復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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14.罠の行方

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*****


「梓……」

 玄関に入ってすぐに、彼女が出て行ったことを悟った。

 靴がない。一足も。

 そして、部屋の中は乾ききっていた。恐らく、出て行ったのは一日や二日前のことじゃない。

「くそ――っ!」

 俺は、ポストから持っていた郵便物を廊下に叩きつけた。

 紙がフローリングを擦るバサバサッという乾いた音が、響く。

「くそ……」

 溜まった郵便物で、気づいていた。

 だが、もしかしたら、とも期待を捨てきれないまま玄関を開けた。

 梓が笑顔で出迎えてくれるかもしれない、と。

 やはり、梓は俺と天谷の話を聞いていた。

 そして、思っただろう。

 私とのことはゲームだったの? と。

 皇丞の言葉もすべて嘘だったの? と。

 なぜ、気が付かなかった。

 天谷と話す前に、備品室が無人かを確認すべきだった。

 自分があそこで梓と天谷の別れ話を聞いてから、半年も経っていない。

 やり場のない苛立ちに、拳が震える。

 深いため息をつき、散らかった郵便物を拾った。

 そして、見つけた。

 宛名のない封筒。

 少し膨らみがあって、硬い。

 俺はリビングに行き、ハサミで封を切った。

 出てきたのは、この部屋のカードキーと、ボイスレコーダー。

 梓からだ。

 ソファに身を投げ出し、レコーダーを再生した。

『東雲課長の言う通りに、木曽根先輩から直くんを奪ったのに』

 きらりの声に、思わずレコーダーをテーブルに叩きつけた。

『――木曽根先輩に本気なわけじゃないですよね?』

『まさか。お前と同じ、ゲームだ』

『ふふふっ。私たち、共犯者ですね』



 最悪だ――――っ!



 ガンッと重く鈍い、地鳴りのような音がしたのは、俺の拳がテーブルに叩きつけられたから。

 振動で、レコーダーが跳ねてラグに落ちた。

『ゲーム、だって。先輩』

 きらりのほくそ笑む顔が目に浮かぶ。



 やられたっ――――!



 あいつは、何度もこの話を持ち出そうとした。が、俺や天谷に邪魔されて、最後まで言えなかった。

 これ以上俺や会社を怒らせてもいいことはないし、諦めたと思っていた。

 俺はスマホを取り出し、俵の番号を呼び出した。

『なんだ』

「林海きらりはどうなった」

『日本を出た。国内に所有する不動産を売却し、全財産を持って移住した』

 そうするだろうことは聞いていた。

「セックスビデオは」

『すべて回収した』

「それを伝えたか?」

『ああ』

「いつ」

『十日、十一日前か。お前が出張に出た前日だ。翌日には出国している』



 そういうことか――!



 日本を出る直前に、きらりはこれボイスレコーダーを梓に渡した。どうやってかはわからないが、とにかく聞かせた。

 これを聞いたのと、俺と天谷の会話を聞いたののどちらが先かはわからないが、恐らくそう間を置かずに聞いたのだろう。

 梓のショックはどれほどか。

『梓ちゃんとは話せたのか?』

「話すさ」

『皇丞』

「なんだ」

『あの方に知られた』

「――っは!?」

『急げ』

 俺は弾かれたピンポン玉のように、部屋を飛び出した。

 もちろん、行き先は梓のマンション。

 金曜の二十一時四十分。

 帰っているはずだ。

 連れて帰りたかった。

 だから、車で出た。

 明日には出張先に戻らなければならない。

 東北支社で、欣吾が重大なセキュリティの穴を見つけてしまった。

 情報流出の可能性もあることから、俺たちが残って指揮を執り、修復することになった。

 俺のいない間に、天谷が梓に近づいたらと思うと気が気じゃなかった。

 マンションには灯りが点いていた。

 梓の部屋番号を入力してインターフォンを鳴らす。

 応答までの三秒すら、三時間にも思える。

『……っ』

 モニターを見て、息を呑む彼女が想像できた。

「話をしよう、梓」

『……』
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