白花の君

キイ子

文字の大きさ
上 下
19 / 25

星へ

しおりを挟む
 ひらりと、魔力で作り上げた花びらを飛ばす。
初めから、故郷に帰るつもりは無かった。……そう、生前、この大陸に渡る前の話しだ。
この地で使命を果たして死ぬつもりだった。始めから。戻れないと解っていたから、私は自身の亡骸がこの大陸の研究にさらなる発展をもたらすことを恐れていた。

 だから誰にもこの身を利用されたりなどしないように、崩壊の呪いをかけたのだ。
それがまさか、こんなことになるなんて……。

 ふわりと、目の前に影が落ちてくる。
無数に舞う花びらに切り裂かれて、化け物の腕が飛んでいた。

 「私の……星の子の血肉に不老不死の妙薬の効果など、無かっただろう?」

 「アァァアア!!」

 叫びながら腕を振り回す化け物。碌に思考も出来ないその様では、ただただ無為に暴れているに過ぎない。

 「……残念だったね」

 根も葉もない伝承に踊らされ、私を喰らった人間はどれだけいたのだろう。
崩壊の呪いのせいで血肉は腐り沸き立ちとても研究に使えるようなものでは無くなっていたからこそ、どうにかして利用したいとした結果がこれなのなら、本当に愚かで救いようがないと思える。

 「ウゥウ」

 低いうなり声をあげながら倒れる化け物を見ていた。
もう、立ち上がることはない。
完全に死んだようだ。僅かばかりの憐憫を抱きながら、その怪物を燃やす。
骨すら残さず燃やし尽くすまで見送って、ようやく息を吐いた。
まだやることがあるというのに、余計な体力を使ってしまったものだ。
研究所内を歩きながら、ぼんやりと考える。
私に成り代わりに選んだ器はどうやらあまり出来が良くなかったらしい。

 魔力の操作があまりうまく出来ない。
思った通りの威力にならないし、実際に力となって発動するまでに信じられないくらい時間がかかる。
前世で初めて魔法と呼ばれるものを使った時だって、ここまでではなかったのに。
自分の体なのに思い通りにならない感覚というのはなんとももどかしいものだった。

 どれくらい彷徨っただろう。
重要な研究を扱う場にふさわしく、内部はいり込んでおり外部の人間がその一番重要な検体がある、本丸ともいえる場所に向かうのは不可能に近いだろう。
私がここにたどり着けたのは私自身がその検体から作り出されたクローンだからか、ただの偶然か。
どちらにしろ運が良いのは確かだろう。

 頑丈なガラスケースに収められた小さな石の欠片。
どす黒く本当に小さな小石にしか見えないこれが、太古の昔に存在した星の子の遺物だと発見した人物に一種の尊敬すら覚えてしまう。
よくもまあ、こんなものを研究してみようと考えたものだ。

 手を伸ばせばその小石を守っていたガラスは瞬く間に溶けた。
まるで氷か何かのように。
遺物を恭しく持ちあげながら、感傷に浸る。
この人は父だろうか、母だろうか。
……分かっている、私がクローンである以上、この人はどちらにも当たらない。
私自身であるというのが一番近いか。

 微笑んだ。
残念ながらこの人の記憶や思いは私には残っていないけれど、同族と呼べる人たちが生きて、どんな風に過ごしていたのかもわからないけれど。
私には家族がいた。鮮明に思い出せるわけでは無いけれど、いまだに霧がかかっているようにわからない人たちばかりだけれど、私を愛して私が愛した父が、兄と姉たちがいた。
衝動に打ち勝てるだけの、愛を私は受け取っていた。

 「お疲れさまでした……きっと、疲れ果てて星に還ったあなたを、このような形で現世に留め続けた、置いていった私をお許しください。 同胞よ」

 太古の昔、この星に在った私たち星の子と呼ばれる種族は尋常でない程の魔力を持ち、精霊に好かれ、草花を茂らせる森羅万象全てに愛されそして思うが儘に扱うことが出来る種族だった。
星の生態系の頂点に立ち、全ての生命を管理する存在として君臨していた私たちに敵はいなかったのだ。
そんな欠点など無いように見えた最強の称号をほしいままにした星の子にも、たった一つ致命的な、種を絶滅に追いやった欠点があった。
どうしようもないような、バグだとしか言いようのないその欠点は、星に還りたがるというただ一点。
救いようのない、その一点。

 私もそうだが、星の子というものは産まれた瞬間からその衝動に身を焼かれ続ける。
それは理性でどうにかなるものではないし、本能とも呼べる原始的な欲求でもあるため抑え込むことが難しいのだ。だからこそその種族は瞬く間に数を減らした。
私たちにとって生きたいと願うことと星に還りたいと思うことは同義だった。たとえどれほど愚かな行為だとしても、はたから見れば自殺でしかないその行為も、そこに後悔はない。一切ない。

 私は、その還りたいという感情の矛先が星では無かった。
正確には星でなくなった。私はこの星を愛していたけれど、それ以上に愛する存在があったから。
御師さまに引き取られては御師さまが、そこに姉様と兄様たちが入り込んで、最終的にそれらを失った後は弟子たちが私の帰る場所だったから。
彼らのいる、生きた闇の大陸が私の故郷になったから。
だから、私の居るべき場所はこの大陸ではない。

 そう決めたのだから、だから私は必ず帰る。ずっと帰りたかった、場所に帰る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こんな異世界望んでません!

アオネコさん
BL
突然異世界に飛ばされてしまった高校生の黒石勇人(くろいしゆうと) ハーレムでキャッキャウフフを目指す勇人だったがこの世界はそんな世界では無かった…(ホラーではありません) 現在不定期更新になっています。(new) 主人公総受けです 色んな攻め要員います 人外いますし人の形してない攻め要員もいます 変態注意報が発令されてます BLですがファンタジー色強めです 女性は少ないですが出てくると思います 注)性描写などのある話には☆マークを付けます 無理矢理などの描写あり 男性の妊娠表現などあるかも グロ表記あり 奴隷表記あり 四肢切断表現あり 内容変更有り 作者は文才をどこかに置いてきてしまったのであしからず…現在捜索中です 誤字脱字など見かけましたら作者にお伝えくださいませ…お願いします 2023.色々修正中

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

【BL-R18】魔王の性奴隷になった勇者2

ぬお
BL
※ほぼ性的描写です。 ~あらすじ~  魔王に負けて性奴隷にされてしまった勇者は、性的なゲームを提案される。ゲームに勝てば再度魔王に立ち向かう力を取り戻せるとあって、勇者はどんどん魔王との淫らなゲームに溺れていく。 ※この話は「【BL-R18】魔王の性奴隷になった勇者」の続編です。  ↓ ↓ ↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/17913308/135450151 ※この話の続編はこちらです。  ↓ ↓ ↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/17913308/305454320

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

俺のすべてをこいつに授けると心に決めた弟子が変態だった件

おく
BL
『4年以内に弟子をとり、次代の勇者を育てよ』。 10年前に倒したはずの邪竜セス・レエナが4年後に復活するという。その邪竜を倒した竜殺しこと、俺(タカオミ・サンジョウ)は国王より命を受け弟子をとることになったのだが、その弟子は変態でした。 猫かぶってやったな、こいつ! +++ ハートフルな師弟ギャグコメディです。

兄弟愛

まい
BL
4人兄弟の末っ子 冬馬が3人の兄に溺愛されています。※BL、無理矢理、監禁、近親相姦あります。 苦手な方はお気をつけください。

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

尻で卵育てて産む

高久 千(たかひさ せん)
BL
異世界転移、前立腺フルボッコ。 スパダリが快楽に負けるお。♡、濁点、汚喘ぎ。

処理中です...