復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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6.乗っ取り

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「それに、もっとすごいことしたいの我慢してんだから」

「だから、なに! 場所を考えて! 立場を考えてください!」

「そんな大きな声出すと、ホントに誰か来るぞ」

 不安になって皇丞の肩越しに廊下を見る。

 人の気配はしないが、だからいないとも限らない。

「梓」

 視線を戻す。

 意地悪な笑みが、真っ直ぐに受け止めるには恥ずかしい、穏やかで優しい笑みに変わっていて、実際に私は恥ずかしさに視線を伏せた。

 イケメンという生き物は、その存在自体が媚薬のようだ。

「月が綺麗だな」

「……え?」

 首を回して窓を見る。

「満月か」

 満月だ。

 ホラー映画が観たくなるような、くすんだ色の月。

「団子でも買って帰るか」

「ふっ……」

 御曹司様の庶民に似た発想に、思わず笑ってしまった。

「なんだよ。団子、嫌いか?」

「ううん?」

「お前はやっぱあんこが好きか?」

「お団子なら醤油がいい」

「……ふーん」

「皇丞は?」

「あんま食べたことがないからよくわかんね」



 なら、なぜ団子を買って帰ろうなんて?



「梓」

「ん?」

「大丈夫だ」

「え?」

「お前の企画にGOを出したの、俺だぞ? 俺がイケると思った企画が、ハズれたことはない」

 すごい自信ね、と茶化そうと思ったのに、あんまり真剣に言うからできなかった。

 不安を見透かされて、張ろうと思った意地がどんどん小さく萎んでいって、代わりに弱音や甘えが膨らむ。

 弱気な自分は好きじゃない。

 意地っ張りな自分も。

 皇丞に甘えたって、状況は変わらない。



 本当に、何も変わらない?



 私は皇丞の肩におでこをくっつけて顔を伏せた。

「せっかくスケジュールに余裕があったのに、台無しよ」

「そういうこともあるだろ」

「あの子のせいってのが、嫌」

「だな」

「でもぉ、だってぇ、とか甘ったるく語尾を伸ばすなっての」

 皇丞が私の頭を撫でながら「確かに」と笑った。

「でも、弱気になってる自分が一番嫌」

「……」

「沖課長、専務派だし……」

「俺は違うぞ?」

「……?」

「次の会議は俺も出る」

「恋人が上司だから企画を通したとか言われるのも嫌」

「わがままだな」



 そうよ。

 私はわがままで面倒くさい女なの。



 だから、人前では決して見せない。

 誰にも、見せない。見せたことがない。

 こんな私、私だって嫌いだから。

 私は顔を上げ、ふぅっと肩で息を吐いた。 

「ま、そんなこと言っても――」

「――可愛いわがままだ」

 チュッと唇同士が触れ合う。

「なんと言われようと企画が成功すれば、それがすべてだ。それに、妬まれるのは優秀な証拠だ」

 まったく、憎らしい。

 皇丞に言われると、そうかと思えてしまう。

 自分の悩みがやけにちっぽけに思えてきた。

 肩の力が抜けて、お腹が空いてくる。

「こんな時間じゃスーパーかコンビニの団子かな」

「……だね」

 腕が解かれ、いつの間にかソファに転がっていたコーヒーのペットボトルを皇丞が拾い上げる。

「飯はどうする?」

「この時間ならスーパーのお弁当が値引きされてるから、それでいいよ」

「色気ねぇな」

 笑いながら、皇丞がペットボトルのキャップを捻る。

 私が力いっぱい締めたキャップは、彼がほんの少し力を入れただけで開いてしまう。

 私の力いっぱいなんて、そんなもんか。

「三色団子が夜ご飯でもいいよ」

 皇丞は唇を捻って嫌そうな顔をした。

「寿司、半額になってないかな」

 私はふふっと笑い、窓の外に目を向けた。

 鮮やかな金色の月が、輝いていた。

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