復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

文字の大きさ
上 下
58 / 208
5.月夜

13

しおりを挟む

「酔ってても恋人への気遣いを忘れないなんて、疑いもなく本音だろ」

「はぁ……」

 せっかく褒めてもらっているのだが、記憶にない上に呂律が回っていなかったことが恥ずかしい。

「ベタだけどな? 俺もそんな風に愛されたいって思った」

「……ベタ、ですね」

「俺って、意外とチョロいらしい」

 皇丞がまた、子供みたいに顔をくしゃっとさせて笑った。

 今日、彼のこんな風に笑った顔を、何度見ただろう。

「ま、それ以前に気になりだした理由は他にもあるんだけど」

「え、なんですか?」

「それはまた、おいおいな」

「いや、気になるんですけど!」

「お前が敬語を使わなくなって、ついでに俺がお前を好きな気持ちの半分でも俺を好きになったらな?」

 今度は、大人の色気漂う微笑み。

 本当にズルい。

 こんな風にころころ変わる表情、私の気持ちがついていけない。

「そろそろデザートにするか」

「……はい」

 皇丞が渡されていたボタンを押し、デザートを持って来てくれるように言う様を、バラ越しに眺めていた。

 記憶にない自分の言葉が誰かの心を動かすなんて、どうにも複雑だ。

 だって、その時の自分がどんな気持ちでそう言ったのかもわからない。

 直に疑われたくないと思っていたのは事実。

 なぜなら、忘年会の前に忘年会について聞かれたことで、男性のいる飲み会に行ってほしくないんだろうなと思っていたから。

 課の忘年会? 部の忘年会? 他部署と合同じゃない? 二次会は行く?

 まとめてじゃない。

 一つずつ、日を変えて聞かれた。

 でも、さすがに気づく。

 で、言った。

『二次会には行かずに帰るよ』

 だからと言って、帰ったら電話しろとか、その後で会おうとか言われたわけじゃない。



 あ、でも、電話がきたか。



 直が時々、とても不安そうに見えることがあったのは、付き合い始めの頃からずっと。

 私は直にそんな表情をさせたくなくて、男性との距離には気を付けていたし、メッセージには早めに返信していた。

 それで直が安心するのかはわからなかったけれど、私にできたのはそれくらいだったし。

 それも、別れる少し前は仕事の忙しさにかまけて、直と距離があった。

 そこに、きらりがつけ込んだわけだ。

「バラ、好きだったか?」

 バラの向こうで、皇丞が微笑む。

「好き……かな。あまり花に興味がなくて。でも、綺麗だなと思う」

 また、余計なひと言を挟んでしまう。

 皇丞が相手だと、どうしていつも可愛げのない言葉が口をつくのか。

「プロポーズの時に花束は必要なさそうだな」

「……え?」

 バラから皇丞に焦点が移る。



 それは、私へのプロポーズ……ってこと?



 まさか、と思った。

 だから、言った。

「うん。そういう憧れはない」

 私の言葉に、皇丞が少しだけ寂しそうに微笑む。

「自己評価が随分と低くなったのがあいつのせいだと思うと、殴っときゃよかったと思うな」

「え?」

 ドアがノックされ、支配人と、今度はコックコートを着た男性がワゴンを押して入って来た。

「デザートのカタラーナとモンブランになります」

「どちらも彼女に」と皇丞が手を差し出す。

 どちらも美味しそうだから嬉しいけれど、さすがに食べ過ぎではと思わずお腹を押さえた。

 ヴヴヴッとバイブ音が聞こえ、皇丞がジャケットの胸ポケットからスマホを取り出す。

 発信者の表示を見て、明らかに面倒くさそうに口元を歪めた。

「悪い。食べてて」

 立ち上がった皇丞は部屋の隅に向かって歩きながらスマホを耳に当てた。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました

瀬崎由美
恋愛
穂香は、付き合って一年半の彼氏である栄悟と同棲中。でも、一緒に住んでいたマンションへと帰宅すると、家の中はほぼもぬけの殻。家具や家電と共に姿を消した栄悟とは連絡が取れない。彼が持っているはずの合鍵の行方も分からないから怖いと、ビジネスホテルやネットカフェを転々とする日々。そんな穂香の事情を知ったオーナーが自宅マンションの空いている部屋に居候することを提案してくる。一緒に住むうち、怖くて仕事に厳しい完璧イケメンで近寄りがたいと思っていたオーナーがド天然なのことを知った穂香。居候しながら彼のフォローをしていくうちに、その意外性に惹かれていく。

巻き戻ったから切れてみた

こもろう
恋愛
昔からの恋人を隠していた婚約者に断罪された私。気がついたら巻き戻っていたからブチ切れた! 軽~く読み飛ばし推奨です。

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

捨てられた花嫁はエリート御曹司の執愛に囚われる

冬野まゆ
恋愛
憧れの上司への叶わぬ恋心を封印し、お見合い相手との結婚を決意した二十七歳の奈々実。しかし、会社を辞めて新たな未来へ歩き出した途端、相手の裏切りにより婚約を破棄されてしまう。キャリアも住む場所も失い、残ったのは慰謝料の二百万だけ。ヤケになって散財を決めた奈々実の前に、忘れたはずの想い人・篤斗が現れる。溢れる想いのまま彼と甘く蕩けるような一夜を過ごすが、傷付くのを恐れた奈々実は再び想いを封印し篤斗の前から姿を消す。ところが、思いがけない強引さで彼のマンションに囚われた挙句、溺れるほどの愛情を注がれる日々が始まって!? 一夜の夢から花開く、濃密ラブ・ロマンス。

処理中です...