ぜにもうけっ!

紅き鮮血に染まりし肛門

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銭儲け部

3「新入部員と10万円」

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 アブクの初期設定のままになっているメールの着信音が、薄暗い部室に鳴り響く。

「おっ、着た着た。……えーっと……」

 アブクは見やすいようにスマホを持ち上げ、短歌を詠むかの如く両手でスマホを持って目から離して見ている。
 依然として、ポカンと呆ける天音に左側に座る加奈が言う。

「こいつ〝老眼〟やから、近くのもんが見えへんの。〝老眼〟やから」
「っるせぇ、ただの〝遠視〟だ」

 アブクは画面から視線を外さず、加奈に反論する。そしてすぐに続けた。

「名前は金田一天音。十二月三十日生まれの十五歳。えーっと、実家はしがない洋菓子店を営んでおり、天音の他に四人の兄弟がいる。ほうほう、母は天音が九歳の時に事故で他界しており、父が男手一つで五人の子供を育てている。実家はあまり裕福ではない……か」

「――えぇぇっ!? どうして知ってるんですか!?」

 天音が大きな目を見開いて驚く。アブクが口にした天音の身の上は全て、寸分たがわず事実だった。

「そういうアプリがあんだよ、写メを送ると該当する人間の学校に登録されているデータがメールで送られてくる。学園非公式だがな」
「アブクが情報系の部活のヤツが開発してこっそり使ってたアプリを、脅して自分のスマホにもインストールさせたんや」

 加奈が呆れ顔で説明する。

「脅したとは失礼な、取引だ。アイツらが芸能部のアイドルたちの如何わしい写真を裏で取引してやがったからな。黙認と引き替えにしただけだ」

 アブクはニヤリと口元を歪めて、邪悪な微笑みを見せている。

「客を装って、取引現場をボイスレコーダーに録音したんだよね……」

 センマンは深くため息を吐きながら、思い出したくないと弱々しく首を振っている。



「それって……校則に違反してるんじゃ……」

 天音が言う。

「そうだな違反だ。でも、どこの部活も多かれ少なかれ違反している。一年で三百万なんて莫大な学費を稼がないといけねぇんだ。綺麗ごとじゃやっていけない」

 アブクが珍しく真剣な表情で語る。両脇の二人は少し俯いて、納得はできないがそうするしかない、とまるで大人のような、苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「で、でも――」

 それでも納得できないと天音が食い下がる、がすぐにアブクが天音の言葉を遮る。



「大人になれよ。お前、何回もため息吐きながら歩いていたのは、部活動の入部条件である、所持金を満たしてなかったんだろ? 大抵どこでも最低ラインが十万だからな」
「……そ、それはそうですけど……」

 天音は下唇を噛んで悔しそうな顔をする。アブクはそんな天音の表情を確認するように少し見つめると、続けた。

「この学園は実質、大財閥である【有栖川財閥】が運営しているから入学金や諸経費はタダだ、試験にさえ受かれば誰でも無料で入学できる。寮費もタダだし、食費も学食に限りだが無料で食える。その代わり、毎年〝三百万円〟という馬鹿みたいな学費をぼったくりやがる。払えなきゃ即退学。しかも、部活動もしくはそれに準じる経済活動によって稼いだ金しか認めねぇときたもんだ」

 アブクの語り口は怒っているという雰囲気ではなく、あくまで淡々としている。

「そして学園は入学時に〝百万円〟までの持ち込みを認めている。それを元手に増やせってわけだな。各部活、入部条件は異なるが〝最低所持金〟を定めている部活がほとんど。そしてその最低ラインが十万。最低でも十万持ってねぇやつはお呼びじゃねえってわけだな」

 アブク以外の三人は、アブクの口から次々と発せられる容赦のない現実という名の針を突き刺され、俯いたまま黙って聴いている。



「さらに学園は部活動の所得にたいして二〇パーセント、『青春税』なんて薄ら寒いネーミングの税を毎年徴収する。部活動に所属していない――まぁ所謂〝フリーランス〟ってやつだが――そいつらには割高の三〇パーセント徴収。だから大抵の生徒は部活動に何が何でも所属したがる」
 
 天音が先ほど校門から伸びるアプローチでため息をついていたのは、まさにこれらが理由だ。天音は忘れかけていた現実を突きつけられ、さらに俯き、膝の上に置いているカバンの持ち手をギュッと強く握り締める。

「天音、お前ら今年の新入生は何人だった?」

 突然投げられた質問。初対面で、天音自身はまだアブクたちから自己紹介すらされていないというのに、無礼にも呼び捨て。などという思考は天音の頭には一切なく、彼女は普通に返答した。

「えっと……確か、一万五千人ぐらいだったと思います」
「僕らが入学した時とほとんどかわらないね」

 センマンが言う。アブクはセンマンの言葉に頷いて、話を先に進める。

「そして、今年二年生に進級したのは俺たちを含めて、約一万人だ。五千人が『青春税』を支払うことができずに散った。今年の三年生は現時点で八千人。この数字は毎年それほど大きくは違わない。つまりこの学園には毎年、約三万三千人の生徒がいるということになるな」
「とんでもなく、多いですよね……」

 当然、天音はアブクが語ったことについて、入学前から、前情報として知っていた。それでも尚、改めて数字として突きつけられると、現実味が増し、ここが〝外〟とは違った場所だということを再認識させられる。

「小さい国みたいなもんやね」

 加奈が例えを交えて補足した。



「殆どの部活は〝給料制〟だ。課税されるのは部活にたいしてだけだから、自分の給料は丸々自分の取り分だ。コツコツ毎日頑張ってしっかり稼いで溜めていけば、なんとか払える金額ではある。厳しいとこもあるだろうけどな」


「さて、ここで天音さんに問題デース」
 
 これまで淡々と語っていたアブクが突然、テンションを上げた声と共に天音を指差す。

「は、はひっ!?」

 あまりに突然に訪れたクエスチョンに天音はビックリして声を裏返らせる。

「ここまま行くと恐らくキミは無所属、つまり〝フリーランス〟ということになるわけだが……部活動とは違い三〇パーも課税される『青春税』分も含め、あなたは学費を支払うために一年間でいくら稼がなくてはいけないでしょうか!」

 アブクは声こそテンションを上げてはいるが、目は依然としてダルそうに、まるで寝起きかと見まがうような表情のままになっていることが、違和感として天音の心に引っかかる。天音は慌てて思考を切り替えて、計算を始める。

「……え、えっと……三百……三十万円?」

 無謀にも指折り数えた天音。そして辛うじて導き出した答えを自身無さそうに、首を傾げながら言う。言葉の最後には明らかに〝?〟が含まれていた。天音は計算が苦手だった。

「――はぁぁぁああぁぁぁぁぁぁああ?」

 アブクは机に手を突いて立ち上がり、片方の眉と口角を吊り上げながら、天音に顔を寄せて声をあげる。天音は思わず顔を逸らした。センマンが「まあまあ」とアブクを諌めている。

「三百九十万やね」

 横から加奈が正しい答えを出し、天音に助け舟を出す。

「そうだ、それにその他諸々の生活費を含めれば最低でも四百万以上は稼がなくてはならない計算になる」
「きゅ、九十万円も取られちゃうんですね……」

 過酷な現実が天音を追い込んでいく。


「それがなんと! 部活動に所属することにより、キミが払わなくてはいけない『青春税』は六十万になるってわけだ!」

 アブクは椅子に片足を乗せ、人差し指を立てた右手を天高く突き上げて言う。

「す、すごい! 三十万円もお得!」

 わー、と拍手をする天音。

「さらに! 現状、所属できそうな部活動がなく、今まさに〝風前の灯火〟である金田一天音さんをこの部活――『銭儲け部』――に入部することを無条件で認めよう!」

 アブクが天高く突き上げていた人差し指をバッと天音に向ける。

「えぇ!? いいんですか!?」

 天音も机に手を突いて勢い良く立ち上がる。

「なんか、通販番組みたいだね」
「アホくさっ」

 センマンと加奈はそんな二人の光景を見て、肩をすくめて呟いている。



「さて、どうする? 入部するか?」
「は、はい! 不束者ですがよろしくお願いします!」

 アブクの問いに、天音が即答しておかっぱ頭を揺らして深く頭を下げる。

「あーあ、また一人詐欺師に黙れてもうた」
「アブクは口が上手いから」

 加奈とセンマンは、そんな天音を不憫だ、と生暖かい視線で見つめる。

「おし、んじゃそうだな、さっき鏡代わりにしてたお前のスマホにある、ピンクのアイコンのアプリ開いて俺が今から言うアドレスを入力してくれ」

 アブクは二人を無視してテキパキと先へ進める。

「あ、はい。ピンク……ピンク……あっ、あった」

 天音はアブクに言われるがまま操作していく。【部活動】というカテゴリーの一番下にあった【銭儲け部】という項目をタップすると、【入部する】と表示されているバナーがあった。アブクに言われた通りにそのバナーをタップする。すると、すぐにその場に居る全員のスマホが鳴る。
【金田一天音さんが入部しました】と書かれた通知が届いていた。

「おい加奈、確認しろ」

 アブクは自分のスマホに届いた通知確認するとすぐに、加奈に言う

「……はいはい、命令すんなや……」
「……?」

 主語のないアブクの命令に、説明を求めることなく、渋々従う加奈。天音は何のことだかからない、と不思議そうに見つめている。センマンは例によって苦笑い。
 加奈はスマホを少し操作して顔を上げる。

「ちゃんと部費に振り込まれとるよ、十万円。元々の残金と合せて十万……二十一円」
「よし、ご苦労。完璧だ」

 アブクは満足気に頷くと、また椅子に深く腰を下ろした。

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