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星へ
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ひらりと、魔力で作り上げた花びらを飛ばす。
初めから、故郷に帰るつもりは無かった。……そう、生前、この大陸に渡る前の話しだ。
この地で使命を果たして死ぬつもりだった。始めから。戻れないと解っていたから、私は自身の亡骸がこの大陸の研究にさらなる発展をもたらすことを恐れていた。
だから誰にもこの身を利用されたりなどしないように、崩壊の呪いをかけたのだ。
それがまさか、こんなことになるなんて……。
ふわりと、目の前に影が落ちてくる。
無数に舞う花びらに切り裂かれて、化け物の腕が飛んでいた。
「私の……星の子の血肉に不老不死の妙薬の効果など、無かっただろう?」
「アァァアア!!」
叫びながら腕を振り回す化け物。碌に思考も出来ないその様では、ただただ無為に暴れているに過ぎない。
「……残念だったね」
根も葉もない伝承に踊らされ、私を喰らった人間はどれだけいたのだろう。
崩壊の呪いのせいで血肉は腐り沸き立ちとても研究に使えるようなものでは無くなっていたからこそ、どうにかして利用したいとした結果がこれなのなら、本当に愚かで救いようがないと思える。
「ウゥウ」
低いうなり声をあげながら倒れる化け物を見ていた。
もう、立ち上がることはない。
完全に死んだようだ。僅かばかりの憐憫を抱きながら、その怪物を燃やす。
骨すら残さず燃やし尽くすまで見送って、ようやく息を吐いた。
まだやることがあるというのに、余計な体力を使ってしまったものだ。
研究所内を歩きながら、ぼんやりと考える。
私に成り代わりに選んだ器はどうやらあまり出来が良くなかったらしい。
魔力の操作があまりうまく出来ない。
思った通りの威力にならないし、実際に力となって発動するまでに信じられないくらい時間がかかる。
前世で初めて魔法と呼ばれるものを使った時だって、ここまでではなかったのに。
自分の体なのに思い通りにならない感覚というのはなんとももどかしいものだった。
どれくらい彷徨っただろう。
重要な研究を扱う場にふさわしく、内部はいり込んでおり外部の人間がその一番重要な検体がある、本丸ともいえる場所に向かうのは不可能に近いだろう。
私がここにたどり着けたのは私自身がその検体から作り出されたクローンだからか、ただの偶然か。
どちらにしろ運が良いのは確かだろう。
頑丈なガラスケースに収められた小さな石の欠片。
どす黒く本当に小さな小石にしか見えないこれが、太古の昔に存在した星の子の遺物だと発見した人物に一種の尊敬すら覚えてしまう。
よくもまあ、こんなものを研究してみようと考えたものだ。
手を伸ばせばその小石を守っていたガラスは瞬く間に溶けた。
まるで氷か何かのように。
遺物を恭しく持ちあげながら、感傷に浸る。
この人は父だろうか、母だろうか。
……分かっている、私がクローンである以上、この人はどちらにも当たらない。
私自身であるというのが一番近いか。
微笑んだ。
残念ながらこの人の記憶や思いは私には残っていないけれど、同族と呼べる人たちが生きて、どんな風に過ごしていたのかもわからないけれど。
私には家族がいた。鮮明に思い出せるわけでは無いけれど、いまだに霧がかかっているようにわからない人たちばかりだけれど、私を愛して私が愛した父が、兄と姉たちがいた。
衝動に打ち勝てるだけの、愛を私は受け取っていた。
「お疲れさまでした……きっと、疲れ果てて星に還ったあなたを、このような形で現世に留め続けた、置いていった私をお許しください。 同胞よ」
太古の昔、この星に在った私たち星の子と呼ばれる種族は尋常でない程の魔力を持ち、精霊に好かれ、草花を茂らせる森羅万象全てに愛されそして思うが儘に扱うことが出来る種族だった。
星の生態系の頂点に立ち、全ての生命を管理する存在として君臨していた私たちに敵はいなかったのだ。
そんな欠点など無いように見えた最強の称号をほしいままにした星の子にも、たった一つ致命的な、種を絶滅に追いやった欠点があった。
どうしようもないような、バグだとしか言いようのないその欠点は、星に還りたがるというただ一点。
救いようのない、その一点。
私もそうだが、星の子というものは産まれた瞬間からその衝動に身を焼かれ続ける。
それは理性でどうにかなるものではないし、本能とも呼べる原始的な欲求でもあるため抑え込むことが難しいのだ。だからこそその種族は瞬く間に数を減らした。
私たちにとって生きたいと願うことと星に還りたいと思うことは同義だった。たとえどれほど愚かな行為だとしても、はたから見れば自殺でしかないその行為も、そこに後悔はない。一切ない。
私は、その還りたいという感情の矛先が星では無かった。
正確には星でなくなった。私はこの星を愛していたけれど、それ以上に愛する存在があったから。
御師さまに引き取られては御師さまが、そこに姉様と兄様たちが入り込んで、最終的にそれらを失った後は弟子たちが私の帰る場所だったから。
彼らのいる、生きた闇の大陸が私の故郷になったから。
だから、私の居るべき場所はこの大陸ではない。
そう決めたのだから、だから私は必ず帰る。ずっと帰りたかった、場所に帰る。
初めから、故郷に帰るつもりは無かった。……そう、生前、この大陸に渡る前の話しだ。
この地で使命を果たして死ぬつもりだった。始めから。戻れないと解っていたから、私は自身の亡骸がこの大陸の研究にさらなる発展をもたらすことを恐れていた。
だから誰にもこの身を利用されたりなどしないように、崩壊の呪いをかけたのだ。
それがまさか、こんなことになるなんて……。
ふわりと、目の前に影が落ちてくる。
無数に舞う花びらに切り裂かれて、化け物の腕が飛んでいた。
「私の……星の子の血肉に不老不死の妙薬の効果など、無かっただろう?」
「アァァアア!!」
叫びながら腕を振り回す化け物。碌に思考も出来ないその様では、ただただ無為に暴れているに過ぎない。
「……残念だったね」
根も葉もない伝承に踊らされ、私を喰らった人間はどれだけいたのだろう。
崩壊の呪いのせいで血肉は腐り沸き立ちとても研究に使えるようなものでは無くなっていたからこそ、どうにかして利用したいとした結果がこれなのなら、本当に愚かで救いようがないと思える。
「ウゥウ」
低いうなり声をあげながら倒れる化け物を見ていた。
もう、立ち上がることはない。
完全に死んだようだ。僅かばかりの憐憫を抱きながら、その怪物を燃やす。
骨すら残さず燃やし尽くすまで見送って、ようやく息を吐いた。
まだやることがあるというのに、余計な体力を使ってしまったものだ。
研究所内を歩きながら、ぼんやりと考える。
私に成り代わりに選んだ器はどうやらあまり出来が良くなかったらしい。
魔力の操作があまりうまく出来ない。
思った通りの威力にならないし、実際に力となって発動するまでに信じられないくらい時間がかかる。
前世で初めて魔法と呼ばれるものを使った時だって、ここまでではなかったのに。
自分の体なのに思い通りにならない感覚というのはなんとももどかしいものだった。
どれくらい彷徨っただろう。
重要な研究を扱う場にふさわしく、内部はいり込んでおり外部の人間がその一番重要な検体がある、本丸ともいえる場所に向かうのは不可能に近いだろう。
私がここにたどり着けたのは私自身がその検体から作り出されたクローンだからか、ただの偶然か。
どちらにしろ運が良いのは確かだろう。
頑丈なガラスケースに収められた小さな石の欠片。
どす黒く本当に小さな小石にしか見えないこれが、太古の昔に存在した星の子の遺物だと発見した人物に一種の尊敬すら覚えてしまう。
よくもまあ、こんなものを研究してみようと考えたものだ。
手を伸ばせばその小石を守っていたガラスは瞬く間に溶けた。
まるで氷か何かのように。
遺物を恭しく持ちあげながら、感傷に浸る。
この人は父だろうか、母だろうか。
……分かっている、私がクローンである以上、この人はどちらにも当たらない。
私自身であるというのが一番近いか。
微笑んだ。
残念ながらこの人の記憶や思いは私には残っていないけれど、同族と呼べる人たちが生きて、どんな風に過ごしていたのかもわからないけれど。
私には家族がいた。鮮明に思い出せるわけでは無いけれど、いまだに霧がかかっているようにわからない人たちばかりだけれど、私を愛して私が愛した父が、兄と姉たちがいた。
衝動に打ち勝てるだけの、愛を私は受け取っていた。
「お疲れさまでした……きっと、疲れ果てて星に還ったあなたを、このような形で現世に留め続けた、置いていった私をお許しください。 同胞よ」
太古の昔、この星に在った私たち星の子と呼ばれる種族は尋常でない程の魔力を持ち、精霊に好かれ、草花を茂らせる森羅万象全てに愛されそして思うが儘に扱うことが出来る種族だった。
星の生態系の頂点に立ち、全ての生命を管理する存在として君臨していた私たちに敵はいなかったのだ。
そんな欠点など無いように見えた最強の称号をほしいままにした星の子にも、たった一つ致命的な、種を絶滅に追いやった欠点があった。
どうしようもないような、バグだとしか言いようのないその欠点は、星に還りたがるというただ一点。
救いようのない、その一点。
私もそうだが、星の子というものは産まれた瞬間からその衝動に身を焼かれ続ける。
それは理性でどうにかなるものではないし、本能とも呼べる原始的な欲求でもあるため抑え込むことが難しいのだ。だからこそその種族は瞬く間に数を減らした。
私たちにとって生きたいと願うことと星に還りたいと思うことは同義だった。たとえどれほど愚かな行為だとしても、はたから見れば自殺でしかないその行為も、そこに後悔はない。一切ない。
私は、その還りたいという感情の矛先が星では無かった。
正確には星でなくなった。私はこの星を愛していたけれど、それ以上に愛する存在があったから。
御師さまに引き取られては御師さまが、そこに姉様と兄様たちが入り込んで、最終的にそれらを失った後は弟子たちが私の帰る場所だったから。
彼らのいる、生きた闇の大陸が私の故郷になったから。
だから、私の居るべき場所はこの大陸ではない。
そう決めたのだから、だから私は必ず帰る。ずっと帰りたかった、場所に帰る。
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