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16.復讐の終わり
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しおりを挟む「で? クリスマスは帰って来れるの? 課長――じゃなかった専務」
平井さんがポテトフライを三本も摘まんで口に入れるから、山倉さんがギョッとしている。
「どうでしょうねぇ」
「寂しがってあげないの?」
「まぁ、仕事ですから」
平井さんのポテトを食べる手も口も止まらない。
つい三日前、平井さんが妊娠していると知らされた。
それから三日続けて、昼ご飯は山盛りのフライドポテト。
皇丞には電話で伝えた。
「梓ちゃん」
背後からの声に顔を向ける。
「お疲れ様です」
俵さんが、腹黒さを全く感じさせないキリッとした表情で立っている。
「お疲れ様です。これ、社長からです。皆さんでどうぞ」
腰を屈めて小声で言うと、持っている箱をテーブルに置いた。
「来客時にいただきまして」
「あの、こういう特別扱いは――」
「――特別ですから」
敏腕社長秘書は微笑むと、さっさと行ってしまった。
私は寿々音さんに、社長と仲直りしてほしいとお願いしただけだ。
なのに、その日からこうして、ことあるごとに社長から差し入れというかお裾分けを貰うようになった。
俵さん曰く、自分の嫁も息子の嫁も可愛くて仕方がないらしい。
嫁じゃないんだけど……。
「日頃の行いよねぇ。せっかく梓ちゃんと仲直りできたのに、東北支社に缶詰なんて」
「あはは……」
私は未だ、オムライスにハートを書いていない。
皇丞はあの日、私が彼を許した日、栗山課長からの呼び出しによって、再び東北支社に向かった。
システム上の問題は人為的なものだとわかったらしく、今も帰ってきていない。
もう、三週間になる。
別れ際にキスをひとつ。
それだけだった。
その後すぐに、両親から天谷が謝罪に来たと知らせが入った。
彼は両親に土下座し、退職して私の前には二度と姿を見せないと約束したと言う。
その通り、翌出社日には退職願を提出した。
既に有給休暇の消化に入っているらしく、私はあの日以降彼と会っていない。
社内での私の噂も収束した。
もっとスキャンダラスなネタが飛び込んできたから。
林海きらりがAVデビューした。
それを聞いて、兼子さんが撮ったものが流出したのではと思ったが、違った。
彼女自身がSNSで自身の作品を宣伝しているらしいし、男優は外国人らしい。
ここしばらくの社内では、見た、見ていないで盛り上がっているようだ。
平井さんは「スキなことを仕事にできていいわね」なんて言っていた。
山倉さんは平井さんに、きらりの作品を見たかと聞かれて、全力で否定していた。
私は「見てみようかな」と言う平井さんに、「胎教に悪そうだからやめた方がいい、と言った。
皇丞が見たかは聞いていない。会えた時にでも聞いてみよう。
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