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4.合鍵
7
しおりを挟む想像してみる。
直が頭を下げたら、土下座して謝ったら、私は許せるだろうか。
きらりに強引に誘われて断り切れなかった、一度だけでいいから抱いてくれと泣かれたから仕方なかった、なんて言い訳されて信じられるだろうか。
本当に好きなのは今も私だけだと、きらりとは結婚なんてしたくないけど子供ができてしまったから仕方がないんだと、許してくれと縋られたら満足できるだろうか。
「梓」
頭を撫でていた大きな手が髪の流れに沿って下りてきて、毛先を指に巻き付けた。
課長は、よくこうして髪に触れる。
課長のプライベートの顔をよく知らない私が知っている、数少ない彼の癖。
その、彼の癖を無抵抗に受け入れている自分に、少し驚いている。
「二人で会わせた方が、俺には都合がいいんだろうな」
「え?」
「天谷が何を言っても、お前は傷つくだろう?」
そうかもしれない。
謝られても許せない、言い訳されても理解できない、縋られても受け入れられない。どうあっても、惨めになるだけだ。
「ボロボロに傷ついたお前につけ入るのが、手っ取り早くお前を手に入れる方法なんだろうけどな」
真顔で、怖いくらい真剣な表情で、指に巻いた髪を解き、その指で私の頬に触れる。
「だとしても、お前が俺以外の男に気持ちを乱されるのは許せないな」
指が頬を撫で、唇にたどり着く。
「お前が俺以外の男のせいで傷つくのは許せない」
「課長のせいで傷つくのはいいんですか?」
冗談っぽく言おうと思ったのに、うまく笑えなくて、声が震えた。
唇をなぞる彼の指が、羨ましいほど細くて長い指が、あんまり優しく触れるから。
「お前が俺のせいで傷つくことがあるのなら、それは俺に特別な感情を持った証拠だろう?」
見かけによらず繊細というか、ロマンチストというか。
見た目の良さと御曹司の立場で、好き放題に遊んでいそうなのに。
むしろ、恋人なんて面倒な存在だと鼻で笑いそうなのに。
なのに、どうして私を想ってくれるの……?
「今夜、同席してください」
「……ああ」
「そばに、いてください」
「ああ」
傷つきたくない、からじゃない。
傷つけたくない、と思うから。
私が直と二人きりで会うと言ったら、課長の方が傷つきそうだ。怒りそうだ。
そして、せっかくの土曜日なのに叩き起こされそうだ。
私と課長の安眠のためよ。
私は課長の見ている前で、直にメッセージを送った。
〈今夜、部屋で待ってます〉
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