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第9話 どうしても昼飲みがしたい女が楽しむ脳内沖縄バカンス
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餃子と紹興酒での昼飲みで、すっかりその贅沢で自由な娯楽の魅力に憑りつかれてしまった歌織は、今日も今日とて詩乃に声をかけ、昼飲みをしに街へと繰り出していた。
そうして、さて今日は何処で飲もうか……なんて街をふらふらしている最中、ふと詩乃が立ち止まり、商店街の一角にある店を指さした。
歌織がそちらへ視線を向けてみると、可愛らしいシーサーが描かれた暖簾がかかった木製の扉のお店が目に入ってきた。
よくよく見ればハイビスカスの花の飾りも飾りつけられている。
何となく陽気で明るい、南国を思わせる飾りつけだ。
「あんな店あったんだ?」
ただ目に入っていなかっただけか、新しく出来た店なのかはわからないが、歌織が少し驚いたような声をあげた。
「あの感じだと沖縄料理のお店かな?」
「ホラ、かおりん、沖縄行ったことないって言ってたよね。あそこ行ってみない?」
「……沖縄料理もゴーヤーチャンプルーくらいしか食べたことないし……。沖縄のお酒飲んでみたいな」
「おっけ~。それじゃあ、決まり! 行こ~!」
そんな風に二人はガラガラと横開きのドアを開いて入店する。
曲調はゆったりとしているが、軽快さを感じる沖縄民謡らしき音楽が流れる店内には、数人の客が席に座り、のんびりとした雰囲気でお猪口を傾けている様子だった。
常連客なのだろう。
店員と親しげに話をしている。
歌織と詩乃も明るい女性店員に案内され、テーブル席に腰を下ろす。
店内はテーブル席が数席あるがさほど広くはない、こじんまりとした印象を受けるが、所狭しと沖縄を思わせる雑貨が置かれていたり、色鮮やかでカラフルなポスターが貼られていて、何だか実際に旅行で沖縄に来たような気分にさせられた。
沖縄に行ったことのある詩乃は、物珍しさできょろきょろする歌織をニコニコ見守りながら、メニュー表を歌織の方へと開いて見せる。
「かおりん、何か気になるものある? 食べたいものあるならそれ頼もうよ」
歌織は興味深そうに開かれたメニューを眺めるが、見慣れない単語の羅列にメニューの名前だけを見てもいまいちピンとこない。
「うーん……、そうだなぁ。名前だけ見てもわかんないし、笹瀬のお勧めとかない? あとはお酒に合うものとか。……あ、お酒は泡盛飲みたい!」
詩乃はその言葉に得意げにニヤッと笑って、おっけーおっけーと頷き、テキパキとした慣れた様子で店員に注文を伝えて行く。
間もなくして、店員が二つのびいどろガラスのグラスに入った泡盛と、緑色のプツプツした小さな粒の沢山ついた海藻?のようなものが乗ったお皿を運んで来た。
「海ぶどうだよ、ほら食べてみて食べてみて」
「海ぶどう」
なるほど小さなぷつぷつが付いている様子はぶどうと似ている気もする。
照明の光を反射してキラキラ緑色にきらめく姿は少し幻想的ですらあった。
歌織は興味津々ながら、少しばかり恐る恐る箸先でその一房を摘み、まじまじと見つめてから、口にぽいっと放り込んだ。
ぷちぷちっとした独特の食感の後、口の中に広がったのはみずみずしさと、少しの塩み。
お酢で味付けをしてあるのだろう、ほんのりと酸味を感じる。
「……お!」
食感の新鮮さと面白さに、歌織は思わず口元を手で押さえて、目をぱちくりとさせる。
「うん、美味しい」
「ふふ。美味しいよね。私も好きなんだ~!」
ぷちぷちする食感が楽しくて、歌織はついぽいぽいと次々に箸で摘まんでは口に放り込む。
そんな歌織の様子に詩乃も満足げだ。
「……さ、それじゃあ早速お酒の方も飲んでみよ! あ、度が強いから気を付けて飲んでね」
詩乃がそんな風に歌織に注意喚起してくるのは初めてのことで、歌織は少し首を傾げた。
確かに初めて飲む酒ではあるが、普段から日本酒だとか焼酎だとかワインだとか、まぁまぁ色々飲んでいるし、その中には度数が高いものだってあった。
今更度数がちょっと高いくらいでそんなに言うほどのことかなぁ?なんて軽く考えていたのだ。
だから、歌織は詩乃の言葉は、うんうん……なんて軽く流して、綺麗なびいどろガラスのグラスを手に取った。
そして一口それを口に含んだ瞬間に、歌織は詩乃が最初に注意した意味を理解したのだ。
「……んむっ……!?」
まずはガツンとパンチの利いた強いアルコールの味!
ついつい普段の調子でぐいっと多めに口の中に流し込んでしまった歌織は思わず咽そうになってしまった。
「……あーあ……だから言ったのに……」
詩乃は少しだけの呆れ顔で笑っている。
歌織はなんとか最初の一口目を飲み下すと、次からはちょびちょびとだけ口へ入れて、少しずつ飲むことにする。
そんな風にゆっくりと飲んでみれば、パンチの効いた酒の味に続いて、口の中には芳醇な香りと深いコクがじんわりと広がっていく。
まろやかで甘い風味はお米のものだろうか……?
「これは一気飲みは出来ないお酒だったわー……」
歌織がしみじみとした調子でほうっと大きく息を吐いた。
そんな歌織を眺めながら、詩乃はちびちびとグラスを傾けている。
「笹瀬ちゃんの忠告をちゃんと利かないからそうなるんだよぉ」
「いやー……だって、こうグラスに入ってるとぐいって飲んじゃうんだよね……」
「あはは。でも、沖縄の人は泡盛もぐいぐい行けちゃうらしいよ」
「えぇ……。お酒強過ぎ……」
そんな風に話しているうちに詩乃が頼んでおいたつまみも次々とテーブルへとやって来る。
新鮮なお刺身に、ニンジンの千切りと卵を炒めたニンジンシリシリや、木綿や絹豆腐よりもどっしりした印象の島豆腐の厚揚げ。
そして、歌織に取っては見慣れない料理がもう一つ。
醤油皿くらいの小さなお皿に、一辺が1㎝くらいのキューブ状の赤い塊がちょこんと乗っている。
とろっとした茶色のタレ?がかかっているような見た目だが、一体これが何なのか、歌織にはさっぱり想像がつかない。
「……笹瀬、これなに?」
「豆腐ようだよ。知らない?」
「豆腐よう? 聞いたことないけど、有名なの?」
「うん、チーズみたいな発酵食品で――………」
名前に"豆腐"とあるくらいだから豆腐なんだろうけれど、ようってなんだ?と歌織は首を傾げる。
それに、豆腐なら島豆腐と言うのも出て来ていたし、知らなかったけど沖縄って豆腐が名物だったっけなんて思ったりもした。
しかし、それにしても見た目と言い匂いと言い一風変わった雰囲気を醸し出している。
「と、まぁ、折角だしまず食べてみなって。……あ、一口で食べちゃ駄目だよ。ちょっとずつ食べてね」
「……?」
歌織はその言葉に少しばかり怪訝そうに眉を顰めるが、泡盛の件もある。
今度は素直に詩乃の言う通りにすることにする。
警戒しつつ箸の先で豆腐ようの角をすっと切り分けると口にぽいっと放り込んだ。
「あ」
幾分慌てたような詩乃の声が聞えたか聞こえないかのその瞬間だった。
途端に口の中に広がった独特な風味と癖の強い味の衝撃に歌織が耐え切れずに悶絶した。
泡盛の時も強烈だったが、さらにその上を行く、予想外のパンチの効いたその衝撃に思わずテーブルに突っ伏してしまった。
「~~~~っっっっっっっ!!!!!!?」
「あ~………」
本日2度目の呆れたような声も、もう歌織には届いていない。
「うっ……な、なななな……これぇ……」
「……かおりん取り過ぎ取り過ぎ、一欠片とかじゃなくて……、もっと、……こう箸先でちょっとだけ削って、それを舌に乗せるくらいで……」
詩乃はそう言って、自分の箸の先にほんの少しだけ豆腐ようをすくうようにすると、口へ運んだ。
「……そ、それを先に言ってよぉ……」
歌織は恨めし気な声を上げて詩乃に抗議するが、「ちゃんと忠告はしました~」と詩乃は悪びれずに豆腐ようをつついて、グラスから泡盛を煽っている。
「うぐぐ……、沖縄……強烈過ぎる……ちょっとずつって言っても、どのくらいならってわかんないじゃん……? くっそう……先に笹瀬に食べさせてから食べるべきだった……」
歌織はぶつぶつと呟きながらも何とか復活して、詩乃を恨めし気に見やりながらも、豆腐ように再チャレンジを試みる。
箸の先っぽにほんの少しだけ欠片……とも言えないような分量をほんの少しだけ乗せて、口の中へと運んだ。
「……こ、このくらいなら……」
「あー……でも、かおりん。別に無理して食べなくても、なんなら笹瀬が食べるから大丈夫だよぉ?」
詩乃の声は、さすがに少しだけ心配げだ。
珍しいものを喜ぶ歌織を驚かせたくて頼んだは良いが、苦手な人が多いのもわかる料理である。
本当に食べられないものを無理やり食べさせたい訳ではないし……と急に心配になってしまったのだ。
しかし、歌織の方も、もう半ば覚悟を決めた様子で舌の上に乗せそれを味わっている。
歌織からすれば、目の前の友人が美味しいと思って紹介してくれたそれを、正しい食べ方で味わいもせずにギブアップなど出来ようか。(いや、出来ない。)
「………」
「………」
真顔のままもぐもぐと暫く口を動かした後、歌織はすっと静かに泡盛の注がれたグラスを手に取り、口元へと運ぶ。
そして無言のまま泡盛を口へと流し込み、こくりとその液体を飲み下す。
「………」
「………」
その様子を、詩乃も少し緊張した面持ちで見守っている。
「………」
「……えっと、…………かお、りん……?」
「………………私、行けるわ、これ」
大真面目な顔で、静かに……しかし力強くそう報告した歌織に、詩乃は、歌織がこの瞬間"飲兵衛"としてのレベルを一つ上げてしまったようだな……と確信したのだった。
「チーズみたいって言われてるって程には、私はチーズみは感じないけど……、独特のクセみたいのが後を引くって言うか……」
「沖縄の人はこれをちまちま味わいながら、何時間もお酒を飲んだりするらしいよ~」
「へぇ~」
脳内に、抜けるような青い空と澄み切った海を眺めながら、のんびりとお酒を飲んでいる人々の姿をイメージする。
仕事のことなんて忘れて、少し汗ばむくらいの陽気の中、冷えた泡盛を少しずつ口へと含みながら、時折箸の先にくっつける程度の豆腐ようを舐めるようにして味わう。
店内に流れている沖縄民謡も手伝って、気分は沖縄へのバカンス中だ。
歌織は、実際には沖縄へ行ったことなんてなくて、知っていた沖縄料理もゴーヤーチャンプル―とスパムお握り程度だし、海と大きな水族館がある……くらいしか知らなかったのだが、今日一日だけで沖縄のことが好きになってしまった。
「……それで、かおりん的に沖縄料理では何が一番おいしかった?」
「海ぶどうとニンジンシリシリ」
そこは豆腐ようって言うとこじゃないの!?と言う詩乃の声も、既にほろ酔いの歌織には心地よく響いていた。
そうして、さて今日は何処で飲もうか……なんて街をふらふらしている最中、ふと詩乃が立ち止まり、商店街の一角にある店を指さした。
歌織がそちらへ視線を向けてみると、可愛らしいシーサーが描かれた暖簾がかかった木製の扉のお店が目に入ってきた。
よくよく見ればハイビスカスの花の飾りも飾りつけられている。
何となく陽気で明るい、南国を思わせる飾りつけだ。
「あんな店あったんだ?」
ただ目に入っていなかっただけか、新しく出来た店なのかはわからないが、歌織が少し驚いたような声をあげた。
「あの感じだと沖縄料理のお店かな?」
「ホラ、かおりん、沖縄行ったことないって言ってたよね。あそこ行ってみない?」
「……沖縄料理もゴーヤーチャンプルーくらいしか食べたことないし……。沖縄のお酒飲んでみたいな」
「おっけ~。それじゃあ、決まり! 行こ~!」
そんな風に二人はガラガラと横開きのドアを開いて入店する。
曲調はゆったりとしているが、軽快さを感じる沖縄民謡らしき音楽が流れる店内には、数人の客が席に座り、のんびりとした雰囲気でお猪口を傾けている様子だった。
常連客なのだろう。
店員と親しげに話をしている。
歌織と詩乃も明るい女性店員に案内され、テーブル席に腰を下ろす。
店内はテーブル席が数席あるがさほど広くはない、こじんまりとした印象を受けるが、所狭しと沖縄を思わせる雑貨が置かれていたり、色鮮やかでカラフルなポスターが貼られていて、何だか実際に旅行で沖縄に来たような気分にさせられた。
沖縄に行ったことのある詩乃は、物珍しさできょろきょろする歌織をニコニコ見守りながら、メニュー表を歌織の方へと開いて見せる。
「かおりん、何か気になるものある? 食べたいものあるならそれ頼もうよ」
歌織は興味深そうに開かれたメニューを眺めるが、見慣れない単語の羅列にメニューの名前だけを見てもいまいちピンとこない。
「うーん……、そうだなぁ。名前だけ見てもわかんないし、笹瀬のお勧めとかない? あとはお酒に合うものとか。……あ、お酒は泡盛飲みたい!」
詩乃はその言葉に得意げにニヤッと笑って、おっけーおっけーと頷き、テキパキとした慣れた様子で店員に注文を伝えて行く。
間もなくして、店員が二つのびいどろガラスのグラスに入った泡盛と、緑色のプツプツした小さな粒の沢山ついた海藻?のようなものが乗ったお皿を運んで来た。
「海ぶどうだよ、ほら食べてみて食べてみて」
「海ぶどう」
なるほど小さなぷつぷつが付いている様子はぶどうと似ている気もする。
照明の光を反射してキラキラ緑色にきらめく姿は少し幻想的ですらあった。
歌織は興味津々ながら、少しばかり恐る恐る箸先でその一房を摘み、まじまじと見つめてから、口にぽいっと放り込んだ。
ぷちぷちっとした独特の食感の後、口の中に広がったのはみずみずしさと、少しの塩み。
お酢で味付けをしてあるのだろう、ほんのりと酸味を感じる。
「……お!」
食感の新鮮さと面白さに、歌織は思わず口元を手で押さえて、目をぱちくりとさせる。
「うん、美味しい」
「ふふ。美味しいよね。私も好きなんだ~!」
ぷちぷちする食感が楽しくて、歌織はついぽいぽいと次々に箸で摘まんでは口に放り込む。
そんな歌織の様子に詩乃も満足げだ。
「……さ、それじゃあ早速お酒の方も飲んでみよ! あ、度が強いから気を付けて飲んでね」
詩乃がそんな風に歌織に注意喚起してくるのは初めてのことで、歌織は少し首を傾げた。
確かに初めて飲む酒ではあるが、普段から日本酒だとか焼酎だとかワインだとか、まぁまぁ色々飲んでいるし、その中には度数が高いものだってあった。
今更度数がちょっと高いくらいでそんなに言うほどのことかなぁ?なんて軽く考えていたのだ。
だから、歌織は詩乃の言葉は、うんうん……なんて軽く流して、綺麗なびいどろガラスのグラスを手に取った。
そして一口それを口に含んだ瞬間に、歌織は詩乃が最初に注意した意味を理解したのだ。
「……んむっ……!?」
まずはガツンとパンチの利いた強いアルコールの味!
ついつい普段の調子でぐいっと多めに口の中に流し込んでしまった歌織は思わず咽そうになってしまった。
「……あーあ……だから言ったのに……」
詩乃は少しだけの呆れ顔で笑っている。
歌織はなんとか最初の一口目を飲み下すと、次からはちょびちょびとだけ口へ入れて、少しずつ飲むことにする。
そんな風にゆっくりと飲んでみれば、パンチの効いた酒の味に続いて、口の中には芳醇な香りと深いコクがじんわりと広がっていく。
まろやかで甘い風味はお米のものだろうか……?
「これは一気飲みは出来ないお酒だったわー……」
歌織がしみじみとした調子でほうっと大きく息を吐いた。
そんな歌織を眺めながら、詩乃はちびちびとグラスを傾けている。
「笹瀬ちゃんの忠告をちゃんと利かないからそうなるんだよぉ」
「いやー……だって、こうグラスに入ってるとぐいって飲んじゃうんだよね……」
「あはは。でも、沖縄の人は泡盛もぐいぐい行けちゃうらしいよ」
「えぇ……。お酒強過ぎ……」
そんな風に話しているうちに詩乃が頼んでおいたつまみも次々とテーブルへとやって来る。
新鮮なお刺身に、ニンジンの千切りと卵を炒めたニンジンシリシリや、木綿や絹豆腐よりもどっしりした印象の島豆腐の厚揚げ。
そして、歌織に取っては見慣れない料理がもう一つ。
醤油皿くらいの小さなお皿に、一辺が1㎝くらいのキューブ状の赤い塊がちょこんと乗っている。
とろっとした茶色のタレ?がかかっているような見た目だが、一体これが何なのか、歌織にはさっぱり想像がつかない。
「……笹瀬、これなに?」
「豆腐ようだよ。知らない?」
「豆腐よう? 聞いたことないけど、有名なの?」
「うん、チーズみたいな発酵食品で――………」
名前に"豆腐"とあるくらいだから豆腐なんだろうけれど、ようってなんだ?と歌織は首を傾げる。
それに、豆腐なら島豆腐と言うのも出て来ていたし、知らなかったけど沖縄って豆腐が名物だったっけなんて思ったりもした。
しかし、それにしても見た目と言い匂いと言い一風変わった雰囲気を醸し出している。
「と、まぁ、折角だしまず食べてみなって。……あ、一口で食べちゃ駄目だよ。ちょっとずつ食べてね」
「……?」
歌織はその言葉に少しばかり怪訝そうに眉を顰めるが、泡盛の件もある。
今度は素直に詩乃の言う通りにすることにする。
警戒しつつ箸の先で豆腐ようの角をすっと切り分けると口にぽいっと放り込んだ。
「あ」
幾分慌てたような詩乃の声が聞えたか聞こえないかのその瞬間だった。
途端に口の中に広がった独特な風味と癖の強い味の衝撃に歌織が耐え切れずに悶絶した。
泡盛の時も強烈だったが、さらにその上を行く、予想外のパンチの効いたその衝撃に思わずテーブルに突っ伏してしまった。
「~~~~っっっっっっっ!!!!!!?」
「あ~………」
本日2度目の呆れたような声も、もう歌織には届いていない。
「うっ……な、なななな……これぇ……」
「……かおりん取り過ぎ取り過ぎ、一欠片とかじゃなくて……、もっと、……こう箸先でちょっとだけ削って、それを舌に乗せるくらいで……」
詩乃はそう言って、自分の箸の先にほんの少しだけ豆腐ようをすくうようにすると、口へ運んだ。
「……そ、それを先に言ってよぉ……」
歌織は恨めし気な声を上げて詩乃に抗議するが、「ちゃんと忠告はしました~」と詩乃は悪びれずに豆腐ようをつついて、グラスから泡盛を煽っている。
「うぐぐ……、沖縄……強烈過ぎる……ちょっとずつって言っても、どのくらいならってわかんないじゃん……? くっそう……先に笹瀬に食べさせてから食べるべきだった……」
歌織はぶつぶつと呟きながらも何とか復活して、詩乃を恨めし気に見やりながらも、豆腐ように再チャレンジを試みる。
箸の先っぽにほんの少しだけ欠片……とも言えないような分量をほんの少しだけ乗せて、口の中へと運んだ。
「……こ、このくらいなら……」
「あー……でも、かおりん。別に無理して食べなくても、なんなら笹瀬が食べるから大丈夫だよぉ?」
詩乃の声は、さすがに少しだけ心配げだ。
珍しいものを喜ぶ歌織を驚かせたくて頼んだは良いが、苦手な人が多いのもわかる料理である。
本当に食べられないものを無理やり食べさせたい訳ではないし……と急に心配になってしまったのだ。
しかし、歌織の方も、もう半ば覚悟を決めた様子で舌の上に乗せそれを味わっている。
歌織からすれば、目の前の友人が美味しいと思って紹介してくれたそれを、正しい食べ方で味わいもせずにギブアップなど出来ようか。(いや、出来ない。)
「………」
「………」
真顔のままもぐもぐと暫く口を動かした後、歌織はすっと静かに泡盛の注がれたグラスを手に取り、口元へと運ぶ。
そして無言のまま泡盛を口へと流し込み、こくりとその液体を飲み下す。
「………」
「………」
その様子を、詩乃も少し緊張した面持ちで見守っている。
「………」
「……えっと、…………かお、りん……?」
「………………私、行けるわ、これ」
大真面目な顔で、静かに……しかし力強くそう報告した歌織に、詩乃は、歌織がこの瞬間"飲兵衛"としてのレベルを一つ上げてしまったようだな……と確信したのだった。
「チーズみたいって言われてるって程には、私はチーズみは感じないけど……、独特のクセみたいのが後を引くって言うか……」
「沖縄の人はこれをちまちま味わいながら、何時間もお酒を飲んだりするらしいよ~」
「へぇ~」
脳内に、抜けるような青い空と澄み切った海を眺めながら、のんびりとお酒を飲んでいる人々の姿をイメージする。
仕事のことなんて忘れて、少し汗ばむくらいの陽気の中、冷えた泡盛を少しずつ口へと含みながら、時折箸の先にくっつける程度の豆腐ようを舐めるようにして味わう。
店内に流れている沖縄民謡も手伝って、気分は沖縄へのバカンス中だ。
歌織は、実際には沖縄へ行ったことなんてなくて、知っていた沖縄料理もゴーヤーチャンプル―とスパムお握り程度だし、海と大きな水族館がある……くらいしか知らなかったのだが、今日一日だけで沖縄のことが好きになってしまった。
「……それで、かおりん的に沖縄料理では何が一番おいしかった?」
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