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9.火種
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しおりを挟む快感に目を閉じているうちに腹部の締め付けがなくなり、組み敷かれると同時に身に着けていたものが一気に引き下ろされる。
片足をソファの背に直角に持ち上げられ、自分でも見たことのない場所が彼の眼前に曝《さら》される。
「ちょ――」
皇丞の顔が開かれた足の付け根に近づき、両手で隠すより先に口づけられた。
「あ……んっ」
舐め上げられ、吸い付かれ、軽く歯を立てられて、その度に腰が揺れる。甲高い呻きを手の甲で塞ぐ。
「は……っ」
こんなことをしている場合じゃない。
考えなければいけないことがたくさんある。
『我が社の将来を担う息子の支えになってもらえるか?』
スキャンダル塗れの私は、相応しくない。そうじゃなくても、そんな器じゃない。
『我が社の名前に泥を塗るようなミスをしておきながら』
私のミスじゃない。でも、それを証明はできない。
『東雲課長は社長に、会議までに今回の件があなたのミスでないことを証明すると約束なさいました』
ただでさえ忙しいのに、そんなことまでさせたくない。
考えなきゃ。
考えなきゃいけないのに、気持ち良くて考えられない。
「抱かれないって……選択肢は?」
私の全身にキスを落とし、ようやく視界に戻ってきた皇丞が滲んで見える。
はぁっと息をつくたび、涙が溢れる。
「ねーよ」
いたずらっ子のように顔をくしゃっとさせて笑った皇丞が、唇を寄せる。
頭の中はぐちゃぐちゃでも、皇丞の手の温かさや、唇の柔らかさに身体は素直に悦んでしまう。
挿入ってきた彼の熱に悦ぶ身体が恨めしい。
「お前は、俺を手放せるのか?」
程よく鍛えられた締りの良い身体に抱きしめられ、耳元で囁かれる。
そうしている間にも、彼が私の身体の奥を目指し、暴いていく。
「諦めろ……」
どうしてそこまで愛してくれるの?
知りたい。知りたくない。
不安をかき消すように、皇丞の首に腕を回し、しがみつく。
「おう……すけっ」
怖い。
彼に溺れそうで、怖い。
皇丞に与えられるぬくもりを手放せなくなりそうだ。
「梓……」
でも、終わりはくる。
私は彼に相応しくない。
覚悟もない。
「相応しくないのは、俺の――っ方だ」
どういう意味? と聞きたかったのに、できなかった。
瞼が重くて開けられない。
きつく閉じた唇が開けない。
気持ち良すぎて、幸せ過ぎて、苦しい。
自分でもわけが分からない感情が体内を巡る。
そんな中で、ふと思った。
初めて皇丞に抱かれた時にも思ったこと。
嫌だな、と。
皇丞が私じゃない女の髪に指を絡めるのは嫌だな、と思った。
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