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3.復讐計画
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しおりを挟むパッと私から手を離すと、東雲課長はつかつかと歩き出す。もちろん、私も後に続く。
課長のカードで開錠し、ドアを開けた彼が先に進み、ドアを押さえて私を通してくれる。
と、同僚の視線を一身に受けていることに気が付き、足を止めた。
噂は金曜日で止まっているはずだから、婚約破棄された私を哀れむ視線だろうか。
金曜日に顔を合せなかった人もいる。
「梓」
「え?」
立ち止まったせいでドアが閉められないと気が付き、一歩ずれる。
課長がドアを閉めると、カチッと施錠音がした。
「おはよう」
課長の言葉に、みんなハッとした表情で挨拶を口にする。
「おはようございます」
「おはようございます」
私も挨拶をして、自席に着く。
きらりはいない。
不思議な空気の理由は、すぐにわかった。
「おはよう、木曽根さん」
「おはようございます、部長」
立ち上がって一礼する。
いつもは自室にこもっていてほとんど広報課には来ない彦谷部長。
「話は聞いたよ? 大変だったねぇ」
彦谷部長は、メタボ体型でスーツのジャケットのボタンを留めているのをあまり見たことがない。
私が入社した頃はまだ標準体型だったのだが、離婚後の食生活の乱れで瞬く間に太ってしまった。
「お騒がせしてしまって、申し訳ありません」
部長の言う『話』が婚約解消のことだろうと踏んで、私は頭を下げた。
「いやいや。男と女には色々あるよね。わかるよ。けどね、忘れた方がいい。嫉妬や憎しみなんて見苦しいし、きみの価値を落とすだけだと思うよ」
「はぁ……」
部長は林海専務と交流がある。
きらりの入社時、きらり本人が広報を希望したらしいが、部長も二つ返事で了承したと聞く。
「少し、休みを取ったらどうかな? 有給、溜まってるだろう?」
専務の指金なのが見え見えだ。
「部下は平等に大事に思っているけどね? 相手は妊婦だし、ほら! 妊婦にストレスは良くないんだろう? 林海さんが産休に入るまで休暇を取っても、ね?」
なにが『ね?』だ。
この場の誰もがそう思っているらしく、呆れ顔だ。
「部長」
「ん?」
「当の林海さんは、今日はお休みですか?」
「ああ、いや。体調を見て出勤するとついさっき電話があったよ。妊婦はほら、ねぇ? 色々あるだろう?」
知るか。
私は妊娠の経験がないし、あっても『妊婦は色々あるので』なんて甘えたことを言うつもりはない。
体調が悪いならそう言えばいいし、休むなら休むと言えばいい。
寝坊しただけでしょ。
「部長。お気持ちはありがたいのですが、私は休暇をいただくつもりはありません」
「え? でも、気まずいだろう? その、林海さんと顔を合わせるのは」
「いえ。私は問題ありません」
部長の肩越しに、東雲課長と目が合う。
かなりご機嫌がよろしくない。
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