復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

文字の大きさ
140 / 208
13.御曹司の罠

しおりを挟む

「誰もあれがお前の本音だなんて思ってねーよ。梓が御曹司の恋人って立場に価値を感じてるなら、とっくに天谷を捨ててただろ」

「……」

「どう見たって天谷より俺の方がハイスペックなのに、全然靡かない一途さに惚れたんだ」

 梓の抵抗が止む。

 彼女の弾む息が鎖骨の辺りをくすぐる。

「ハイスペックとか、自分で言っちゃう?」

「事実だからな」

「……そうね。でも――」

 息じゃなくて彼女の唇が触れる。

 カッと一瞬で熱くなる。

「――だから、怖い」

「怖い?」

「だって……」

「俺の母さんは、父さんの秘書だった」

「……?」

「父さんに縁談が持ち上がった時、身を引こうとした母さんを父さんは無理やり引き留めたんだ。だから――」

 最近の電話口での父さんと母さんの様子を思い出して、今度は俺が息を弾ませる。

「――今も父さんは母さんに頭が上がらない」

「社長が?」

「そう。家では、威厳も温厚さも何もない。嫁にベタ惚れなただのおっさん」

 腕を緩め、梓の顔を覗き込む。

 彼女もゆっくりと顔を上げ、俺を見た。

「二人とも、梓に会いたがってる」

「でも、私、社長に――」

「――あれはなし。父さんもなかったことにしてほしいって。母さんにバレたら口、きいてもらえなくなるからな」

「そうなの?」

「ああ」

 電話の翌日も、梓を呼び出したことは母さんに黙っていてほしいと改めて頼まれた。

 恋人を親に紹介したことのない俺がその存在を口にしたのだから、当然母さんは上機嫌だろう。

 そこに水を差すような真似をしたなんて知れたら、どうなることか。

「明日すぐに婚姻届を出そうなんて言わない。けど、いつ出してもいいって思って欲しい」

「料理……少しは上達するまで待ってくれる?」

「レベルアップの評価を俺にさせてくれるなら」

「評価基準を決めておく必要がありそうね」

 よくわかってる。

 今の俺なら、焦げてない目玉焼きでも合格だ。

「私……、後輩に婚約者寝取られるような女よ?」

「梓には悪いけど、林海に感謝してるよ」

 しみじみと思う。

 感謝してる。

 天谷に狙いを定めたきらりにも、簡単に堕ちてくれた天谷にも。



 本当に、感謝してるよ……。



「梓、プロポーズの返事は?」

 彼女の頬を掌で覆い、そっと持ち上げる。

 ゆっくりと顔を近づけると、彼女の瞳が揺れたのが見えた。

 睫毛が小さく震えている。

 微かに開いた唇に吸い付きたい衝動を堪え、返事を待つ。

「よろしく……お願いします」

 焦りを隠して、ゆっくりと、そっと唇を重ねた。

 まるで、誓いのキスのように。



 やっと、手に入れた――。



 この時の俺は、間違いなくこの世界で最も幸せな男だった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

処理中です...