復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

文字の大きさ
上 下
110 / 208
10.彼女が愛した男

しおりを挟む

「余計なこと、するなよ」

 俺はきつめの口調で言った。

 だが、そんなことで怯むことも謝ることもする相手ではない。

『いつまで経っても連れてこないからだろう?』

「付き合い始めたばっかだし、噂のこともあるから――」

『お前自身が噂の火消しに走っているのは、本当か?』

「ぐちぐち言ってる奴らにくぎを刺す程度だ。それにしたって消えないけど」

『当たり前だ。七十五日も経っていないだろう』

 相手のほくそ笑む顔が目に浮かぶ。

 人の噂も七十五日、なんて今時通用するか。

『モテるのに浮いた噂もなかった息子が同棲してると聞けば、相手のお嬢さんに会いたくもなるのが親心だ』

 こうなるのが嫌で、一緒に暮らしていることを黙っていたのに、どこから漏れたのか。



 俵だな……。



 あいつは父さんの犬の振りした飼い主で、俺の不幸が好物な下衆だ。

 俺が梓と一緒に暮らしていると知れば、父さんが梓に接触するとわかって告げたのだろう。いや、父さんを唆したのかもしれない。

「だから会わせただろ」

『あれは仕事だろう?』

「だからって、こんな状況で、俺抜きで呼び出すなんて、別れさせたいのかと思うだろ」

『フラれたのか!? 何をしたんだ!』

「したのは父さんだろ!」

『ちょっとお話したかっただけなのに……』

 なにがお話だ。

 いきなり社長室に呼び出して、『息子との付き合いは真剣か』なんて聞かれたら、渦中の自分では相応しくないと思うに決まっている。

 梓が、そこで噂など全く気にせずに恋人だと名乗るような女なら、惚れていない。

 いや、今となってはそれくらいの強い心持であってほしいと思う。

 支離滅裂な感情だが、要するに梓に俺を諦めてほしくない。

 だからこそ、ここはきつく言っておかないと。

「母さんに言いつけるぞ」

『お前っ! それは卑怯だろ』

 やはり、梓を呼び出したことを、父さんは母さんに言っていない。

 ようやく焦った父の声に、俺はフンッと鼻息を荒くする。

「俺は梓以外の女と結婚する気はない。なのに梓にフラれたら、一生孫は抱けないな。それを母さんが知ったらどう思うかな」

 電話の向こうで、ふぅっとため息。

『真面目な話、お前が無理強いしてるんじゃないだろうな。傷心の彼女につけ込むような真似を――』

「――始まりはどうでも、梓がプロポーズに頷けばそれがすべてだろ」

『皇丞……』

 それほど本気だと、わかれ。

 結婚前、取引先の令嬢との縁談が持ち上がった父さんのためを思って身を引こうとした母さんに、膝をついてプロポーズを、更に悪どいこともした父さんならわかるはずだ。

 俺だって、土下座して梓がプロポーズを受けてくれるなら今すぐに、いくらでもする。

 だが、泣き落としじゃ格好がつかないし、それこそ子供に両親の馴れ初めを話してやれない。

 そもそも、梓はそんなことを望んでいない。

『順序は守れ』

「父さんが言うか?」

『だから、だ。死ぬまで言われるぞ』

「それで梓が手に入るなら構わないけどな」

『皇丞!』

 急に大きな声を出すもんだから、反射的にスマホを耳から離す。

 今度は俺がため息をついた。

「わかったよ」

『それと、母さんには言うなよ』

「……ああ」

『おい。たの――』

『お父さん? 皇丞と話してるの?』

 母の声。

 通話口を押さえたのだろう。父と母の話し声がくぐもって聞こえない。

『皇丞?』

 母の声。

 父からスマホを奪取したらしい。

「ああ」

『元気? たまには顔を見せなさい』

「ああ」

『男同士で何をコソコソしているのか知らないけど、お母さんに隠し事ができるとは思っていないでしょうね』

 いつも思うが、いくら相手が母さんでも、父さんの隠し事の下手さはどうなのか。

 経営者としては隠し事もはったりも完璧なのに。

 そして、往々にしてとばっちりを受けるのは、俺。

 こめかみを押さえてどう返答するか、考えを巡らせる。

 経験上、俺が嘘ついても父さんは合わせられない。結局、俺が嘘をついたことを叱られる。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました

瀬崎由美
恋愛
穂香は、付き合って一年半の彼氏である栄悟と同棲中。でも、一緒に住んでいたマンションへと帰宅すると、家の中はほぼもぬけの殻。家具や家電と共に姿を消した栄悟とは連絡が取れない。彼が持っているはずの合鍵の行方も分からないから怖いと、ビジネスホテルやネットカフェを転々とする日々。そんな穂香の事情を知ったオーナーが自宅マンションの空いている部屋に居候することを提案してくる。一緒に住むうち、怖くて仕事に厳しい完璧イケメンで近寄りがたいと思っていたオーナーがド天然なのことを知った穂香。居候しながら彼のフォローをしていくうちに、その意外性に惹かれていく。

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

捨てられた花嫁はエリート御曹司の執愛に囚われる

冬野まゆ
恋愛
憧れの上司への叶わぬ恋心を封印し、お見合い相手との結婚を決意した二十七歳の奈々実。しかし、会社を辞めて新たな未来へ歩き出した途端、相手の裏切りにより婚約を破棄されてしまう。キャリアも住む場所も失い、残ったのは慰謝料の二百万だけ。ヤケになって散財を決めた奈々実の前に、忘れたはずの想い人・篤斗が現れる。溢れる想いのまま彼と甘く蕩けるような一夜を過ごすが、傷付くのを恐れた奈々実は再び想いを封印し篤斗の前から姿を消す。ところが、思いがけない強引さで彼のマンションに囚われた挙句、溺れるほどの愛情を注がれる日々が始まって!? 一夜の夢から花開く、濃密ラブ・ロマンス。

御曹司の極上愛〜偶然と必然の出逢い〜

せいとも
恋愛
国内外に幅広く事業展開する城之内グループ。 取締役社長 城之内 仁 (30) じょうのうち じん 通称 JJ様 容姿端麗、冷静沈着、 JJ様の笑顔は氷の微笑と恐れられる。 × 城之内グループ子会社 城之内不動産 秘書課勤務 月野 真琴 (27) つきの まこと 一年前 父親が病気で急死、若くして社長に就任した仁。 同じ日に事故で両親を亡くした真琴。 一年後__ ふたりの運命の歯車が動き出す。 表紙イラストは、イラストAC様よりお借りしています。

処理中です...