Dark Night Princess

べるんご

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日ノ本妖魔裂傷戦線

合流の地

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「部屋はもう取ってあるの。……あなた、これくらいのホテルって泊まったことは?」


 ルナは首を横に振る。


「フフフ……なら、楽しみにしておいてね?」


 二人はホテルの中へと入っていく。
エントランスには他の客は居らず、スタッフが数人居るだけだった。

    辺りをキョロキョロと見渡す落ち着きのないルナをよそに、クラリスは一人のスタッフに声をかける。
そのスタッフは長身の男性で、黒髪をオールバックにまとめた落ち着いた雰囲気の人物だった。
年の頃は、三十代前半といったところか。
よく見ると肌の色は白く、瞳の色は青い。
クラリスと同じ白人の彼は、他のスタッフより上の立場の人間なのだろう、立ち振る舞いから漂わせる雰囲気が洗練されている。


「いつもの部屋を貸してちょうだい、ギュンター」


 彼は一瞬驚いた素振りを見せたが、にこやかに答えた。


「かしこまりました、クラリス様。ただ、お部屋の鍵はございません」


 クラリスは怪訝な顔をする。
しかし、すぐにハッと気付いたような顔に変わった。


「……オーギュストが来たのね?」


「ええ、その通りでございます。お部屋からは出られていないようですので、そのままお進みください。後程、お食事をお部屋まで」


「ありがとう。ルナ、行くわよ」


 別れ際、ルナは確かに目にしたのだ。
ギュンターの口元から覗く、尖った牙を。

 クラリスによれば、部屋というのは最上階にあるらしく、二人はエレベーターに乗り込んだ。
着くまでの間にギュンターについて聞くと、やはり彼も吸血鬼であるという。
百年ほど前のドイツで産まれ、身分を偽りながら各地を転々としていたそうだ。


「将校をやってみたり、バーテンダーをやってみたり、三ツ星シェフをやってみたり、経験豊富よ。人間だったときから温厚だったらしくてね、戦争と自衛以外では人を殺したことがないのよ」


「本当に……吸血鬼ってどこにでもいるんですね」


「木を隠すには森の中……ってとこね。まぁ、日光への耐性をつけたり、身分を誤魔化す手段を身に付けたりと、大変だけど。……最上階のスイートルームへ、ご案内致しますわ、ルナお嬢様」


 まるでオーギュストのように手を差し出し、微笑みながらウインクまでする。
ルナは赤くなり、クラリスを直視できなくなったが、手だけはしっかりと握った。
先程からクラリスのテンションが妙に高いのは、闘争の高揚が抜けていないからだろうか。

 自分の存在が場違いなのではと危惧しながら、麗しい姫君のような彼女に手を引かれ、部屋まで進む。
見たことのないような豪華な内装に、ルナの視点は定まらなくなる。
明らかに挙動不審、立派な不審者である。

 クラリスは番号の代わりに十字架が刻まれた部屋の前で立ち止まり、ノックをする。
すると扉のロックが解除され、二人は中へと入ることができた。


「随分早かったのね、オーギュスト」


 窓の外を見つめるオーギュストは振り返り、頭を下げる。
そして一点を手で指した。


「例の物が、予定より早く仕上がりましたので。どうぞ、ご確認下さい」


 指し示した先には、一つの大型のジュラルミンケース。
クラリスはそれを開き、中を改める。
すると、途端にその瞳はキラキラと輝きだした。


「あの、私も見ていいですか?」


 ルナはオーギュストに確かめる。
彼は笑顔で頷き、それを確認したルナは興味津々な様子で覗き込む。


「フフ……お帰りなさい、くろがねの我が眷属達!丁度活きの良い獲物と戦っているところなの、そこで、あなた達の力を見せて頂戴!」


 彼女達の視線の先には、漆黒の銃身に紅い文字で「I'll fuck God's ass hole!」神のケツ穴をブチ犯す!と彫られた二丁の拳銃、そして銃と同じく漆黒に染められたグローブがあった。
英語に疎いルナでも、明らかに神を侮辱していることくらいは理解できたようで、少し引いている。


「ご希望通り、以前から変わらずM1911ガバメントを基にデザインされております。装填数は七発、使用弾は.45ACP弾及び、同規格の反魔力弾。化け物と祓魔師に同等の、致命的な損傷を与えられます。夜間のみに限りますが、専用のマガジンを換装すれば、クラリス様の魔力そのものを撃ち出すことも可能です」


「作動方式と連射速度は?」


「作動方式は元々の銃と変わらずです。連射速度は最高で秒間二十発、通常の拳銃では銃のほうが付いていけませんが、この二丁の堅牢さとあなたの膂力であれば……」


「……フフ、火力は約五倍増ってとこかしら。以前は普通の弾に私の魔力を纏わせたものしか撃てなかったから」


 クラリスは、新しいおもちゃを買ってもらった子供のような表情で二丁を手にしている。
しっかりとグローブをはめ、様々な射撃姿勢やリロードアクションをとって遊んでいる。
万が一に備え、マガジンから弾は抜いてあるようだが、銃口が時々ルナに向き、その度にルナは驚いて身を屈めてしまう。


「素材のせいかしら、かなり重くなったわね」


「一丁につき、4kgとなっております。以前の倍ですが……あなたには問題ないのでは?」


「ええ、モチロン!もっと重たいくらいが丁度いいところだけど、でも満足な出来よ!」


 子供のようにはしゃぐクラリスに、ルナは付いていけなくなる。
だが、新たな一面を垣間見ることが出来た喜びも無くはない。
このような彼女の姿を見ることなど、これまで一度だってなかったのだから。


「それと、今回の標的の情報も得られました」


 オーギュストの言葉を耳にしたクラリスは、子供のような表情からいつものような落ち着いた表情へと変わる。
そして銃とグローブを片付け、言葉を吐き出す。


「随分と耳が早いのね、オーギュスト。既に一度殴りあったことも知っていたりして?」


「……遭遇されましたか、あの女に」


    新聞の一面を飾ってしまった怪異、口裂け女。
クラリスの懸念は複数あるが、一番の懸念は外部勢力の介入だ。
ただの人間に過ぎない警察官や機動隊程度ならばどうと言うこともないが、それとは別に対怪異のスペシャリストが独自に行動をし始めると、状況は非常に悪くなる。
ギュンターやユカリなどの好戦的ではない怪異であっても、祓魔師と呼ばれるそのスペシャリストは無差別に殺してしまうのだ。
一般市民にとっては、表舞台には現れない組織とは言え正義の使徒なのだろうが、クラリス達のような怪異側には迷惑極まりない話である。


「面倒臭くなる前に、さっさとぶち殺しておきたいところよ。……手元に武器も増えたことだし……ね?」


    いつもの恐ろしい笑みを浮かべたクラリスは、口裂け女の情報を集めるよう、オーギュストに命ずる。
そして夜が明ける直前、ルナが眠りについた後に自身もその場から立ち去り、戦いのために動き始めた。
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