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揺らいだ世界のその先へ
襲撃
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帰還してからのルナは、それまでとは比べ物にならない落ち込み方をしている。
数日の内に何かを口にした回数は数えるほどであり、食事や休息をとっているというよりも、生命維持を仕方なく行っていると言い換えるべき回数であった。
クラリスやオーギュストの言葉にも虚ろな返答しかせず、ほとんど部屋からも出てこなくなった。
「世界が残酷なことは、私は知っていたつもりだった。でもいくらなんでも……ルナはここまでされなきゃいけなかったの?」
一度は断絶された繋がりを復活させてしまったために起きた惨劇。
表裏世界混濁現象と名付けられた現象は、一般大衆の記憶からはいつの間にか消え去り、怪異を扱う専門機関の人間だけが調査に明け暮れていた。
だがその調査結果の中に、人から怪異になったものへの残酷な仕打ちについては、何一つとして記述がない。
「クソッ!もっと単純になれなかったものなの?世界という概念規模の相手に、どうしろってのよ……」
拒絶するのであれば、初めから自分達など存在させなければ良い筈なのにと、クラリスは怒る。
個々の怪異を存在はさせるが、それまでの繋がりを断絶させ、復活させようものならバランスを破壊してでも再び奪う。
誰にも及ばぬであろう残酷無比な事象に対する怒りの矛先を、彼女はどこにも向けられない。
「調べてみましたが、改変は最小限度で行われていたようです。ルナ様の母親とその職場内のみで大きな改変がありましたが、我々を含む大多数の人間は、改変前の記憶を保持しています」
「残酷なくせに、恐ろしく大雑把なことしか出来ないのね」
繋がりを奪おうとするならば、ルナ本人から記憶を奪ってしまえば良かったのに、そう考えずには居られない。
「それともう一つ、懸念すべき事柄がございまして……」
オーギュストの手にしていた資料には、つい二日前から近隣で発生している連続猟奇殺人の概要が載っていた。
唐突にこのようなものを渡されたクラリスは、オーギュストの意図を測りかねている。
「この手口、見覚えがありませんか?」
用意された資料のうち、半分まで読み込んだところで、クラリスは気が付いた。
生きたまま臓物を引きずり出し、目の前で食い散らかす凶行。
それは自らの手で殺害したはずの、Dr.スカーレットと同一のものであった。
「まさか……模倣犯まで現れたというの?」
「クラリス様、奴の事件はほとんど表に出ておりません。模倣のしようがないのです」
「ならばこれは……偶然の一致?」
オーギュストは首を横に振り、それが違うであろうということを行動で示す。
クラリスも考えたくはないことだが、あの残虐極まりない上に強力な怪異が復活してしまった、そう考えざるを得ない。
「くっ……。確かに私は、あの時殺したはずよ。それがどうして……」
「もしかすると、一瞬とはいえ世界が滅茶苦茶に崩壊しかけていたことと何か関係が――」
突如響いた爆音と、激しく揺さぶられる居城。
それは、一度や二度で終わらない。
「今度は一体何!?」
度重なる爆音に、自室に籠っていたルナまでもが慌てて飛び出してくる。
怪異が城を襲うことは過去にも何度かあったが、城全体を揺さぶるような爆撃を仕掛けてきた相手など、一度たりとも遭遇したことがない。
オーギュストが外の状況を確認するために、地下よりいち早く地上階へと向かった。
この調子で揺さぶられ続けては地下も危険と判断し、クラリスもルナと共に彼へと続く。
幸いにして、時刻は真夜中。
襲撃者の狙いは分からないが、吸血鬼を相手にそんな時間に襲い掛かるなど、無謀というものだ。
「流石にあれほどの衝撃ともなると、風穴がいくつも開けられている、か……」
大砲のようなものが直撃したのか、城の上層階は酷い有様となっている。
風穴から覗くと外には、五体の人型の何かと迫撃砲のようなものがいくつか設置されていた。
彼らの羽織る厚手のコートにの背、そして迫撃砲にはは十字架が刻まれ、彼らが神の使いであることを示している。
「祓魔師……!何故こんなところに?」
「あの人達が……?」
クラリスが常に警戒していた集団が、そこに居た。
神の尖兵となり、怪異の絶滅を宣言し、日夜戦い続ける組織、クラリス達の天敵と呼ぶべき神罰の執行人が、遂にクラリスの本拠地を捉えていた。
「見つからないように立ち回っていたつもりだったけど、遂に……」
「どうします、クラリス様。今なら敵はあの五人のみ、反撃するなら今しかありません」
別の個所から確認したであろうオーギュストが合流、祓魔師達は扉を破って内部へと侵入し始める。
「あなたは城の外で待機、増援に警戒して。中に入った連中は、私が仕留めるわ」
突如幕を開けた、天敵との戦闘。
事態を飲み込む間の無く、ルナは戦火へと放り出されることとなってしまった。
数日の内に何かを口にした回数は数えるほどであり、食事や休息をとっているというよりも、生命維持を仕方なく行っていると言い換えるべき回数であった。
クラリスやオーギュストの言葉にも虚ろな返答しかせず、ほとんど部屋からも出てこなくなった。
「世界が残酷なことは、私は知っていたつもりだった。でもいくらなんでも……ルナはここまでされなきゃいけなかったの?」
一度は断絶された繋がりを復活させてしまったために起きた惨劇。
表裏世界混濁現象と名付けられた現象は、一般大衆の記憶からはいつの間にか消え去り、怪異を扱う専門機関の人間だけが調査に明け暮れていた。
だがその調査結果の中に、人から怪異になったものへの残酷な仕打ちについては、何一つとして記述がない。
「クソッ!もっと単純になれなかったものなの?世界という概念規模の相手に、どうしろってのよ……」
拒絶するのであれば、初めから自分達など存在させなければ良い筈なのにと、クラリスは怒る。
個々の怪異を存在はさせるが、それまでの繋がりを断絶させ、復活させようものならバランスを破壊してでも再び奪う。
誰にも及ばぬであろう残酷無比な事象に対する怒りの矛先を、彼女はどこにも向けられない。
「調べてみましたが、改変は最小限度で行われていたようです。ルナ様の母親とその職場内のみで大きな改変がありましたが、我々を含む大多数の人間は、改変前の記憶を保持しています」
「残酷なくせに、恐ろしく大雑把なことしか出来ないのね」
繋がりを奪おうとするならば、ルナ本人から記憶を奪ってしまえば良かったのに、そう考えずには居られない。
「それともう一つ、懸念すべき事柄がございまして……」
オーギュストの手にしていた資料には、つい二日前から近隣で発生している連続猟奇殺人の概要が載っていた。
唐突にこのようなものを渡されたクラリスは、オーギュストの意図を測りかねている。
「この手口、見覚えがありませんか?」
用意された資料のうち、半分まで読み込んだところで、クラリスは気が付いた。
生きたまま臓物を引きずり出し、目の前で食い散らかす凶行。
それは自らの手で殺害したはずの、Dr.スカーレットと同一のものであった。
「まさか……模倣犯まで現れたというの?」
「クラリス様、奴の事件はほとんど表に出ておりません。模倣のしようがないのです」
「ならばこれは……偶然の一致?」
オーギュストは首を横に振り、それが違うであろうということを行動で示す。
クラリスも考えたくはないことだが、あの残虐極まりない上に強力な怪異が復活してしまった、そう考えざるを得ない。
「くっ……。確かに私は、あの時殺したはずよ。それがどうして……」
「もしかすると、一瞬とはいえ世界が滅茶苦茶に崩壊しかけていたことと何か関係が――」
突如響いた爆音と、激しく揺さぶられる居城。
それは、一度や二度で終わらない。
「今度は一体何!?」
度重なる爆音に、自室に籠っていたルナまでもが慌てて飛び出してくる。
怪異が城を襲うことは過去にも何度かあったが、城全体を揺さぶるような爆撃を仕掛けてきた相手など、一度たりとも遭遇したことがない。
オーギュストが外の状況を確認するために、地下よりいち早く地上階へと向かった。
この調子で揺さぶられ続けては地下も危険と判断し、クラリスもルナと共に彼へと続く。
幸いにして、時刻は真夜中。
襲撃者の狙いは分からないが、吸血鬼を相手にそんな時間に襲い掛かるなど、無謀というものだ。
「流石にあれほどの衝撃ともなると、風穴がいくつも開けられている、か……」
大砲のようなものが直撃したのか、城の上層階は酷い有様となっている。
風穴から覗くと外には、五体の人型の何かと迫撃砲のようなものがいくつか設置されていた。
彼らの羽織る厚手のコートにの背、そして迫撃砲にはは十字架が刻まれ、彼らが神の使いであることを示している。
「祓魔師……!何故こんなところに?」
「あの人達が……?」
クラリスが常に警戒していた集団が、そこに居た。
神の尖兵となり、怪異の絶滅を宣言し、日夜戦い続ける組織、クラリス達の天敵と呼ぶべき神罰の執行人が、遂にクラリスの本拠地を捉えていた。
「見つからないように立ち回っていたつもりだったけど、遂に……」
「どうします、クラリス様。今なら敵はあの五人のみ、反撃するなら今しかありません」
別の個所から確認したであろうオーギュストが合流、祓魔師達は扉を破って内部へと侵入し始める。
「あなたは城の外で待機、増援に警戒して。中に入った連中は、私が仕留めるわ」
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