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揺らいだ世界のその先へ
混ざりもの
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「よく聞いて、ルナ。今やってきた連中に見つかっては、あなたはひとたまりもなく殺されてしまう。それが嫌なら、私の近くから絶対に離れないで」
そう口にしたクラリスの表情は真剣そのもの、それはこの事態がどれほど緊迫しているのかを現していた。
ルナは初めてだ、人間とクラリスの戦いに巻き込まれるのが。
今から彼女が殺そうとしているのは、世間一般の人々には認知されていなくても、確かに人々を守るために行動している、いわば正義のヒーローだ。
吸血鬼になるまで、人知れずルナ自身を守っていたかも知れない彼らが殺されていく様を見なければならないと思うと、彼女の心が痛む。
「どうしてあの人たちは、今ここに来たの?」
「さぁて、そんなことは分からないわ。可能性があるとすれば、表裏世界がごちゃ混ぜになったとき、考え無しに能力を使いまくったからかしらね。……そうでもしなければ、あなたのお母さんを助けられなかったのだから、仕方のないことだけど」
祓魔師との鉢合わせに警戒し、気配を殺して階下へと降りていく。
怪物退治のプロ集団である彼らは、一人一人が並の怪異などものともしないほど強い。
例えクラリスであっても、ルナを守りながらとなる戦いでは、慎重にならざるを得ない。
「本当に……殺すん、だよね?」
「……ただの強盗であったなら殺さなくても十分。でも彼らは違う。生きている限り、怪異を殺し続ける。彼らに殺されない、殺させないためには、彼らを殺してしまうほかに方法は無いの」
二階部分に到達すると、二人分の足音が少しずつ近付いてきていることに気付く。
物陰に隠れ、その姿が現れるのを二人は待つ。
「こちらにも居ない……。これほど大きな城に、たった三体しか居ないというのか……?」
「住居と兵力の差が釣り合わない。間違いなく、もっと多いはずだ」
祓魔師の会話する声が響き、やがてその姿を捉えることが出来るようになる。
その瞬間、クラリスは銃を抜き、頭をめがけて発砲する。
「敵襲ッ!二階部分で敵襲ッ!」
しかしその弾丸を、不意の一撃であったにもかかわらず彼は回避し、懐より十字架をモチーフにしたであろう剣を射抜き、二人に向けて構える。
もう一人の祓魔師は一歩下がり、白銀で鋳造された大口径の拳銃を向け始めた。
「へぇ……思ったよりは練度が高そうね」
「当たり前だ。我々は正義の執行者、闇の住民であるお前たちを、一切残さず絶滅させるが、我らの使命
」
「潔く命を捨てよ、吸血鬼!」
祓魔師が発砲し、二人が身を屈めた瞬間に、もう一人が剣を振り上げて襲い掛かる。
ルナを庇いつつ回避を試みるが、先端がクラリスの腕を切り裂いた。
傷はかなり浅いものだったが、いつものようにその場で癒える様子がない。
「滅びよ悪魔、滅びよ怪異ィッ!」
怒りの叫びと共に振り回す剣、その脅威度は通常の武器とは全く比較にならない。
例えどれほど回復力に優れていようと、まともに斬撃を食らってしまえばそのまま死に至るのだろう。
聖なる力を持った武器、即ち聖剣に対して彼女たちは、あまりにも無力なのだから。
「回避を諦めよ、生存を諦めよ、お前たちに相応しいのは地獄の底だけだ!」
「そう思っているのはあなた達だけよ!私達にだって生きる権利がある!」
「妄言をほざくなァッ!」
大きく振りかぶった剣に合わせて大鎌を出現させ、その一撃を弾き返す。
大きく仰け反った祓魔師はまさに、隙の塊と言えるだろう。
対応の間に合わない祓魔師の体が左右の二つに分断される様を、ルナは直視できなかった。
「り、リカルドォォォッ!」
たった今死亡した祓魔師の名を叫びながら、後方に居た彼が拳銃を連射する。
一発一発の反動が非常に大きいらしいが、それを剛力で無理矢理に押さえつけ、クラリスの眉間を狙って何度も発砲する。
しかし、狙い所を完全に読まれた銃弾が当たるはずもなく、接近を許してしまったクラリスによって両腕が切断されてしまう。
絶叫と共に後ろへ倒れこんだ彼の胸を渾身の力で踏みつける、肉体を貫通して床に足が直接叩きつけられるほどの力で。
「貴様、リカルドとゴードンをよくも……!」
クラリスの後ろ、ルナの側から出現した二人に向けて、クラリスは再び銃撃する。
思わず身を隠した二人の祓魔師に向け、牽制するかのように乱射しながら前進、ルナを超えた辺りで大鎌に持ち替えて突撃する。
「化け物、滅ぼしてやる!」
「神に逆らう愚かな虫けらが、覚悟しろ!」
「覚悟をするのはあなた達よ、居もしない者に尻尾を振る、奴隷如きが!」
二対一での激しい攻防、漆黒の大鎌と白銀の十字剣がぶつかり合い、激しく火花を散らしている。
双方ともに譲れぬ矜持、それを全うできるのは勝者のみ。
「コイツ……ただの吸血鬼ではないぞ!」
「当たり前じゃない。その辺で簡単に狩れるような、そんなルーキーと同じに考えないで!」
力強い一撃に耐えきれず、一人の体が十字剣ごと両断される。
場所が悪かったのか、即死できずに叫んでいるそれを、クラリスは踏み潰す。
「き、貴様――」
背後から襲い掛かり、彼女の背を貫こうとした祓魔師の下顎を蹴り上げ、その体を大きく跳ね飛ばす。
意識の喪失は辛うじて免れた祓魔師だが、満足に起き上がろうと試みることすら許されず、大鎌の切っ先を心臓に突き刺され、その生涯を終えた。
「あとは一人、ね」
四人分の死体を一瞥し、確実に死んでいるのかを確認する。
その様子を見ていたルナは、恐怖にガタガタと震えるので精いっぱいだ。
「みんな……死んじゃったの?」
クラリスが守るべきはルナ自身、ここには居ないが無数の同胞、ギュンターやユカリのように親交を結べた者達も当然含まれる。
だがそうだとしても、人間であるはずの相手をここまで容赦なく殺害してしまうことが、彼女には正しいとは思えない。
「諦めなさい、ルナ。彼らと共存するのは間違いなく無理だから。……こちらがそれを望んでも、彼らは拒絶することしかしないのだから」
彼女の言葉には哀しさのようなものが感じられる。
居損d系るものならそうしたいのが、彼女の本位なのだろう。
だが、彼女たちのような怪異を一方的に害あるものと断じ、一切の弁明も許すことなく殺す祓魔師とでは、確かに共存は不可能に近い。
「……悩むだけ無駄なことよ。残りの一人、さっさと探して――」
ドス、そう音がした。
クラリスの方から、確かに。
「……ゲボォ……ゴボッ……。な、に、これ……ゴフッ……?」
クラリスの心臓を、その十字剣は貫いていた。
肉が焼ける音と僅かな煙がクラリスから立ち上り、彼女が咳き込むたびに大量の血液が失われていく。
「クラ……リス……!」
声を出すこともままならないルナが、かくりと膝をついたクラリスに手を伸ばす。
彼女の背後から投げ当てたその祓魔師は、いつか見たような醜悪な笑みを浮かべて立っていた。
そう口にしたクラリスの表情は真剣そのもの、それはこの事態がどれほど緊迫しているのかを現していた。
ルナは初めてだ、人間とクラリスの戦いに巻き込まれるのが。
今から彼女が殺そうとしているのは、世間一般の人々には認知されていなくても、確かに人々を守るために行動している、いわば正義のヒーローだ。
吸血鬼になるまで、人知れずルナ自身を守っていたかも知れない彼らが殺されていく様を見なければならないと思うと、彼女の心が痛む。
「どうしてあの人たちは、今ここに来たの?」
「さぁて、そんなことは分からないわ。可能性があるとすれば、表裏世界がごちゃ混ぜになったとき、考え無しに能力を使いまくったからかしらね。……そうでもしなければ、あなたのお母さんを助けられなかったのだから、仕方のないことだけど」
祓魔師との鉢合わせに警戒し、気配を殺して階下へと降りていく。
怪物退治のプロ集団である彼らは、一人一人が並の怪異などものともしないほど強い。
例えクラリスであっても、ルナを守りながらとなる戦いでは、慎重にならざるを得ない。
「本当に……殺すん、だよね?」
「……ただの強盗であったなら殺さなくても十分。でも彼らは違う。生きている限り、怪異を殺し続ける。彼らに殺されない、殺させないためには、彼らを殺してしまうほかに方法は無いの」
二階部分に到達すると、二人分の足音が少しずつ近付いてきていることに気付く。
物陰に隠れ、その姿が現れるのを二人は待つ。
「こちらにも居ない……。これほど大きな城に、たった三体しか居ないというのか……?」
「住居と兵力の差が釣り合わない。間違いなく、もっと多いはずだ」
祓魔師の会話する声が響き、やがてその姿を捉えることが出来るようになる。
その瞬間、クラリスは銃を抜き、頭をめがけて発砲する。
「敵襲ッ!二階部分で敵襲ッ!」
しかしその弾丸を、不意の一撃であったにもかかわらず彼は回避し、懐より十字架をモチーフにしたであろう剣を射抜き、二人に向けて構える。
もう一人の祓魔師は一歩下がり、白銀で鋳造された大口径の拳銃を向け始めた。
「へぇ……思ったよりは練度が高そうね」
「当たり前だ。我々は正義の執行者、闇の住民であるお前たちを、一切残さず絶滅させるが、我らの使命
」
「潔く命を捨てよ、吸血鬼!」
祓魔師が発砲し、二人が身を屈めた瞬間に、もう一人が剣を振り上げて襲い掛かる。
ルナを庇いつつ回避を試みるが、先端がクラリスの腕を切り裂いた。
傷はかなり浅いものだったが、いつものようにその場で癒える様子がない。
「滅びよ悪魔、滅びよ怪異ィッ!」
怒りの叫びと共に振り回す剣、その脅威度は通常の武器とは全く比較にならない。
例えどれほど回復力に優れていようと、まともに斬撃を食らってしまえばそのまま死に至るのだろう。
聖なる力を持った武器、即ち聖剣に対して彼女たちは、あまりにも無力なのだから。
「回避を諦めよ、生存を諦めよ、お前たちに相応しいのは地獄の底だけだ!」
「そう思っているのはあなた達だけよ!私達にだって生きる権利がある!」
「妄言をほざくなァッ!」
大きく振りかぶった剣に合わせて大鎌を出現させ、その一撃を弾き返す。
大きく仰け反った祓魔師はまさに、隙の塊と言えるだろう。
対応の間に合わない祓魔師の体が左右の二つに分断される様を、ルナは直視できなかった。
「り、リカルドォォォッ!」
たった今死亡した祓魔師の名を叫びながら、後方に居た彼が拳銃を連射する。
一発一発の反動が非常に大きいらしいが、それを剛力で無理矢理に押さえつけ、クラリスの眉間を狙って何度も発砲する。
しかし、狙い所を完全に読まれた銃弾が当たるはずもなく、接近を許してしまったクラリスによって両腕が切断されてしまう。
絶叫と共に後ろへ倒れこんだ彼の胸を渾身の力で踏みつける、肉体を貫通して床に足が直接叩きつけられるほどの力で。
「貴様、リカルドとゴードンをよくも……!」
クラリスの後ろ、ルナの側から出現した二人に向けて、クラリスは再び銃撃する。
思わず身を隠した二人の祓魔師に向け、牽制するかのように乱射しながら前進、ルナを超えた辺りで大鎌に持ち替えて突撃する。
「化け物、滅ぼしてやる!」
「神に逆らう愚かな虫けらが、覚悟しろ!」
「覚悟をするのはあなた達よ、居もしない者に尻尾を振る、奴隷如きが!」
二対一での激しい攻防、漆黒の大鎌と白銀の十字剣がぶつかり合い、激しく火花を散らしている。
双方ともに譲れぬ矜持、それを全うできるのは勝者のみ。
「コイツ……ただの吸血鬼ではないぞ!」
「当たり前じゃない。その辺で簡単に狩れるような、そんなルーキーと同じに考えないで!」
力強い一撃に耐えきれず、一人の体が十字剣ごと両断される。
場所が悪かったのか、即死できずに叫んでいるそれを、クラリスは踏み潰す。
「き、貴様――」
背後から襲い掛かり、彼女の背を貫こうとした祓魔師の下顎を蹴り上げ、その体を大きく跳ね飛ばす。
意識の喪失は辛うじて免れた祓魔師だが、満足に起き上がろうと試みることすら許されず、大鎌の切っ先を心臓に突き刺され、その生涯を終えた。
「あとは一人、ね」
四人分の死体を一瞥し、確実に死んでいるのかを確認する。
その様子を見ていたルナは、恐怖にガタガタと震えるので精いっぱいだ。
「みんな……死んじゃったの?」
クラリスが守るべきはルナ自身、ここには居ないが無数の同胞、ギュンターやユカリのように親交を結べた者達も当然含まれる。
だがそうだとしても、人間であるはずの相手をここまで容赦なく殺害してしまうことが、彼女には正しいとは思えない。
「諦めなさい、ルナ。彼らと共存するのは間違いなく無理だから。……こちらがそれを望んでも、彼らは拒絶することしかしないのだから」
彼女の言葉には哀しさのようなものが感じられる。
居損d系るものならそうしたいのが、彼女の本位なのだろう。
だが、彼女たちのような怪異を一方的に害あるものと断じ、一切の弁明も許すことなく殺す祓魔師とでは、確かに共存は不可能に近い。
「……悩むだけ無駄なことよ。残りの一人、さっさと探して――」
ドス、そう音がした。
クラリスの方から、確かに。
「……ゲボォ……ゴボッ……。な、に、これ……ゴフッ……?」
クラリスの心臓を、その十字剣は貫いていた。
肉が焼ける音と僅かな煙がクラリスから立ち上り、彼女が咳き込むたびに大量の血液が失われていく。
「クラ……リス……!」
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