白花の君

キイ子

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未知

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 「門というのは、その名の通りこの揺り籠を外界と繋ぐための唯一の出入り口でございます」

 「外界って言うのは、ここではない神域のこと? それとも下界と呼ばれる僕たちが生きていたような世界のこと?」

 「両方でございます、そしてさらに魔界と呼ばれる堕ちた魂の行きつく場所ともつながっております」

 神域がある場所は総じて天界と呼ばれるから、天界、魔界、下界の三つで全てが成り立っているということになるか。
確か天界に数多の神域が在るのと同じように下界にも多くの世界線があるといつだかに聞いた覚えがある。 同じように魔界にも完全に分かたれる空間があったりするかもしれないな。

 ひとまず今は、そっちよりも門についてのことを優先しようか、ガラハがそう言ってくるということは、外界から無理やり神域に侵入される可能性などは万に一つもないだろう。 それなら、堕ちた魂みたいな不穏なものに触れるのは大分先になるはず。

 「魔界についても今度教えてね、今は門についての説明が欲しいな」

 「かしこまりました。 ではその門ですが先ほども言った通り出入り口になります。 この神域から出るのもそこからでございますしここへの訪問もそこからになるのです。 神域の門を開くということは、対外に向けてこの神域への訪問が可能であるというお触れになるのです」

 「訪問は受けたくないけど外に出たいときはどうするの?」

 「ここに住まうものが出入りするだけなら門を開く必要はありません、その神域の主に仕えるものを遮る必要はございませんから。 実際今も食料や衣類などはわたくしたち神官が外界に出て調達しておりますからね」

 なるほど、門というのは完全に外からの侵害を防ぐための物なんだ。
僕に従ずる者は僕を害することは無いから遮ることは無いけれど、外部の者がそうであるとは限らないから外の物は通さない。

 「門を開いたら勝手に入ってくるとかも無いのでしょう?」

 「はい、それはありません。 こちらが許可を出さなければ結局この地に来ることは罷り成りません。 ですが、神というものにも順位がある以上いろいろと面倒な面があるのです」

 なるほどね。
確かに順位が絡むと人の性質上面倒なことにもなるだろう。 ましてや神となれば自負とプライドは高くなるはず。
そう言ったものは傲りを招く、自身より下位の神が招待されて、自身がならないとなればそれが傷つけられるだろう。

 「わかった。 どこも刺激したくないなら門は開かない方がいいね、私は羽化も済ませていない。 完全な神として認められてもいない段階でわざわざ敵を作りに行く必要もないだろう」

 「お察しいただきまして幸いでございます……せめてフェルガの正確な地位が分かればよろしいのですが」

 「そういえば、私の神官たちはなぜ私が高位の神であるとわかったの?」

 そう言ってロエナを見れば、彼女はハッと、今まさに何かを思い出したような顔をした。
そしてそのままガラハを見る。
ガラハはそんなロエナの視線に応えるように頷くとその場から消えた。

 「そうでした、それの説明にも関係がある神から、面通りの希望を受けているのです。 その方でしたらどこにも影響を与える事無くお招きすることが可能です」

 「そうなの?」

 「はい。 至上の神のお一人でございますので、誰も何も文句など言うことが出来ないのです」

 至上の神?
なるほど、そんな大層な神様がわざわざただの下位や中位の神に会おうとするとは思えないから、僕が高位の神であろうことが分かったということか。
それにしても至上の神とはまぁ……そんな存在が一体僕になんの用があるのだろうか。考えたところで答えの出ることではないのだが、気になって仕方が無い。

 「なんにせよ会うしか選択肢が無いよねぇ、至上の神というほどだしそれを断ることも出来ないでしょう?」

 「二の主神様本人に関して言えば断ったとしても問題は無いでしょうが……周りがうるさいかもしれませんね」

 面倒ごとは回避したい。
些細な間違いや行動でのっぴきならない事態に追い込まれるのは、もう、ごめんだ。
私は何時だって、間違った答えしか選ぶことが出来なかった。

 だから、私は結局―

 「どうなさいますか? ……フェルガ?」

 「……あ、ああ、ごめん、そうだね、会うよ……その二の主神様がどんな方なのか、情報はある?」

 少し、意識がどこか遠くに行っていたような気分だ。
何か、何かを掴めそうな気もしたけれど、その感覚はロエナに声を掛けられた瞬間に消えてしまった。
……今は、目の前の問題に集中するべきだろうな。
そう思って考えることをやめた僕の背後のロエナが、酷く引きつった顔をしていることを、僕はちゃんと知っていた。
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