに」
「そうか。そうですね。食べます!」
平井さんを見ると、ケラケラ笑っている。
週明け、山倉さんから素敵な報告を聞けたらいいなと思った。
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