封印されし黒篭手に選ばれた少年【増量版】

えん水無月

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09 後始末

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 フェイシモ村の片付けは、ファーと一緒に来たタチアナの町にいる男性達が行う事になった。
 主に、生存者の捜索と死体の埋葬。
 と、いっても、あの中で生存者は絶望的だ。
 
「じゃ、私達もいきましょうか」

 マリエルの号令でタチアナの町へ行く事になった。
 ファーがいつの間にか、マリエルの馬も持ってきたらしく、まずミントが馬に乗る。
 
「マリエル隊長」
「うん?」

 ファーとマリエルは僕を見る。
 腕は包帯だらけで首から吊るしている。
 馬は三頭、人間は四人。
 当然僕の乗る馬はない。

「タチアナですよね、歩いていきますのでお先にどうぞ」
「そうも行かないでしょ」
「そうですね、徒歩であれば日が暮れます。
 保護をしにきてますのに、一人徒歩というのは……。
 では、私のお使いください」

 気を利かせたつもりだったけど、二人に怒られてしまった。
 ファーは僕に馬を差し出す。
 僕の周りを馬に乗ったミントがぐるりと回る。

「ヴェルにい、怪我してるなら一人で乗れないのだ、一緒に乗るのだ」

 僕の横にいたマリエルが、手を叩く。

「それいいわね、どっちみち一人じゃ馬も危ないでしょうし。
 でかしたわ、ミント。
 じゃぁヴェル、好きな子に乗っていいわよ」

 言い方である。
 せめて、好きな馬に乗っていいわよ、ぐらいにして欲しい。
 ミントって子は馬の扱いが荒そうだ。
 ファーは僕を見て微笑み、マリエルは既に僕を乗せるように馬をセットし始めていた。
 断ったら気の毒というか。

「では、マルエルで」
「それが一番無難でしょうね」

 ファーも、マリエルの準備をみて、自分が乗せる選択肢はないと思ったのだろう。
 思った事を言ってくれた。
 まず僕が乗り、次にマリエルが乗る。
 背中にマリエルの体温が感じられた。
 馬に乗っている、それは別に気にしないが、フローレンスお嬢様と乗馬を下ことを思い出してしまった。
 あの時は、フローレンスお嬢様が前で、僕が後ろだったな。

「ん、ヴェルどうしたの?」
「いえ、特には」
「そ、ならいいんだけど」

 街道沿いに、先頭がファー。
 次に僕たち、最後にミントと、自然な形を取るあたり流石は聖騎士だ。
 道の前後から襲われても真ん中にいる僕達は逃げる事が出来る。

 特に何事もなく、夕暮れにはタチアナの町が見えてきた。
 襲撃の可能性も捨て切れなかったけど、あの大男はどうやら本気で見逃してくれたのか。
 タチアナの町。
 この付近では大きな町であり、宿や飲食店、警備兵の詰め所などもある。
 町の入り口で馬を降り、そのまま近くの宿へと連れて行かれる。
 一階が酒場で二階が泊まれるようになっている。
 前からあるのは知っては居たが入った事は無い。

「ヴェルにい、でっかい宿なのだ」
「ミント、彼は怪我人ですから無理をさせない事」

 ファーに怒られ少し小さくなったミント。
 その頭を優しく撫でるのはマリエルだった。

「さ、入りましょう」

 酒場へ入ると、黄色い歓声が僕らを包んだ。
 普段は酔っ払いがたむろしている酒場には今は女性、いや女の子達が居た。
 全員が青いマントをローブのように着込み、座ったり壁に寄りかかったりしている。
 軽く見て十数人って所だろう。
 その中で長身の女性が僕たちに向かってくる。

 僕とマリエルよりも頭二つ分は背が高く、髪はオレンジ色だ。
 やはり青いマントをローブ代わりにしている、他の人と違い、剣すらも大きい。
 腰では無く、背中へ背負う感じでつけているのが特徴的だった。

「よう、隊長。
 に副隊長達もおかえりっと」
「ただいま、チーちゃん」

 男っぽいガサツなしゃべり方な長身の女性。
 さすがに僕がチーちゃんと呼ぶわけにも行かないので一歩でて挨拶をする。

「ヴェルです、えっと――」
「おう。チナだ、よろしくな」

 握手をすると、横に居たファーさんがこちらを見て話す。

「全員と挨拶すると日が暮れますので、簡単に説明します。
 皆さんこちらを――、見てますね」

 確かに全員の視線が僕たちに集まり、酒場の主人さえも僕を見ている。

「こちらが今朝説明したヴェルさんです。
 客人なので故意に疲れさせないようお願いします。
 休日は明日の夜までですので各自お疲れ様でした。
 解散っ」

 紹介、それと短い号令と共に女性たちが僕を通り過ぎて次々に外に出て行く。
 手を振ったりウインクしたりとそれぞれがこちらに軽い挨拶をしながら消えていった。

「ミントもすこし買い物してくるのだ」

 ミントが喋ると、先に外に出ていたチナの名前を呼び消えていく。
 酒場には僕とマリエル、ファー。
 そして酒場のマスターだけが残った。
 
 適当な場所へ僕を座らせた。
 その対面にファーが座る、マリエルはそわそわしていた。

「さて、ヴェルさん。
 お疲れの所申し訳ありませんが、事件の事をお聞きできますか?」
「ちょっとファー。
 付いたばっかりよ、それにあんな事があったのに――」
「情報は早いほど正確です。
 騎士団として今後の対応にもかかわると思いますので」
「で、でも怪我だってしてるんだしー」
「なるほど、怪我ですか」

 ファーの目の奥が光ったようなきがした。
 この怪我は仮病だ。
 マリエルの案で隠しておきたいと、ちらっと横を向くと当然マリエルが慌てている。
 仕方が無い。

「すみません、僕からいう事は特に。
 マリエルに全て話しましたし、その、なるべく思い出したくないんです」

 思い出したくないのは本音だ。
 タチアナにだって、一緒に来てくれといわれ来ただけだ。
 何故僕が仮病まで使い、篭手を隠さなければならないのか、その秘密もすべてマリエルに丸投げ出来る。

 マリエルをちらっとみると、小刻みに首を頷いている。
 肯定の証だろう。
 ファーは顎に手を当て天井を見、少し考えた顔にになり僕を見る。
 そして微笑みに変えた。

「わかりました。
 こちらこそ申し訳ないです。
 二階の奥に部屋がありますので、休んでいてもらえると助かります。
 外出は自由ですが、念のため誰かを護衛に付かせますので連絡をお願いします。
 直ぐに何か食べれる物を持って行かせます。
 食べれない物はありますか?」
「ありがとうございます。
 特に食べれない物はないです」
「どういたしまして、では。
 ここの主人に食べ物を注文していきます。
 隊長には既にご飯を作って貰っているので、席について待っていてください」

 ご飯と聞いて目を輝かせるマリエル。

「ありがとうっ! さすが持つべき物は優秀な副官ね」
「それほどでも」

 嬉しそうにはしゃぐマリエルは、ステップしながら大きいテーブルへと陣取り料理を待っている。
 それではと、僕に握手を求めるファーに握手を返す。
 二人と別れ階段を上る途中で、急に背後からマリエルの悲鳴が聞こえた。

「いやーーーっ! ヘビだけはイヤーー。
 見てるっ見てるから目が合ったってー」
「いいえ、罰です。
 ヘビ料理のフルコースです。
 ご主人、どんどん持ってきて下さい」

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