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6.乗っ取り
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しおりを挟む宇梶さんが発言を終えると、専務の隣に座る常務が口を開いた。
「いいんじゃないかな。私も賛成だ」
「私から質問があります」
皇丞が座ったまま言った。
「今回の企画は明確な期限があり、これから俳優を決めてコンタクトを取り、撮影するとなると時間が足りないでしょう。その点は目途が立っているのですか?」
私も思った。
俳優と一口に言っても、男性なのか女性なのか、そもそも引き受けてもらえるのか、スケジュールは合わせられるのか。ギャラの予算もある。
それ以前に、『HOME+@』がOKを出すか。
「ある芸能プロダクションの社長にお願いしてあります」
……はい?
お願いしてどうにかなるものなのか。
「あ、知り合いなんです。なので、所属俳優にお仕事をお願いしたいって言っておきました」
「林海さん。起用する俳優はあなた一人では決められませんよ? そのプロダクションの俳優以外で決まったらどうするんですか?」
「時間もないですし、そのプロダクションから選べばいいと思います」
ソウデスカ……。
「た、例えばどんな俳優がいるプロダクションなのかな?」
沖課長が、今日初めて声を発した。
本当は黙っていたかっただろうに、専務からの圧でも感じたのか。
「ムーンライズプロダクションってところなんですけど、佐〇健や菅田〇暉や反〇隆史が所属してるんですって! あと、岩田〇典も!」
…………いや。
芸能界や今時の俳優に疎い私でもわかる。
今言った四人が同じ事務所なわけがない。
皇丞がスマホを取り出し、検索する。
「ムーンライズプロダクションという事務所は出てきませんけど」
「え!? あれ? 聞き間違えたんですかね」
ですかね、じゃないでしょう。
「今言った四人も同じ事務所ではないようですけど」
「え……?」
きらりが慌ててスマホを取り出す。
「でも! 名刺をもらったんです」
「その名刺は?」
「今は持ってないんですけど、連絡先はわかってます。昨日も会ってお願いしたんです」
え……?
きらりはスマホからその社長の番号を呼び出しているのか、自分の発言の致命傷に気づかない。
「企画の詳細を話したのですか? 正式にオファーする前に?」
「え? だって――」
「――その内容が他社に伝わる可能性は考えませんでしたか」
「そんなこと――」
「――そんなことじゃないでしょう!」
皇丞の怒声に、思わず肩に力が入る。
静まり返る室内。
専務も、専務派の面々も、フォローの言葉も思いつかないようだ。
外部に漏れた以上、この企画はなしだ。
ちょっと待って、私の企画内容は漏れてない――!?
「林海さん、その社長にはどこまで話したの?」
「え?」
「雑誌名を言った?」
「言って……ません」
隣から皇丞のため息が聞こえた。
「具体的にどう話したんだ」
「雑誌でうちの商品を褒めてくれるだけでいいからって……言いました」
「それだけ?」
「はい……」
「その社長はなんて?」
「いいよ、って」
そんなバカな……。
「林海さん。子供の遊びじゃないんだ。雑誌名もギャラも撮影の日程も知らずに『いいよ』なんて約束のうちにも入らない。しかも、実際にはないプロダクションだ。どういう知り合いか知らないが、騙されたんだよ」
「えっ!? 嘘! だって――」
きらりは口をパクパクさせるばかりで、言葉を継げない。
無言で専務が立ち上がった。
「社長、娘が申し訳ございませんでした」
綺麗に九十度腰を折る。
きらりは信じられないといった表情で父親を見ている。
「言い訳にもなりませんが、初めての企画で確認を怠っていたようです。妊娠中でもあり、情緒も不安定かもしれません」
確かに、言い訳にしてもナイ。
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