復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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6.乗っ取り

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『本人がやる気になっているのだから』だそう。

「林海きらりです! えっとぉ、資料の一ページを見てください。木曽根先輩のSNSでアンケートを取るって案は悪くないと思うんですけど――」

 細かいことを気にせず、資料に目を通す。

 彼女の発表が邪魔なほどよくできた企画書。

 内容はともかく、企画書としての様式は守られている。



 誰が作ったの……?



 私の資料があれば比較できるから、この場にいる誰かとは限らない。が、恐らく宇梶さんだろう。

 なぜなら、とても楽しそうにきらりの発表を聞いているから。

 そういえば、先週の会議に宇梶さんが出席したのは、当初担当予定だった彼の先輩と交代してだ。

 交代の理由までは聞いていないが、その時からすでにきらりの企画乗っ取り作戦が始まっていたことないだろうか。

 沖課長がきらりに都合の良い立場の人間に担当を交代させたとしたら。

 いや、でも、先週の沖課長はきらりの暴走に慌てていた。



 考え過ぎかな……?



「――ナビゲーターは、インパクトのある、有名……俳優を――」

 きらりは資料をただ棒読みしているだけ。

 しかも、練習不足がわかる。いや、緊張からかもしれない。

 どちらにせよ、最初はにこやかに聞いていた専務も頬がピクピクし始めている。

 社長の表情は見えないが、専務と同じか、違えばそれはそれで恐ろしい。

「――以上です」

 ため息が聞こえそうなほどか細い声でそう言うと、きらりはそそくさと席に戻り、ペットボトルを握り潰す勢いで水を飲む。

 突っ込みどころが色々あり過ぎて、最後まで投げ出さなかったことを褒めてあげたくなる。

「林海さんは、こういった場は初めてですか?」

 社長が聞いた。

 とても穏やかに。

 それに、むしろゾッとしたのは私だけではないだろう。

 だが、きらり本人はそうでない。

「はい! そうなんです。ずっと、企画とかさせてもらえなかったんです。雑用ばっかりで!」

 さも、やる気はあるのにと言わんばかり。

「そうですか」と社長は、やはり穏やかに言った。

「それについては部長と課長の責任ですね。部下の教育を怠ったのだから」

「え?」

 きらりの横で、彦谷部長が青ざめている。

「申し訳ありません」

 部長より先にきっぱりとそう言ったのは、皇丞。

「ただね、林海さん。どんな仕事も立派な仕事です。雑用と一言で言ってしまうのはどうだろうね」

「え? あ、はい……」

 社長の穏やかさに隠された緊張感を察したのか、単純に諭されて拍子抜けしたのか、気が抜けた返事。

「ただ、企画書はよく書けていますね。気になる点もあるけれど、初めてならとても上手だ」

「ありがとうございます!」

 瞳をキラッキラさせるきらりの隣で、宇梶さんが唇を捻ったのが見えた。



 彼が協力者……?



 では、彼が先輩の代わりを買って出たのだろうか。

 そもそも、彼はきらりと親しいのか。

 社長が進行を促し、皇丞が立ち上がる。

「まず、今回の企画は木曽根さんが発案者です。彼女の企画に対して林海さんが内容の改善を求めたことでこの場が設けられたわけですが――」

 要するに、私の企画よりきらりの企画を押す奴がいたら前へ出ろ、という内容をものすごく堅苦しく話す皇丞。

 私は、正面に座る一同の様子を窺う。

「はい」と手を上げたのは、宇梶さん。

 皇丞に促され、その場に立つ。

「営業一課の宇梶です。林海さんの、俳優をナビゲーターとすることで華やかさを持たせるのは賛成です。実際に――」

 宇梶さんは他社のイメージキャラクターを例に挙げて、俳優の起用を推す。

 私も、俳優を起用することが悪いなんて思っていない。

 ただ、『HOME+@』に関しては一般の主婦や編集者が、消費者目線でナビゲートすることで評価されている。
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