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8話 王女様は逃亡中2
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逃げて逃げてそれからどうなった?
イブキが学校に出てこられたのは二か月後だった。
それ位魔族の動きが活発化して仕事が山積みでてんてこ舞いだった。
幸いウィザードは国家機関なので、休んだ分はレポートを出せば休んだことにはならなかったのはありがたいが。
学校にやっと出れた日、早々にクラスの女子に取り囲まれる、ことになる。皆が嬉しそうに何かを聞きたがっていた。
(何事……?)
何がなんだかわからない。
「イブキ、どうやって年下のイケメン王子落としたの?」
その言葉に呆然とする。
「そうよ!イブキが学校を休んでいる間毎日毎日二か月間、あのイケメン王子はイブキに会いに来たのよ!」
「……」
クリスの自分への想いは相当の物らしい、逃げきれるか不安になってきた。
「イブキー!イケメン王子が面会にきたよー!」
「い、いないって言って!」
「無理!居るって言っちゃった!」
ひーっと逃亡しようとするが、脇を固められてあれよあれよとクリスの居るクラスの出入り口に連れられて行く。何やら自分は贄のような気がしてきたイブキである。
「イブキ!会いたかった!」
いつもの如く子犬のような笑顔で出迎えられて、イブキは罪悪感を覚えた。
(どうやって別れを切り出そう……)
「イブキ、ごめん。話をしたいから放課後中等部の生徒会室まで後で来てくれる?」
そのクリスの切り出しにイブキは頷く。
中等部の生徒会室に訪れた時、イブキの想像通り誰も居なかった。クリスは生徒会の手伝いをしているのでそれで部屋を借りれたのだろう。
「イブキ、ごめんね。来てくれてありがとう」
「ううん……。私も話が合ったし」
「さて……。イブキはどこまで神器について知ってる?」
クリスの優しい空気が変った気がした。が、イブキは気付かない振りをする。
「えーっと。取り合えず世界の事から?」
この世界は三つから構成されている。四元素を治めるウィル神族と闇を治める魔族と風と光に祝福された天空界から成り立つ。魔族は西と東の大陸があり、二つに分かたれている。数年前にウィル神界と東の魔族の戦いが起こり、その一年後に天空界と西の魔族との戦いが起こった。ウィル神界と天空界は魔族に勝利した。ウィル神族も天空界も平均年齢が数百歳という長命な一族である。大体が20歳前後で一次成長が止まり、二次成長で更に老いる。
ウィル神族はウィル神聖王国という一つの国からなる。そしてこの天空界は風を司る風の王国シルフィーディアと光を司る王国ウェルリースとこの数百年で台頭した魔法化学の先進国であり、国民の投票からなる議会とその国民の代表大統領が治める民主主義と深い森と湖の美しい国シルフィード国の三つからなっている。
「神器は遥か昔天空界の天使により天使とウィル神族と魔族を滅せられるように作られた武具で、神器に認められる者のみその武具を使うことが許される。炎と水と大地と風と光と闇の6つがあるけど、神器自体が出現しなくなり、神器は伝説の中に在って、それで今あるのは炎の神器のみよね?」
「うんそうだよね」
「でも、あなたは水の神器使いだった。ウィル神界はあなたの存在を隠していたわ」
イブキがクリスを睨みつけた。それと同時に腕を掴まれる。イブキが振り返ると今まで見た事のない冷たく氷のような空気を身に纏うクリスがその双眸を蒼く染め上げていた。
「何故、君は神器使いの双眸が神器と共鳴すると色を変えることを知っている?あの時僕は目を蒼く染め上げていた。それだけで何故水の神器使いだと判別出来た?」
その神器の持つ狂気と共鳴したクリスに圧倒される。
その身に纏う狂気が恐ろしくて一歩も動けない。
同じ神器使いである自分が、だ。
炎の神器も苛烈で知られていたが、水の神器は水の如く冷たくて苛烈だと伝承は語っていた。
「答えろ」
その口調は命令し慣れた王族そのものの声色でいつも優しくイブキを見つめる青の双眸は冷徹で苛烈な水の神器の色に染まっている。
恐怖で声が出せない。息をするのがやっとだ。
それでも自分はウィザードで神器使い、だ。
その矜持だけで恐怖の感情をやっと抑える。
神器使いなのは絶対に漏らしてはいけない。
だけど。
「わ、私は……」
ようやっと声を出して、クリスを睨みつける。
クリスは水の神器の狂気に当てられた人間が声を出せるとは思ってなかったらしく、意外そうにイブキを見る。
(悔しい、悔しい!)
自分の情けなさに悔しくて涙が出てくるが、クリスを睨みつけて、瞳だけは逸らさない。
「私の従姉に風の神器使いがいるから……神器と共鳴して、瞳の色を変えるのは知っているの」
ぼろぼろと涙を流しながらイブキは答える。
ぐいっと掴まれた腕を更に力を込める。
「いたっ……痛い」
「そうだな……。風の神器使いか、あれが身内にいたのか」
くっと冷ややかにクリスが声を出して嘲笑する。
呆然とクリスを凝視するしかない。
こんなクリス、クリストファー王子は知らない。
まるで別人だ。
掴まれた腕を引き寄せられてクリスに抱き締められた。
見た目より男性を感じさせるその身体にきつく力を込めてイブキを抱き込んだ。どれくらいたっただろうか。
「さよならだ……。イブキ」
「え!」
「僕が水の神器を使っていた所を君に見られたことがウィル神聖王国の上層部に知られた。僕の側近が密告したんだ。その結果、王都での謹慎を命じられた。僕は裁判にかけられる。ウィル神聖王国に帰国が決まって、留学は取りやめになった。今日が学校に居られる最後の日なんだ。だから会えて良かった」
「……」
イブキが顔を上げて、クリスのまだ神器と共鳴した残滓が残った蒼の双眸を見つめる。
(私、この瞳の色を知っている……)
遥か昔に出逢ってそれからどうした?
思い出そうとすると頭に靄がかかる。
頭がズキズキする。
ぎゅっと抱き締められて、重なるだけの唇。
優しく何度も角度を変えられて口づけられる。
唇が離れる。
最後にクリスがイブキの頬を両手で触れて手が離れる。
温もりが遠ざかっていく。
「さよなら……」
高い優しい声が別れを告げる。
涙が溢れて、止まらない。
ぺたんとイブキは座り込む。
去っていくクリスにイブキは何も言えなかった。
イブキが学校に出てこられたのは二か月後だった。
それ位魔族の動きが活発化して仕事が山積みでてんてこ舞いだった。
幸いウィザードは国家機関なので、休んだ分はレポートを出せば休んだことにはならなかったのはありがたいが。
学校にやっと出れた日、早々にクラスの女子に取り囲まれる、ことになる。皆が嬉しそうに何かを聞きたがっていた。
(何事……?)
何がなんだかわからない。
「イブキ、どうやって年下のイケメン王子落としたの?」
その言葉に呆然とする。
「そうよ!イブキが学校を休んでいる間毎日毎日二か月間、あのイケメン王子はイブキに会いに来たのよ!」
「……」
クリスの自分への想いは相当の物らしい、逃げきれるか不安になってきた。
「イブキー!イケメン王子が面会にきたよー!」
「い、いないって言って!」
「無理!居るって言っちゃった!」
ひーっと逃亡しようとするが、脇を固められてあれよあれよとクリスの居るクラスの出入り口に連れられて行く。何やら自分は贄のような気がしてきたイブキである。
「イブキ!会いたかった!」
いつもの如く子犬のような笑顔で出迎えられて、イブキは罪悪感を覚えた。
(どうやって別れを切り出そう……)
「イブキ、ごめん。話をしたいから放課後中等部の生徒会室まで後で来てくれる?」
そのクリスの切り出しにイブキは頷く。
中等部の生徒会室に訪れた時、イブキの想像通り誰も居なかった。クリスは生徒会の手伝いをしているのでそれで部屋を借りれたのだろう。
「イブキ、ごめんね。来てくれてありがとう」
「ううん……。私も話が合ったし」
「さて……。イブキはどこまで神器について知ってる?」
クリスの優しい空気が変った気がした。が、イブキは気付かない振りをする。
「えーっと。取り合えず世界の事から?」
この世界は三つから構成されている。四元素を治めるウィル神族と闇を治める魔族と風と光に祝福された天空界から成り立つ。魔族は西と東の大陸があり、二つに分かたれている。数年前にウィル神界と東の魔族の戦いが起こり、その一年後に天空界と西の魔族との戦いが起こった。ウィル神界と天空界は魔族に勝利した。ウィル神族も天空界も平均年齢が数百歳という長命な一族である。大体が20歳前後で一次成長が止まり、二次成長で更に老いる。
ウィル神族はウィル神聖王国という一つの国からなる。そしてこの天空界は風を司る風の王国シルフィーディアと光を司る王国ウェルリースとこの数百年で台頭した魔法化学の先進国であり、国民の投票からなる議会とその国民の代表大統領が治める民主主義と深い森と湖の美しい国シルフィード国の三つからなっている。
「神器は遥か昔天空界の天使により天使とウィル神族と魔族を滅せられるように作られた武具で、神器に認められる者のみその武具を使うことが許される。炎と水と大地と風と光と闇の6つがあるけど、神器自体が出現しなくなり、神器は伝説の中に在って、それで今あるのは炎の神器のみよね?」
「うんそうだよね」
「でも、あなたは水の神器使いだった。ウィル神界はあなたの存在を隠していたわ」
イブキがクリスを睨みつけた。それと同時に腕を掴まれる。イブキが振り返ると今まで見た事のない冷たく氷のような空気を身に纏うクリスがその双眸を蒼く染め上げていた。
「何故、君は神器使いの双眸が神器と共鳴すると色を変えることを知っている?あの時僕は目を蒼く染め上げていた。それだけで何故水の神器使いだと判別出来た?」
その神器の持つ狂気と共鳴したクリスに圧倒される。
その身に纏う狂気が恐ろしくて一歩も動けない。
同じ神器使いである自分が、だ。
炎の神器も苛烈で知られていたが、水の神器は水の如く冷たくて苛烈だと伝承は語っていた。
「答えろ」
その口調は命令し慣れた王族そのものの声色でいつも優しくイブキを見つめる青の双眸は冷徹で苛烈な水の神器の色に染まっている。
恐怖で声が出せない。息をするのがやっとだ。
それでも自分はウィザードで神器使い、だ。
その矜持だけで恐怖の感情をやっと抑える。
神器使いなのは絶対に漏らしてはいけない。
だけど。
「わ、私は……」
ようやっと声を出して、クリスを睨みつける。
クリスは水の神器の狂気に当てられた人間が声を出せるとは思ってなかったらしく、意外そうにイブキを見る。
(悔しい、悔しい!)
自分の情けなさに悔しくて涙が出てくるが、クリスを睨みつけて、瞳だけは逸らさない。
「私の従姉に風の神器使いがいるから……神器と共鳴して、瞳の色を変えるのは知っているの」
ぼろぼろと涙を流しながらイブキは答える。
ぐいっと掴まれた腕を更に力を込める。
「いたっ……痛い」
「そうだな……。風の神器使いか、あれが身内にいたのか」
くっと冷ややかにクリスが声を出して嘲笑する。
呆然とクリスを凝視するしかない。
こんなクリス、クリストファー王子は知らない。
まるで別人だ。
掴まれた腕を引き寄せられてクリスに抱き締められた。
見た目より男性を感じさせるその身体にきつく力を込めてイブキを抱き込んだ。どれくらいたっただろうか。
「さよならだ……。イブキ」
「え!」
「僕が水の神器を使っていた所を君に見られたことがウィル神聖王国の上層部に知られた。僕の側近が密告したんだ。その結果、王都での謹慎を命じられた。僕は裁判にかけられる。ウィル神聖王国に帰国が決まって、留学は取りやめになった。今日が学校に居られる最後の日なんだ。だから会えて良かった」
「……」
イブキが顔を上げて、クリスのまだ神器と共鳴した残滓が残った蒼の双眸を見つめる。
(私、この瞳の色を知っている……)
遥か昔に出逢ってそれからどうした?
思い出そうとすると頭に靄がかかる。
頭がズキズキする。
ぎゅっと抱き締められて、重なるだけの唇。
優しく何度も角度を変えられて口づけられる。
唇が離れる。
最後にクリスがイブキの頬を両手で触れて手が離れる。
温もりが遠ざかっていく。
「さよなら……」
高い優しい声が別れを告げる。
涙が溢れて、止まらない。
ぺたんとイブキは座り込む。
去っていくクリスにイブキは何も言えなかった。
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